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静岡・山梨・長野の旅(2)安曇野での出会い

旅の2日目。6時半に起きて朝風呂に入り、ホテルの朝食へ。

昨日遊んだ友人も一緒に朝ごはんを食べるため、ホテルにやってきた。すると、彼から手紙を渡された。昨夜、娘のみうちゃんがぼくに書いてくれたものらしい。ぼくが猫好きと知って、猫の封筒を選んでくれたという。

「ようたへ きのういっしょにあそんでくれてありがとう。つぎはみうんちにあそびにきてね!!だいすき みうより」

ひらがなで一生懸命書いてくれた。ぼくもお返しの手紙を書いて友人に渡した。昨日は家に帰ってから、ぼくの名前を忘れないようメモ帳に名前を書いてくれたのだそう。それを聞いて嬉しかった。また次回会うのが楽しみだ。

同封されていた似顔絵

ありがたいことに、友人が車で甲府まで送ってくれることになり、9時半に宿を出発した。1時間半、色々と雑談しているうちに甲府に着き、ぼくのリクエストで「かんざし」という中華料理屋へ行った。

ここは数ヶ月前、「オモウマい店」というぼくの好きなテレビ番組で紹介されていた店。

テーブルから厨房の様子が見える店の造りになっていて、そこでは店主がキレッキレの動きでどんどん調理しているのだ。その動きがあまりにおもしろく、いつか機会があれば生で観てみたかった。その念願がかなった。

エビマヨと麻婆豆腐と餃子を頼み、厨房に目をやると、本当にテレビで観たとおりの面白い動きをしていた。料理もおいしかったし、大満足だった。ご飯は普通盛りで頼んだのに、出てきたのは特盛サイズでそれも驚いた。最後はお腹がはち切れそうだった。

12時26分発の特急あずさに乗りたかったので、急いで甲府駅に送ってもらい、友人とお別れ。2日間ありがとう! 電車にも無事間に合った。

ここから安曇野市へ向かうのだが、まず甲府から松本までの区間は、特急あずさに乗る。ホームに降りると、切符を見ながら「どのあたりにいたらいいんだろうね?」と困っている外国人カップルがいた。

「何号車?」と切符を覗き込み、「12号車」「ぼくも12号車。いちばん奥です」「ありがとう」そして一緒に奥へ向かうなかで、どうも話してるのがスペイン語のような感じがしたので、「スペインから?」と聞いてみた。

「そう」
「スペインのどこですか?」
「バルセロナよ」
「それは素晴らしい」
「来たことある?」
「あります。昔、バルセロナから自転車で、ニースやジェノバの方まで行ったんです」
「そうなの!じゃあ、ジローナなどを通ったのね?」
「はい、ジローナやフィゲラスを通りました」
「フィゲラス!」

まさか日本人からそんな土地の名前を聞くとは彼女たちも思ってなかっただろう。笑顔で驚いてくれた。

12号車の停車位置で待ちながら、ぼくがバルセロナからフィゲラスまで走ったときの写真を見せると、

「あら、これはカレーリャね!」
「そう、カレーリャ。美しいビーチだった」
「彼はこの近くのマタロ出身なのよ」
「マタロ! そこを通ったのを覚えています」

それはバルセロナから地中海沿いに30km北西に進んだあたりにある街だった。

大学時代に訪ねたカレーリャのビーチ

ちょうど特急あずさがやってきた。記念写真を撮り、「Have a nice trip!」とお決まりの挨拶をして車内で別れた。彼女たちは今日松本に泊まり、明日は登山で上高地へ行くらしい。

ぼくは松本で大糸線に乗り換え、登山客や地元の高校生たちとともに揺られ、穂高駅で降りた。途中、車窓からは安曇野の田園風景や雄大な北アルプスを眺めることができた。

14時半に穂高駅に到着し、駅前の「しなの庵」でレンタサイクルをした。1時間200円と安い。おまけに余分な荷物を預かってくれて助かる。3時間自転車を借りることにした。

穂高駅から坂を下ってしばらく走ると、一面に広がる水田と青空の景色が美しかった。安曇野、初めて来たが良いところだ。

2.5km走って着いたのは、日本最大級のわさび農場である「大王わさび農場」だ。安曇野はわさびの里。わさびが作られているところを一度この目で見てみたかった。

広い園内を一周して、最後に名物であるわさびのソフトクリームを食べた。辛くはないが、確かにツーンとわさびの風味はする。まずくはない。が、バニラの方がうまい。初めてのものを味わうことに価値があるから、いいんだけど。

ただ正直に言えば、ここはもう少しわさびに対する理解が深まる場所だと思っていた。しかし、わさびの畑がバーンと長く広がっていて、あとはお土産屋さんや飲食店があるだけで、解説文はかなり少ない。だから知識欲はいまいち不完全燃焼で終わってしまった。とはいえ、わさび農家さんから直接説明を受けられる機会なんて滅多にないだろうから、気になるなら本やYouTubeで調べるのが良いかもしれない。

本場の地で生のわさびを食べられなかったのも残念だ。それはまたリベンジしたい。

さて、気を取り直して、再びサイクリングへ。自転車を借りたときに教えてもらったおすすめのサイクリングコースを走る。その途中の穂高川沿いには、観光客向けのではないわさび農場がいくつもあり、さっきよりも元気そうに育っているわさびを見ることができた。

