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ツーリング日和3(第2話)さて出発

 ツーリングも季節はある。そりゃ、いつでも行けるようなもんやけど、やっぱり冬場のツーリングは辛いわ。とにかくバイクは吹き曝しやからな。そやからあれこれ着込むのやけど、やっぱり凍えてくるねん。

「電熱グローブぐらいがせいぜいだよね」

 他にも電熱はあるねん。ジャケットから、ズボン、靴下まである。そやけど電熱やから電源がいるやんか。USBを設けて取っとるやつもおるけど、あんまりフル装備にすると、今度はバッテリーが持たへんどころか、電装系が吹っ飛ぶぐらいのトラブルが起こることもあるらしい。

 大型やったらまだしも、中型でもフル装備はシンドイ言われとるぐらいや。小型やったら電熱グローブぐらいにしとかんと無理がある。

「わたしたちのは事情が違うけど」

 そやねん、USBソケットをマッド・サイエンティストの変態集団が、なんぼ言うても付けてくれへんねん。あいつらのこだわりは未だに理解できへん。そやから電熱グローブいうても充電式やねんよ。そやから冬のロング・ツーリングはパスや。

「夏も辛いのよね」

 冬の裏返しや。オープンカーでメット被ってるようなもんやからな。真夏なんか、いくら風受けても熱風くらうようなもんになってまうのがバイクや。それでもツーリングに出かける根性座ったんも多いけど、やっぱりロング・ツーリーングは避けとるわ。

 別にバイクやのうてもそうやけど、ツーリングに出かけるんやったっら春と秋や。春は桜から新緑、秋やったら紅葉を楽しめるんもある。やっぱりツーリングしとっても楽しめる風景の方がエエやんか。夏も冬も行ったことはあるんやけど、

「無理してロング・ツーリングするのは根性だよ」

 はっきり言うて懲りた。せいぜい日帰りで出かけるのが目いっぱいや。これも誤解せんといてや、あくまでもコトリとユッキーがそうや言うだけで、真冬でも真夏でもツーリングを楽しむ筋金入りの連中も仰山おるからな。

「ほいじゃ、いつもの通り港島トンネル抜けて六甲山トンネルに行くで」
「らじゃ」

 ETCも付けてへん。つうか高速走られへんし、原付が走れる有料道路でも原付のETC未対応のとこが多いねん。つうかあるんやろか、

「賽銭箱システムが多いものね」

 端っこのレーンに集金箱置いてるとこもあるし、料金所のブースの奥に置いてるとこも多いわ。これは原付の通行料は格段に安いから、

「いっそタダにすれば良いと思ってるぐらい」

 六甲山トンネルだけやったら普通車で二百十円やねんけど、原付やったら十円やねん。さらに六甲山トンネルから三田の終点まで走ったら普通車は六百三十円やけど、原付は四十円やねん。こんなんにETC対応設備作るのはアホラシイからやと思うし、付ける方かってアホらしい。

 三田までは快走。五十分かからんかった。三田から篠山はクルマやったら国道一七六号やろけど、バイクやから県道五七〇線から有馬富士公園の南側走って県道で北上にする。いくつかルートはあるんやけど、出来るだけ東側に出たいから県道三十七号で北上や。

 これもバイクやったら悪ない道で四十五分ぐらいで国道三七二号に着いてくれた。ここやったら篠山市街地から外れとるねん。

「快調じゃない、まだ七時半だよ」

 三田市内の渋滞を避けるために六時前にポーアイ出てるもんな。三田から篠山に行く県道もよう使うツーリング・コースやねん。

「この道は籠坊温泉に行く時にも使ったね」

 籠坊は・・・昔はもっと栄えとってん。コトリが知ってる範囲やったら七軒ぐらい温泉宿があって、京阪神の奥座敷と言われとったぐらいや。今は二軒だけになっとるし、見ただけで寂れて土俵際で踏ん張ってる感じがしたもんな。

