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怪鳥騒動記(第26話)特別の怪鳥

 期待していたアラがエランで行った鳥対策は使えなかったんだけど、コトリ先輩はなにか対策を思いついてたみたいだったよね。
 
「コトリの推測がすべて合っていても決定打じゃ、あらへんよ。それに、出来たらやりたくない」
 
 なんだ、なんだ。
 
「あの鳥やけど賢すぎると思わへんか」
「でも大きさに知能は比例するって」
「にしてもや。タダの鳥やで」
 
 そう言われたって賢いものは仕方がないじゃないの。
 
「そりゃ、エラン最大のものより桁外れに大きいけど、度が過ぎるんや」
 
 何が言いたいんだろう。そしたらディスカルが、
 
「副社長の見立て通りの気がします」
 
 ディスカルが調べていたのは、地球に里帰りした元地球人のその後で良さそう。その中の一人が、エランに帰った後に拘束されたらしいの。
 
「元地球人ってVIP対応ではなかったのですか」
「そうですが、よほどの重罪だったとしか言いようがありません」
 
 エラン極刑に死刑はないけど絶対終身刑を受けて、意識移動も当然されていないんだって。元地球人がそこまでの刑を受けるのは異例の事だから、当時は大きなニュースだったらしいのよ。
 
「どんな罪だったのですか」
「禁法への抵触です」
 
 反逆罪の一種らしいけど、意識分離を行った者、ないしはそれに加担した者への罪状で良さそう。
 
「でも元地球人は既に神ではありませんか」
「ええそうです。ですから加担の方の罪になります」
 
 わかりにくいな。そしたらコトリ先輩が、
 
「だから元地球人は神なんよ。神は覇権欲と猜疑心を持つ者ってこと」
 
 アンズー鳥の繁殖は、反政府組織では断続的に行われ、アラ政府の混乱を狙って、何度も放たれたのは前に聞いた。さらにアンズー鳥のさらなる改造までしたっていう物ね。
 
「あれも品種改造の方は真偽不明や。むしろ放射能地域での適応の方が大きい気がする」
 
 遺伝子操作技術も様々な倫理的な問題から、とくにアンズー鳥後は大きな制約が加えられ、千年戦争の頃には忘れ去られた技術の一つになってたらしい。
 
「それでも改造をやったんや」
「なにをしたのですか」
「アンズー鳥の意識分離や」
 
 なんだって! 鳥を神にしたっていうの。
 
「でも成功せんかったで良さそうや。それにやで、もし成功したって一代限りやし、巨大化もせえへんよ。ましてや地球に連れて来れへんし」
 
 それもそうだ。
 
「連中は卵にやったらしい」
「卵にですか!」
 
 アラ政府も察知して捜査にあたっていたみたいだけど、反政府組織もそれに気づいたぐらいで良さそう。
 
「ちょっと待ってくださいよ。拘束された元地球人ってケツアルコアトルで、地球に持って行ったのは、その時に意識分離が施された卵だと言うのですか」
「そう見て良さそうや。なんでケツアルコアトルが最初の時に居残ったのか、さらに卵を置いて帰ったのか、すっきりせえへん部分があったけど、これでわかるで」
 
 ケツアルコアトルは元地球人のVIP対応を利用して反政府運動に加わっていたってコトリ先輩は見てる。加わってるどころか、
 
「リーダーやったでエエやろ」
 
 ケツアルコアトルも反政府運動のアンズー鳥を使ったんだけど、これへの意識分離も行ったぐらいかな。しかしアラの捜査の手も伸びてきたんだろうって。
 
「そこでや元地球人帰郷運動を利用して地球への高飛びを狙ったんや」
「だから最初の宇宙船で帰らなかった」
「そうや」
 
 最後の地球遠征はケツアルコアトル回収ではなく逮捕であったんだろうって、
 
「ではテスカトリポカは逮捕に来たエラン人」
「そう見てエエと思う」
 
 だからケツアルコアトルは逮捕される前にアンズー鳥の卵を隠したんだろうけど、
 
「あの一の葦の年の予言の意味は」
「腹いせもあるけど、ここにもポイントがある。あの予言をするには卵がいつ産まれたか知っている必要があるやんか」
 
 そっか、そっか、そこに繋がるのが。アンズー鳥の卵の孵化周期は五十年ごとっていうトンデモないものだから、単に卵を手に入れていただけでは、いつ孵化するかなんてわからないものね。
 
