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講演のための思考メモ(10)旅の経験から学んだこと

今日2本目のnote更新。前回はこちら↓

ヨーロッパで過ごした2ヶ月間は、とてつもなく濃かった。新しい街や人との出会いの連続で、毎日が刺激的だった。価値観も大きく揺さぶられた。

「旅の価値」だと感じたことが、大きく3つあった。

まず、「生の体験は、バーチャルでは味わえない」と知れたこと。

写真やテレビでは何度も目にしていたサグラダ・ファミリアだったが、実際に対峙したとき、動きのある繊細な彫刻を目にして「この建築には生命が宿っているのではないか」と思った。それは、写真や映像では伝わってこないものだった。そのとき、「来てみなきゃわからない。自分の目で見てみなければ、わからないものだ」と深く感じ入った。

サグラダ・ファミリアの彫刻

本物を見ること、現地を訪れることは、五感で味わうことでもある。体験は、その場の空気感と一緒に記憶に残る。アムステルダムの駅を降りた瞬間に漂ってきた街の「匂い」も強烈で、未だに強く印象に残っている。本で読んだ知識はすぐ忘れてしまうが、自分で経験したことはいつまでも忘れない。

それと、これは今年日本各地を旅して感じたことでもあるが、旅の刺激により、自発的に学ぶ意欲が湧いてくる、というのもある。たとえば旅先で、どこかの美術館へ足を運ぶ。そこである作家の作品が好きになり、「どんな生涯を送った人なんだろう?」と興味を持つ。帰ってきてから、図書館でその作家の自伝や評伝を借りてきて、読んでみる。そして新たな発見や学びがある。作家へのリスペクトも生まれる。そういうことを繰り返すなかで、人生に深みが生まれてくる。

「旅の価値」の2つ目は、「海外を知ることは、日本を知ることでもある」と気付けたこと。

日本では「当たり前」だと思っていたことが、海外では「当たり前」ではない。そういう事実にたくさん突き当たった。例えば日本のレストランで水は無料で提供される。でも海外では、水ですら基本的に買わないと出てこない。また、ヨーロッパでは公衆トイレを使うのに50セントかかったりする。

バルセロナをはじめ、ヨーロッパの大都市ではスリが非常に多い。だから荷物や財布などは、常に気をつけてないといけない。日本のカフェでは少しばかり荷物を置いたまま席を離れても、盗られたりすることはほとんどないが、ヨーロッパではあっさり盗まれる。

ひとつひとつの体験から、驚きとともにその国の文化や慣習を知る。そして同時に、日本のことを知る。「今まで当たり前のことで気にも留めなかったけど、どうしてヨーロッパではこうで、日本ではこうなんだろう?」と初めて疑問を抱く。そうやって違いについて考えていくことで、日本のことがより理解できるようになり、人としての成長につながっていく。

3つ目は、「世界は広い」とわかったこと。

旅先で、いろんな価値観や発想を持った人たちと出会った。「こんなことするやつがいるのか!」「このアイデアはおもしろいな!」とたくさん感じた。それまでは、自分は結構すごいんじゃないかと勘違いすることもあったけど、海外に出てみて、いかに自分が平凡か、世の中にはもっとすごい人たちが山ほどいるかを思い知らされた。そしてそのことが、謙虚さをもたらしてくれた。自分なんて大したことない。そう思えるから、また努力ができる。

自転車旅は過酷だった。雨、風、怪我、山道、空腹、パンク、筋肉痛、眠気、責任、プレッシャー……。2ヶ月間でたくさんの辛さや絶望感を味わった。でも、ひとつひとつの苦しみと正面からぶつかって、乗り越えるたびに、強くなっていく自分を感じた。不思議なことに、不自由なことを経験するたびに、いかに自分が恵まれていたかを思い知らされた。すべてに感謝しなくちゃいけないと思うようになった。

世界は広く、自分は小さい。それを知れたことが、良かった。世界の広さを知らず、小さな世界で有頂天になるより、ずっと良かった。

帰国後、立教大学観光学部のシンポジウムで講演を行った

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ヨーロッパ自転車旅を行う前に、旅行会社への内定が決まっていた。それは、我ながらナイス判断だった。

ぼくは就活の時期から、「旅」と「書くこと」を仕事にしたいと思っていた。それで選んだのが、旅行会社で海外添乗員をしながら、旅行情報誌の編集に携わる、という働き方だった。

2ヶ月間もヨーロッパにいたのに、それで旅の欲求が満たされることはなかった。むしろ欲求は増した。もっといろんな世界を見てみたい。20代のうちにできるだけたくさんの世界を訪れ、見識を広げる。そして30代以降で、広がった視野と経験を土台に、何か大きなことを成し遂げよう。そういう風に考えていた。

(つづく)


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