さらに川沿いに進むと、「あづみ野やまびこ自転車道」の起点があり、快適なサイクリングを楽しめた。安曇野市中央図書館を見学し、地元のスーパー「ツルヤ」でりんごジュースとりんごチップスを買った。最後に穂高駅近くの「丸山菓子舗」で銘菓(「あづみ野 花恋」と「御船だいこ」)を買い、レンタサイクルを返却。ちょうど3時間で、最終的に10kmくらい走った。

駅前の「安曇野ブルワリー」でクラフトビールの「sui」をテイクアウトし、駅のベンチで飲みながら待っていると、今夜宿泊する「池田ゲストハウス」の方が車で迎えに来てくれた。ドミトリーだが素泊まり2800円とこの周辺の宿では断トツに安い。おまけに口コミの評価も高かった。

チェックインして部屋に荷物を下ろしながら、先に来ていた70代の男性とご挨拶。翌日は早朝から登山をするそうで、詳しく聞くと「日本百名山」をほぼすべて登ったという。長く教員をしていた彼は、日本の教育を憂い、おひとりでフィンランドへ教育視察に行くようなバイタリティーがある。その話は興味深かった。自転車旅の経験もあるそうで、ぼくも自身の旅の経験を話すと、「それはすごいですね。じゃあ、あのスウェーデン人の彼と同じだ」と言う。スウェーデン人? どうやら、さっきチェックインのときに見かけた外国人男性のことのようだ。

「彼も自転車旅をする人なんですか?」
「ええ、そうみたいですよ」

と話していたまさにその瞬間、そのスウェーデン人が部屋に入ってきた。

「こんにちは。自転車で旅してるの?」
「そうだよ」
「どこから?」
「佐多岬」
「えー!? 鹿児島の、本州最南端だ。ってことは、北海道まで?」
「イエス、宗谷岬(本州最北端)まで」
「日本縦断だ。すごいな〜」
「君も自転車旅をやってるの?」
「今回は普通の旅行だけど、前にヨーロッパ周遊やアメリカ縦断などをしたことがあるよ」
「ワオ! もう夕食は食べた?」
「いや、これから。すぐそこの定食屋に行こうと思ってる」
「よかったら一緒に食べない?」

急に誘われ、一緒に食事することになった。

彼の名はエリク(Erik Quinth)。スウェーデン出身だが、今はアラスカに住んでいるという。謎の男だ。

宿近くの「しもさと」というお店で、ぼくはミックスフライ定食、彼は味玉ラーメンを頼んだ。料理を待つ間、彼から色々と話を聞いた。ぼくは相変わらず英語が苦手で、うまく言葉を伝えられないときはChatGPTを活用し、英訳してもらった。

日本縦断の自転車旅は、今日で32日目。長野でちょうど半分くらい。観光ビザでは3ヶ月間しか滞在できないから、8月29日までに旅を終わらせて日本を出なきゃいけない。彼はGoProを頭につけて旅の映像を撮影。毎日Instagramに載せている(ユーザーIDはerikquinth)。

日本の旅を終えたら、今度はフィリピンでカヤックの旅をするという。さらにその後は、徒歩でインドを縦断するそうだ。ネパールのカトマンズから、インド最南端まで。おそらく3000km以上あるだろう。ものすごいスケールの大きさだ。本物の冒険家だなあ。彼は「みらいの森」というNPO法人のチャリティー活動として、これらのチャレンジを行うのだという。詳細は聞けなかったのだが、大きな使命感を持っているのはわかった。単なる旅ではなく、社会貢献活動につなげようとしている。

「アラスカのどこに住んでるの?」
「コディアック」
「聞いたことあるな。確か南部の、アラスカ湾のところ」
「そう、コディアック島」
「仕事は何をしているの?」
「漁師だよ」
「ああ、だからコディアックなんだ。どんな魚が獲れるの?」
「ギンダラ、マダラ、カニ、サケ、オヒョウ(彼はこれらの魚を日本語で言った。たくさん聞かれる質問なのだろう)」
「漁師だから、きっと短期間でまとまったお金を稼げるんだね」
「そう。だけど、とても危険で、不快な仕事でもある。船は揺れるしね」
「へ〜。でもどうしてスウェーデン出身なのに、アラスカで漁師を?」
「それは、話せば長くなるな」
「色々あったんだね」
「でも昔はミュージシャンを目指してスウェーデンで音楽学校にも通ってたんだ。ジャズピアニストになりたくて」
「それはすごい」
「今何歳?」
「32歳」

出会ったばかりだし、まだまだ未知の部分はたくさんあるけれども、今わかった範囲だけでも、すごい人生だなあ、と思う。

彼は、現在ぼくが支援金を集めて旅と発信を行うチャレンジをしていることに強い興味を示してくれた。国籍や立場は異なれど、彼もまた旅そのものでお金を稼ぐことの難しさを知っているからか、ぼくの事情にも深く共感してくれた。同じような旅や生き方をしているから、というのもあるだろう。言葉の壁はあっても、ひとつ単語を出せば何を言わんとしているかはすぐわかり、お互いの意思疎通は早かった。

宿に戻り、ダイニングテーブルで、ぼくは文章を書き、向かいの彼は映像編集をする。ほとんど無言でそれぞれの世界に入る。その時間はとても心地良く、3時間はあっという間だった。深夜0時に消灯時間になり、ぼくはその日の出来事をすべて書き終えることができないまま、諦めて眠りについた。悔しいが、こんな男と出会ってしまったら、仕方ないだろう。書くべきことがたくさんあったのだ。

ありがとうエリク、ぼくは大きな刺激を受けた。

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