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怪鳥騒動記(第34話)大団円

 コトリは重傷を負って、米軍の救護所からシドニーの病院、さらに神戸の病院に移ってようやく退院。長かったし痛かった。女神言うても体は人間やからな。
 
『カランカラン』
 
 おっ、来た来た。
 
「間一髪やったな」
「月夜野うさぎもよく生き残れたね」
「まさか、あそこで吹っ飛ばされるとは計算外やった」
 
 あの怪鳥のパワーはまさに化物。エランの宇宙船を支えた時より強烈やった。ユッキーがのんびり近づいて行くのが恨めしかったわ。見取ったらユッキーが組み合ったのは見えたし、鳥の悲鳴が聞こえたんやけど、その直後に、
 
『ドッカーン』
 
 手はず通り米軍の攻撃が始まってんけど、爆風でコトリは吹っ飛ばされてもたんよ。
 
「悪いと思ったけど、見えなくなってたし」
 
 そりゃ、あっと言う間に煙と爆発音で周囲は見えなくってもた。ただやけど、吹っ飛ばされたお蔭で、それ以上の被害は受けへんかったんよ。もっとも、鳥が倒れて来た時には、もうアカンって思たけど、ギリギリやけどそれたし。

 足止め作戦は、ユッキーが鳥の神を殺したら、ユッキーがコトリも抱えてミサキちゃんにジャンプする予定やってんよね。それがやな、コトリが見えなくなったから、ミサキちゃんが見えるうちにユッキーはジャンプ。
 
「でも、まあ死んだって、適当に宿主を替えれば良かったじゃない」
「そんなんいうけど、男ばっかりやってんで」
「一回ぐらい男をやるのも経験よ」
「やだ」
 
 何とか月夜野うさぎで生き残れたからラッキーやった。ユッキーみたいにジャンプ出来へんから、一度宿主にしたら死ぬまで付き合わなあかんやんか。考えただけでゾッとするわ。そりゃ、ユッキーに頼めば移れんことないけど、シラクサから日本に来る時のトラウマがあるから、そうは簡単にはやってくれへんやろし。
 
「今度の名前は」
「如月かすみ」
「もしかしてユッキー、名前で選ばんかったか」
「コトリも他人のこと言えないでしょ」
 
 誰を選んだって、どうにでも出来るけど、
 
「大学は」
「港都大法学部」
「なんやつまらんとこやな」
「しょうがないでしょ、如月かすみが入ってたんだから」
 
 名前で選ぶから自業自得や。
 
「三十階は?」
「コトリが入院してたから行けてないよ」
 
 これはしょうがない。コトリがおらんとユッキーの神は見えへんし。あれっ、ユッキーが恨めしそうな顔してる。
 
「コトリ、忘れてたでしょ」
「なにをや」
「どうしてミサキちゃんにしたの」
 
 なに言うてるんや、
 
「あれはユッキーが、ミサキちゃんの子どもが見たい言うたからやないか」
「そうは言ったけど、重大な作戦ミスよ」
 
 なんでミサキちゃんにしたのがミスやねん。そしたらさらに恨めしそうな顔になり、
 
「メガトン級の連発喰らったのよ」
 
 それも狙とってんやろ。こんな機会でもないとミサキちゃんのメガトン級なんて経験できへんやんか。とくにコトリは自分でジャンプできへんし。そやから賛成したんやんか。それにやな、
 
「そんなものディスカルにジャンプしたらエエやんか」
「ジャンプする余裕もなかったよ」
 
 そんなにか。楽しみ過ぎたんちゃうんか、
 
「ミサキちゃんがイク前の段階で、宿ってるわたしがイッちゃったのよ」
「イク前の感じてる段階でか?」
「そんなものじゃないの。入ってくる段階でいきなり吹っ飛ばされちゃったのよ。そこからミサキちゃんが感じだすと、暴風雨の中に立ってる感じ」
 
 三擦り半ってやつか、それは強烈やな。
 
「コトリも舐めてるよ。それは最初の頃、ミサキちゃんが燃えて来ると」
「ユッキー、まさか一擦りとか」
「往きでイッて、帰りに飛んで、往きで叩き起こされて、帰りに吹っ飛ばされて・・・」
 
 マジか、
 
「イキッ放しなんて甘いものじゃなくて、イッたままの状態で意識をガタガタにされちゃったのよ。ジャンプなんてする余裕はゼロ」
 
 聞いただけで暴風雨なんはわかるけど、ちょっと待った、ちょっと待った、ここはまだミサキちゃんが昇り詰めてる段階やんか。
 
「ほんじゃあ、メガトン級は?」
「来そうな気配だけで意識が月まで吹っ飛んだ感じ、その段階で五千年でも桁外れで最大だったよ」
「ほんじゃあ、メガトン級は経験してないんか」
「そうよ来る前に意識が飛んだことを感謝してる。あんなもの、まともに受け止めたら絶対死ぬよ。ホント、お互いリミッターをいじらなくて正解だったよ」
 
