純情ラプソディ(第11話)サークル
大学に進んでサークルをどうしようかと思ってたんだ。貧乏だから入らないのもありだけど、やっぱり大学生活の花みたいなものじゃない。でもカネがかかるサークルは困るし、とくに得意なスポーツはないし、単なる飲み会要員じゃ意味ないしと迷っていたら、
「明文館の倉科さんじゃありませんか」
声を懸けてくれたのが県予選で戦った早瀬君。学部は違うけど港都大に入ってたんだ。
「片岡も入ってるよ」
片岡君はヒロコが代表決定戦で敗北を喫した相手。聞くと早瀬君と片岡君は高校は違うけど塾が同じだったそうで友だちみたい。二人ともカルタは好きで港都大のカルタ会に入ろうと相談してたみたいなんだ。
「倉科さんもどうですか」
「わたしはカルタやってたって言ってもC級だし」
そしたら早瀬君は大笑いして、
「B級のボクは負けてるんだよ。それにあの片岡をあそこまで追い詰めたじゃないか。片岡も冷や汗かいたって言ってたよ」
話を聞くと港都大のカルタ会も弱小と言うか風前の灯火で良さそう。だって会員が三年生と二年生の二人だけだって。
「それでも倉科さんが入ってくれれば五人になるよ」
大学カルタも団体戦はあり、これまた五人制なんだって。なんか高校の時の情熱が甦ってくる感じ。あの緊張感はやみつきになるところがあるのよね。迷ったけどこれも縁かもしれないから入ることにした。三人でサークル室に行き入会希望を告げると、
「ヒナ、これは夢か幻よ。三人だよ、それも経験者ばっかりだし男が二人もいるよ」
素っ頓狂な声を上げたのが梅園先輩。三年生でサークル代表。
「ムイムイ、落ち着いて。それに男だなんてはしたないじゃない」
こうたしなめたのが二年の雛野先輩。二人で下へも置かない接待ぶりだったのは笑えた。ホントに困っていたみたい。さっそく新歓コンパにしようって話で盛り上がってた。
「だって去年はムイムイ一人だけになって、そこにヒナが入ってくれたけど、たった二人じゃコンパもなにもなかったもの。女二人が寂しくメシ食っただけ。それが五人になって男も二人だよ。これで盛り上がらなかったらウソじゃない」
それでもたった五人なんだけど。
「ムイムイの気持ちはわかるけど。あんまりはしゃいだら逃げられちゃうよ」
「それは大変。逃がしてなるものか」
おいおいだけど、全力で歓迎してくれるのだけはわかったかな。新歓コンパはJRの近くのチェーンのスペイン・バル。五人に増えたと言ってもテーブル一つで座れちゃう。
「A級の片岡君、B級の早瀬君、C級の倉科さん。入会ありがとうございます。心から歓迎します」
ふと見たら梅園先輩の目が真っ赤だった。雛野先輩なんて肩を震わせて嗚咽までしてた。なんかここまで生きてきて、これほど喜んでもらえるのは初めての気がしたぐらい。話を聞くと肩身が狭かったみたい。
「今は二人しかいないけど、ムイムイが入会した頃は十五人ぐらいいたのよ」
これは競技カルタがある高校の偏りにもあるで良さそう。まともに競技するには覚える事が多すぎるのがこの競技。だから普及しないのだけど、それでも競技カルタ部がある学校はいわゆる進学校に偏っている部分が多いのよね。
高校で競技カルタをやる人数こそ少ないものの、その中のかなりの部分が有名大学に進学するぐらいと考えたら良いかも。港都大にも高校カルタ部出身者が一定の人数で必ず入るぐらいかな。梅園先輩もカルタ経験者で入会したのだそうだけど、
「あの頃のカルタ会は・・・」
会員が全部女だったんだって。確かに女の方が高校生なら多いかもしれないけど、全部女ってのは不思議だな。ちょっとは男が混じりそうなものだけど、
「まあ、そんなものかと思ってたけど・・・」
女だからと言いたくないけど、女ばかりの集団になると問題は起きやすくなる部分はあるのは認めざるを得ないところがある。男ばかりの集団だって起こるけど、女ばかりの集団の方が多いのはあるのはある。カルタ会でも定番のグループ同士の対立があったみたい。
対立も昨日今日の話じゃなく、年来のものだったで良さそう。それが梅園先輩が入会してから一挙に激化したらしい。そこまで長い経緯の対立になると理屈でなくて感情になってこじれ切っていたそう。
これが噴出したのが梅園先輩の新歓コンパ。座敷でやったそうだけど、それこその大喧嘩になって、取っ組み合いは起こる、皿は飛び交うの大惨事になったんだって。ここまでやらかすと、学校にも知られてなにか処分があったそうだけど、
「その処分を契機に代表とそのグループが退会しちゃったんだ」
いわゆる責任を取るってやつかもしれないけど、背景にグループ抗争があるから責任を押し付けられたのかもしれないな。
「ムイムイはそれで結束すると期待してたんだ。雨降って地固まるって言うし」
相当な恨み積りがあったとしか言いようがなさそうだけど、退会グループはカルタ会を潰しにかかる展開になったと言うから驚き。でも潰すと言っても、
「悪口、陰口の類だけど、レズ疑惑は応えた」
女ばかりのカルタ会なのはレズ集団だからと言い触らされたんだけど、内部を知っている人間が言うのだから信じる人も多かったみたい。レズも性嗜好の一つだし、堂々とカミング・アウトしている人も珍しくないけど、
「レズに無関心な人がそういうレッテルを貼られるのは嫌だよ」
陰口は名指しだったみたいで、残っていた先輩も次々に辞めて行ったんだって。そして最後に残ったのが梅園先輩になるのだけど、
「ムイムイはカルタをやりたかったから、今に至るだよ。去年にヒナが入ってくれてホントに嬉しかったもの。これが今年は五人でしょ。団体戦だってまともに戦えるよ。港都大カルタ会はこの五人のメンバーで甦るのよ」
あれっ、なんか綺麗にまとめられてしまった気がする。もちろんそれだけでも、あれだけ先輩たちが感激する理由は説明出来そうだけど、なにか物足りない気が、
「よっしゃ、これから二次会だ! 去年なんてヒナと二人カラオケだったから寂しかったもの」
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