「でも、ぼたん鍋は美味しかったよ」

 今日は籠坊温泉行くんやないから、国道三七二号を東や。国道三七二号も別称があって篠山街道言うたり、デカンショ街道言うたりする。デカンショ街道の方がポピュラーやな。

「あそこの交差点を右に曲がるよ」

 ここからがちょっとややこしいねんけど、

 国道四七七号 → 国道四五四号 → 国道四七七号

 こんな感じでいくつか角を曲がりながら八木の市街を抜けて行くんや。この辺も東へのツーリングを意識して何回か来てるとこやねんけど最初は迷たで。八木の市街を抜けた頃には八時回ったわ。国道四七七号も途中までは何回か走った事もあるねんよ。

「府道三六三号は腐道だったね」

 マップで見つけて、これは隠れたエスケーと・ルートやないかと思て走ってんけんど、一車線やし、その割にクルマが多くて閉口したわ。考える事は誰も同じやと思たもんな。国道四七七号も国道一六二号に交差するまではちゃんと二車線ある道やから、バイクやったら快走ルートとしてもエエぐらいやねん。

「周山街道は初めてね」

 国道一六二号の事や。この道は北山杉が綺麗なとこやねん。周山街道はさすがの快走ルートやけど、問題はどこで曲がるかや。こればっかりは行って見んとわからんからな。

「あれじゃない」

 みたいやな。府道一〇七号って書いてあるわ。あの信号を左やな。橋渡ったとこでちょっと一服や。これから腐道が待っとるし。

「周山街道は走りやすいけど、やっぱり怖いね」

 そやねんよな。原付二種は平たく言うたら一般道ではクルマと対等に走れるねん。そやけどちっちゃいし、ナンバーかって原付一種のサイズと同じで色がピンクなだけやねん。

「そもそも原付一種と二種の区別が出来ていないドライバーが多いと思ってる」

 クルマのドライバーは習性として原付見たら追い抜きたがるねん。ちゃんと流れに乗って走っとっても無理やり抜かすやつが多いんよ。なんせ追い抜いたろの意識がバリバリやから、ガンガン煽るやつもおる。

「バイク乗りが大型に乗りたがる理由の一つよね」

 大型までいかんでもせめて中型にしたいと思てるのも多いし、小型であってもなるべく車体の大きいのを選んで、原付やないと思わせたい意識もどこかにあると思てるわ。それぐらい煽られたり抜かされるのは怖いんよ。

 抜かされる時かって、四車線の道やったら、ハイどうぞぐらいの話やねんけど、二車線とか、一車線半の道でやられると結構怖い時が多いんよな。強引なんてもんじゃない抜き方をするのもおるさかい。

 さてと気合いれて行こか。入り口こそ二車線やったけどすぐに一車線やんか。予想はしとったけど先が思いやられるな。今走っとるのは鷹峯街道で、これを走って行けば清滝川沿いに京都市内まで通じてる道や。そやけど京都市内に行ったら意味あらへんから・・・ここみたいやな。

「左に曲がるで」
「真弓ってどこなの」

 コトリも知らんわ。おっ、二車線やん。出来るだけ続いて欲しいと思うそばから一車線か。やっぱり腐道やな。そうでもないか、また二車線に戻ってくれた。あははは、家がなくなって山ん中に入ったら完全に一車線や。

 なんとか峠みたいなとこを抜けたら人家もあるやんか。道も一車線半ぐらいになってくれたし、ひぇぇぇ、バス停あるやんか。つうことはバスに出くわす可能性もあるやん。来て欲しないな。

 えっと、ここの分岐路を右に行ったら府道六十一号か。あんまり変り映えせん道やな。ほいでもこれは雲ケ畑街道や。こりゃ田舎や。今でもこんだけ感じるんやから、昔はホンマの山の中やってんやろな。

「それでも雲ケ畑街道も鯖街道の一つだよ」

 都から少しでも離れたら、どこもこんなんやったんかもな。えっと、えっと、この神社は厳島神社のはず。それやったら、

「ストップ」

 行き過ぎてもた。さっきの石段のとこはずや。ちょっと引き返して、

「ここだったんだ」

 ちゃんと案内板もあるわ。石段登ったらお堂が一つや。

「九龍山高雲寺ね」

 なんもしらんかったら、しょうもない寺やけど、高雲御所と呼ばれとったところやねん。

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