練馬のガストで見知らぬおばちゃんから告白された話
今から8年前の出来事だが、テーブルに戻ってきた兄は、困惑した表情で言った。
「ドリンクバーのとこにいたら、知らないおばちゃんがやってきて、『あの〜、中村洋太さんですよね?』って聞かれたんだけど」
「え!? wwwwww」
コンサートを聴きに、母と兄と3人で練馬を訪れたときのことだ。終演後に入った駅前のガストで、その「事件」は起こった。
「それで?」
「『あ、洋太は私の弟です』って言ったよ。ほら、あそこに立ってる方、お前の知り合いじゃないの?」
「いや、、、見覚えないな」
「でも、向こうは知ってるんだろ。ちょっと、挨拶してこいよ」
ぼくはその方のところへ行った。
「こんにちは。あの、中村洋太ですが、、、失礼ですが、どちら様でしょうか?」
そして、その方の突然の告白に衝撃を受けた。
「実は、あなたがヨーロッパを自転車で旅された際に、協賛した者です」
「え、、、?」
「ムラカミヒロキという息子の名前で、お金を振り込ませていただきました」
「ムラカミヒロキさん、、、あ!」
ぼくはその名前に聞き覚えがあった。
「覚えています!通帳記入したら、知らない方のお名前で振り込まれていたので、、、どなたかなと思っていたんです。お礼を伝えることもできず。ムラカミさん。そうでしたか。あのときは、本当にありがとうございました。おかげさまで、ヨーロッパを自転車で旅をすることができました。こんなところでお会いするなんて、すごい偶然ですね」
人生で1、2回しか訪れたことのない練馬の、たまたま入ったガストで。こんな偶然あるんかいな。
「でも、どうしてぼくのことを知ったんですか?」
「息子が早稲田大学に通っていまして、持って帰ってきた早稲田ウィークリーの記事を読んで、中村さんのことを知りました。それで協賛しました。ブログが面白くて、いつも楽しみにしていましたよ」
その早稲田ウィークリーの話は、ちょうど昨日の記事でも書いたところだ。
早稲田大学が毎週発行していたフリーペーパー(現在はWebマガジン)で、キャンパス内のいたるところに置かれていた。当時「若者の海外旅行離れを食い止める」という旅の目標があったため、まずは早大生たちに自分の挑戦を知らせ、応援してもらいたいと考えた。
2010年5月、ぼくは「早稲田ウィークリー」のオフィスを飛び込みで訪ね、「自分の記事を掲載していただけないでしょうか」と頼んだ。想いが伝わり、特別に「学生注目!」というコーナーで掲載していただくことができた。その記事を、ムラカミさんは読んでくださったのだ。
まさかたまたま訪れた練馬のガストで、当時のお礼を言える日がくるなんて思ってもいなかったから、本当に驚きの出来事だった。しかし、この方とのやりとりには、まだ続きがあった。
ガストでの出会いから1年後、会社のメールを開くと、ムラカミさんからメールが届いていた。なんでも、少し前に開催した講演会に、こっそり参加していたというのだ。
「先日の中村さんの講演会に参加させていただきました。『できるかできないかではなく、やるかやらないか』『起こることは偶然ではなく必然』というのを体感できる人というのは、今51歳の私が見回しても実は少数派です。
『たまたま』という言葉が多かったですね。たまたまってこと、みんなにあると思っていたけど、全然ない人が多いんですよ。色々なことはアンテナが立っていないとスルーするのかもしれないです。 講演会を聴けて本当に良かったです。お互いに頑張りましょう。まだまだやるべきこと、できることはありますね」
そんなメッセージに、とても嬉しくなった。ガストでの出会いも、きっと必然だったんだなと感じる。
最後に、ぼくの好きなMITメディアラボ石井裕副所長の言葉を紹介しよう。
「発想において『レシピ』や『方程式』のようなものは存在しません。ハッブル宇宙望遠鏡から送られてきた写真から、何をインスパイアされるかはわかりません。インスパイアされる側の目、耳、心の琴線が張りつめていることが大事です。それにはあらゆる偶然を偶然と受け止めず、それを必然と考えて意味を解釈することが重要です。そういう思考法が、自分の見たものを新しい発想へとつなげる燃料になっています」
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