 おっとろし。
 
「でも連発やねんやろ」
「そうなのよ。意識が戻ってしまうのが恨めしかった。戻れば風速五十メートルの暴風雨の中で、そこにメガトン級が迫ってくるのよ。あの絶望感はまさに悪夢。イクのは女の楽しみだけど、あそこまでいくと・・・」
「拷問か?」
「もっとだわ。イク時って子宮から脳天に突き抜ける感じがするじゃない。あれを電流に例えると、百万ボルトで流し放しにされた上で、一億ボルトの落雷が迫ってくる感じ」
 
 ぎょぇぇ。最初の作戦通りやったら、コトリもこれ喰らっとったわ。ミサキちゃんがメガトン級になってるのは予測しとったけど、ある程度鈍くなってると思っててん。何事も度が過ぎれば、そうなる事が多いやんか。
 
「わたしもそうと思ってたけど、バリバリにミサキちゃんは感じてるよ。たぶんあれが燃え尽きる前のミサキちゃんだと思うけど、始まった途端に大マゼラン雲まで吹っ飛ばされて、翌日の昼まで意識が戻らなかったもの」
「それってもしかして、まだ続きがあったとか」
「怖いこと言わないでよ。思い出しただけで鳥肌立っちゃうよ。ミサキちゃんがさっさと施設の視察に行ってくれて助かったわ」
「それからは施設住まいか」
「そうよ。充実させといて助かったわ」
 
 ユッキーはミサキちゃんがエレギオン児童養護施設を訪問した時にジャンプしたんや。そうなると、
 
「今から三十階行くか」
「別にイイよ。大学期間中は休暇でしょ」
「そりゃ、そうだけど。ちょっと御手洗に行ってくる」
 
 ミサキちゃんと、シノブちゃんが大変だったんだよね。いくらユッキーは死んでないって言っても、なかなか納得してくれへんかったもの。その辺の感覚はまだまだやもんな。それから、あれやこれやと話しとってんけど、
 
『カランカラン』
 
 ほら飛んできた。
 
「コトリ副社長、この方ですか」
「ユッキー社長ですよね」
 
 見てもわからんやろな。施設に住んでる関係で、ユッキーもあんまり容貌いじってないからな。
 
「いえ、わたしは・・・」
「ユッキー、意地悪せんときや。ホンマに心配しとってんから」
 
 あちゃ、二人とも泣いてもた。
 
『カランカラン』
 
 来てもたか。
 
「こっちがユッキーだな」
「生きてたんだ」
「御心配申し上げておりました」
 
 そう簡単に死ねるんやったら苦労するかいな。
 
『カランカラン』
 
 なんや皆来たんかいな。サトルに、ディスカルに、タケシに、マモル。なんか増えてもたな。まあそうなる思てたから今日は貸し切りにしといてんけど。
 
「今日はコトリのおごりや」
「それはダメです」
「なんでやミサキちゃん」
「今夜はなにがあっても経費で落とします」
 
 涙でグショグショやんか。ミサキちゃんだけやない、シノブちゃんも、シオリちゃんも、アカネさんまでやんか。理屈でわかってても、実感しにくいからな。
 
「ユッキー、もうちょっと生きてもエエ気がする」
「わたしもよ」
 
 まあこの辺は人それぞれやろうけど、やっぱり誰かに必要にされるってエエことやと思うで。四百年ぶりに記憶が甦ってから、いろいろあったけど、これだけ仲間が増えたんやもんな。
 
「マスター、モエ開けてくれる」
「かしこまりました」
 
 こういう時はシャンパンやろ、
 
『ユッキー社長の復活を祝って、カンパ~イ』
 
 あれっ、珍しいな。マスターまで乾杯に参加してるやんか。
 
「これは当店からのお祝いにさせて頂ます」
 
 二代目のマスターもよう心得てるわ。そう、ここは女神の集まるバー。この店が続く限り永遠の常連やもの。
 
「朝までお付き合いしますよ」
「よっしゃ、飲むで!」
 
 ま、しばらくユッキーともお別れやな。あの寂しがり屋がだいじょうぶかと思わんでもないけど、そやから港都大にしたんかもしれん。そのうち、三十階に入りびたりになりそうやけど、それもエエか。

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