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セレネリアン・ミステリー(第21話)ディスカル

「ミサキ、そんなに怒るなよ」
「これを怒らなくて何を怒ると言うのよ。ディスカルまでグルだったなんて」
「だって社長と副社長に是非と言われたら断れないじゃないか」
 
 カンカンになって帰ったらこのありさま。どこに怒りをぶつけて良いものやら。絶対どこかで復讐してやる。でもあの二人相手に自信ありませんけど、
 
「それでセレナリアン・ミステリーはどうなったの」
「ああ、それ。社長と副社長は途中でわかってしまったみたいだけど、私はサッパリ」
「またミサキにだけ隠すの!」
「本当だってば」
 
 でもだいたい分かった気がする。
 
「やはりあれはエラン人ね」
「ギガメシュ人の可能性も残るけど、エラン人の可能性の方が高いだろうな」
 
 ここで色分けとして、
 
 ・純血種・・・ギガメシュ人
 ・改造種・・・エラン人
 
 こうなります。単純な推理ですが、ギガメシュの宇宙ステーションの中にエラン人のスパイが潜入していたのが発覚して、月に放置刑をされたんじゃないかって。
 
「そのギガメシュの宇宙船ってどれぐらいの大きさだったの」
「おそらくだけど丸菱の月面基地用の宇宙トラックの二倍ぐらいじゃないかとされてるよ」
「百人運ぶには小さい気がするけど」
「三隻ぐらいあったんじゃないかなぁ」
 
 戦争中の記録であり、ギガメシュも宇宙ステーションを放棄する時にエランに落としたらしくて、はっきりしたことはわからないで良さそう。
 
「乗ってたのは指導者とその家族だよね」
「他に考えられないし」
「それで純血種は完全に滅んだの」
「記録ではそうなっている」
 
 エゲツナイよな。そこまでするかと思うもの。
 
「でもこれじゃあ、セレネリアン・ミステリーは全部解けていないことになる」
「エラン人は地球人と同じだから解けたんじゃない」
「そこは解けたとしても、どうしてエラン人と地球人が同じ種かよ」
「それは神の悪戯じゃないか。エランだって様々な亜種の中から、たまたま勝ち残ったのがエラン人、それも改造種だし」
 
 それはそうなってしまったのはエランの記録からも明らかだけど、
 
「それって、やっぱり説明になっていない気がする」
「それ以上は無理だよ」
 
 それはそうかもしれないけど、
 
「ところで純血種とから改造種になるって具体的にどう変わるの?」
「これもはっきりした資料は残されていないのだけど、種としては一緒だよ。混血も出来る。どう言えば良いのかな、遺伝子の余計な部分を刈り取ったぐらいかな」
「いわゆる多様性の部分ね」
「それってエラン人種なら誰でも可能なの?」
 
 ディスカルは少し考えてから、
 
「遺伝子改造は純血種が編み出したものだけど、改造種側はあまり熱心に研究しなかったみたいなんだ。改造種側はそれ以上の研究は不要だってところかな。研究中止命令が出たのもあるけど、不要になった技術は衰退してしまったぐらいで良さそうだ」
「思ったんだけど、純血種側の研究はそれこそ地球で言うなら旧人や原人どころかチンパンジーやゴリラ、オランウータンにも及んでた可能性もあるんじゃないしら」
「やってても不思議ないと思うけど、そこまで種が離れると難しいのじゃないのかな」
 
 さすがにね。
 
「その遺伝子改造のための装置って大きいの」
「これもよくわからないけど、人が入れるカプセル状のものだったみたいだよ」
 
 まあそんなもだろうけど、
 
「船にだって積めるよね」
「それは可能だと思うよ」
 
 ここでだけど、
 
「ミサキに悪いけど、この話題はあまりやりたくない」
「やっぱり」
 
 ディスカルが言うにはエランでも人類は一種が常識だそう。これも驚いたのだけど人類の祖先を探す研究自体が事実上やられていないらしいのよね。はるか古代で他のヒト属は滅亡し、先史時代でさえ、ただ一種のエラン人が戦争に明け暮れていたぐらいかな。ディスカルは士官教育の時に先史時代も少しだけ習ったそうだけど、一般人なら、
 
「とにかく統一政府が成立してエランの歴史は始まったと覚えておけば必要にして十分ぐらいかな」
「でも人ってその先が気になるものじゃない」
「アダブが言ってたけど、そんな歴史に興味を向けさせないように、クソつまらない歴史授業がプログラミングされてるんじゃないかと言ってたぐらいだよ」
 
 他にも理由があって、とにかく先進文明だから数学にしろ、物理にしろ、科学にしろ覚えなければならないことがテンコモリあるで良さそう。文明が進むってそんな事かもしれない。

 そのためにエラン人の子どもは地球なら中学校時代までに、地球の大学レベルまで習うんだって。それぐらい先まで進んでるってことだけど、
 
「まあ、あれは無理があるって定期的に問題になってたよ。エラン人だってついてくのは大変だって事さ」
 
 ディスカルもそうだったみたい。
 
「エラン人の子どもだって遊びたいのだけど、遊びの中にも学習が組み込まれていて・・・」
 
 たとえが悪いと思うけど、ダルマさんがころんだをしながら、九九を覚えたり、縄跳びしながら化学の周期表を覚える感じみたい。
 
「学校で習う歌だってそんな感じでね」
 
 聞いてるだけで息が詰まりそう。
 
「だからミサキから聞いた子供時代が羨ましくて仕方が無かった。高校や大学もね。エラン人から見たら無駄に時間を過ごしているだけにしか見えないけど、そういう時間も必要だとわかった気がする」
 
 とくにディスカルは軍幼年学校から士官学校に進んだものだから、
 
「軍人になったのは決して後悔していないが、もう一度やれと言われればウンザリだよ」
 
 よほど大変だったみたい。
 
「そうだそうだ、エランには方言も無かったの。ユッキー社長がガルムムの宇宙船の乗組員の尋問をやった時に見事に同じで感心したって言ってたもの。ミサキもジュシュルの船の時にそうだったし」
「それそうなる。エラン軍人は共通語を徹底的に叩き込まれるし、エラン人が公式の席で話す時には必ず共通語だ」
「じゃあ、方言もあるんだ」
「あるよ。ただ共通語教育も徹底してるから、方言を使うのは同郷人の時だけかな。言い方が変かもしれないけど、エラン人は自分の地方の方言と共通語をTPOに合わせて使い分けてる感じだ。もっとも段々と方言も共通語化してる部分も多いけど」
 
 日本語もそんな感じだものね。
 
「やはりエランに帰りたい」
 
 そしたらディスカルはなにかをこらえるように、
 
「地球には故郷は遠くにありて思うものという言葉があるが、私の知っているエランは既になくっているとして良い。友人や知己で生き残っているものはおそらくゼロに等しいだろう。母なるエランは地球から思うだけの方が幸せの気がする」
 
 そうだった、そんなもの帰りたいに決まってるじゃないの。
 
「ごめん、ディスカル。また余計な事を聞いちゃった」
「気にしていないよ。だって地球にはミサキがいるし、息子だっている。ここが今は故郷だ。離れられるものか」
 
 夜は久しぶりに燃え尽きました。ディスカル、愛してる。

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