「そういうこっちゃ。いつその卵が産まれたかを知っていないと予言なんてしようがないってこっちゃ」
 
 当時はアンズー鳥の繁殖はもちろん、卵を持ってるだけでもエランでは重罪。
 
「どうしてケツアルコアトルはそんなことを」
「神やからや」
 
 世論に押されて地球人に意識分離をアラは行ってるけど、神となった地球人への警戒をアラは怠らなかったでとコトリ先輩は見ている。アラは自分も神であり、千年戦争の修羅場を潜り抜けてるから当然よね。
 
「でもエランに連行され意識分離を行った地球人は温和だったとなってましたが」
「その話か。その数は十人ぐらいって話になっとるけど、逆から見れば、その十人だけが温和やったのかもしれん」
「残りは?」
「アラが処分した」
 
 温和と見なされた十人の中にもまだいたってことか。
 
「ケツアルコアトルも地球で大人しいしとって、逃げとったら良かったんやろうけど、覇権欲にかられてトルテカ王になってもたから見つかったんやと思うで」
「でもエランから見れば生贄禁止政策は望ましいのでは」
「そこまで他の星の文明に関わるのは避けたんやろ。むしろ介入したケツアルコアトルの行為を重大視したんかもしれん」
「だからテスカトリポカはケツアルコアトルの生贄禁止政策まで潰してしまったとか」
「結果としてはそう見るよりないやろ」
 
 コトリ先輩は付け加えて、最初の遠征で地球人を連れて帰ったのは結果として失敗だったとアラは判断していたに違いないと。だから二回目以降は地球人を連れて帰るのはもちろんだけど、地球の原始文明にも影響を及ぼす行為を厳重に禁じていたんじゃないかと推測してる。
 
「ディスカル、そうやろ」
「ええ、地球人を連れて帰ったのは最初だけです」
 
 エラン警察も大変だったと思うよ。だってエランの武器を使えばケツアルコアトルの逮捕は簡単だったろうけど、わざわざ生贄護持派の勢力の王になってケツアルコアトルをトルテカ王から失脚させたうえで逮捕してるんだもの。
 
「最後の事情はわからんけど、ケツアルコアトルがトルテカ王になったんは、逮捕を防ぐ狙いもあったんかもしれん」
 
 この辺で何があったかは、これ以上は確かめようがないけど、
 
「ところで卵の意識分離なんて本当に意味があるのですか」
「これは理屈やなくて結果から見んとしゃ~ないやろ」
 
 そうだけど、
 
「そうでも考えんと、超低空飛行で米本土に侵入したり、メキシコ軍を夜襲で壊滅させたり、第三艦隊を潜水で襲った理由が説明出来へんと思うで」
「それじゃ、あのアンズー鳥の能力はエランのものの数倍」
「それ以上かもしれん」
 
 もう最悪じゃない。体は怪獣並になってるし、知能も桁外れじゃ、手の打ちようがないじゃないの。
 
「まあ、そういう事になる。あの鳥の食い物が無くなって飢え死にするまで、指くわえて見てる以外に手はないってことや」
 
 それまでに地球はどうなっちゃうのよ。餓死者多数で、鳥が残した食い物を奪い合う修羅場が続くじゃない。そうだ、そうだ、
 
「例の詩の解読はどうなってるのですか」
「あれか。わからん」
「でもあそこにカギがあるのでは」
「無い気がする」
 
 あの詩だけど、まずアラも解読できなかったと考えて良さそう。アラでさえ古すぎると感じる古文で、コトリ先輩に言わせると、
 
「神韻文がどういうものかの知識もアラの時代には、知識としてなかったと思うで」
 
 神韻文は隠された文章があると考えて読まないと絶対に解読できないんだって。それぐらい特殊な形式の文章なんだって。
 
「それとやけど、ディスカルが集めてくれた断片やけど、あれは元もとあれだけしか無かった可能性もあると見てるんや。もっとも、どっちにしても無いものはこれ以上はどうしようもないし」
 
 ああ、それじゃエランのハンティング方法も永遠の謎じゃないの。

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