怪鳥騒動記(第20話)東太平洋会戦
ブラジルを恐怖に陥れ、畜産物だけでなく農産物にも壊滅的な被害をもたらし、ついでにブラジル軍との戦闘であちこちに廃虚の山を作った怪鳥は隣国アルゼンチンに移動。もう翼開長どころか全長で五十メートルを越えてるんだよ。
アルゼンチン軍も勇敢に戦ったみたいだけど、あれじゃ、勝負にならないよね。鳩に豆鉄砲にもなってない気がする。
これでメキシコ、ブラジル、時間の問題でアルゼンチンがやられるけど、肉の値段と供給は思いの外に悪くない。店に行ったらテンコモリのオージー・ビーフと羊の肉のヤマ、ヤマ、ヤマ。
これは次がオーストラリアの公算が高くなったから叩き売りしてるで良さそう。どうせ鳥が来たら食べられちゃんだったら、その前に人が食おうってところみたい。でも、そんな奇形の供給状態がいつまでも続くわけじゃないだろうし。
国際会議では真剣に核兵器の使用が検討されてたけど、他国の核を自国で使われるのはブラジルでさえ嫌がってた。もちろんアルゼンチンも、オーストラリアもニュージーランドも。
だったら公海上になるのだけど、とにかく当たるかどうかは大問題。とにかくあんだけ図体がデカいのに、ステルス性は地球なんかと較べものにならないほど高いし、サーモグラフィで捕捉するのも大変、さらに静かに飛ぶんだって。
「シノブ、お待たせ」
「ぜんぜん」
マモルもエラン宇宙船のデータベース解読のために神戸に滞在中。解読と言ってもマモルじゃできなくて、ユッキー社長とコトリ先輩に丸投げ状態だから、時間はあるんだよ。
「鳥の行動パターンだけど、やはり食べるのが主目的と考えるとわかりやすいところがある」
それ以外に目的なんかあったっけ、
「どう言えば良いのかな、食べるのを邪魔しなければ、それ以上の行動はしないように考えてるんだ」
「でもNORAD襲ってるよ」
「あれについては、防衛反応が大きすぎるところがありそうなんだ。狙われれば先手を打って反撃すると言えば良いのかな」
つまり食べるのを邪魔しようと考えられるものは容赦なく排除するか。
「じゃあ、もし邪魔しなかったら」
「食べるだけ食べて移動するだけかもしれない」
それだったら比較的平穏だけど、
「一羽イナゴみたいな感じ」
「そんな感じ」
でも地球の食糧危機は起るよね。
「それはそうなんだけど、当面は戦い様がないじゃないか」
「そうだけど」
「オーストラリア政府は完全に開き直ったよ。無抵抗で食べるだけ食べさして去ってもらう作戦を取るらしい」
それじゃ、問題の先延ばしにしかならないけど、どこかの核保有国で始末されるのを期待するぐらいかな。
「でもアメリカは公海上で撃ち落とす計画を立てたんだよ」
「無駄じゃない」
「そこまで言いに行けないし」
鳥のレーダー対策も聞くだけでウンザリさせられるものね。エラン技術のステルスだけでも厄介なのに、レーダー波をほぼ反射しないって言うんだよ。熱もほとんど出さないから、赤外線ホーミングもやりにくいそうなんだ。
それにあの異常な小回り、速度の変化の激しさ。飛んでる鳥を追っかけるミサイルの映像があったけど、印象としては鳥が方向転換した瞬間にシーカーの探知範囲外に消えてる感じかもしれない。
「それは富士空幕長が言ってたよ。空対空ミサイルは、あくまでも相手が航空機の運動を想定して作られるってさ」
だよねぇ、ウルトラ警備隊じゃないんだから、鳥というか怪獣用の専用兵器なんてこの世に存在しないだろうし、開発するにしても時間がかかる上に、相手は一羽だもんね。でもアメリカは第三艦隊を投入してやったんだ。
「あれホントはどうだったの」
「鳥に裏をかかれたぐらいだな」
さすがは怪鳥チーム。よくそこまで知ってるって思ったもの。とりあえず鳥はアンデス山脈の東側にいるはずだから、まず東太平洋に第三艦隊は展開しようとしたらしい。そうしてアンデス山脈を越えてオーストラリアに進む途中で撃ち落とすぐらいの作戦かな。
そしたら鳥はいきなりアンデス山脈を越えたらしいんだよ。それも低空飛行でそっと。そのまま、海面滑走しながら近づき、潜ったそうなんだ。
「ソナーへの反応も鈍かった上に、水中速度も半端なかったそうなんだ。そのうえ、まだ鳥は来ないと予想していたから・・・」
あれはなんだと言ってるうちに鳥は空母に上がり込み、
「甲板上の航空機を次から次へと海に落とし、さらに甲板を破って船内に侵入したって言うから驚かされる」
格納庫内の航空機も破壊してしまったそうなんだよ。大暴れした後に再び甲板上にあがり、甲板をさらにビリビリと破り、最後に司令塔を握りつぶして空母から飛び去って行ったんだって。
米兵も小銃とか持ちだして応戦したそうだけど、そんなものじゃ効かないし、周囲の随伴艦も味方の空母を撃つわけにもいかず傍観。鳥はそこから艦を渡り歩くように次々と壊してまわり、悠然とアンデス山脈を越えて帰って行ったとか。
「それが熱核雷を使うチャンスを逸したのが勝負の分かれ目だったって発表された東太平洋海戦の真相とか」
「艦隊の被害は甚大だったけど、戦死者は少ないんだ」
たしかに発表の通り撃沈された艦艇はなかったけど、空母搭載機は全滅、甲板はボロボロにされて、他の艦艇も主要艤装もそこまで壊されたら、第三艦隊も当分は再起不能じゃないかな。
「とりあえず米軍は鳥が高速で長距離を潜水できる戦訓を得たぐらいの成果しかないとして良いよ」
「艦隊じゃ勝てないみたいね」
「米軍も二度と艦隊は出さないんじゃないかなぁ」
どうでも良いようなこぼれ話だけど嵐海幕長がホッとした顔をしてたって。海上自衛隊の戦力じゃ米軍に遠く及ばないから、出ずに済むと思ったんじゃないかって。海軍は一度艦を失うと、作り直すのにカネと時間がかかるものね。
「ところでシノブ、鳥騒動は長期化必至なんだよ」
「そうよね、これじゃ、いつ終わるか出口の見えない状態だものね」
「二人のことを考えようよ」
そうだよ。鳥騒動が終わってからなんて悠長なことを言ってたら、何年かかるかわかんないじゃない。そうやって、時間がかかってるうちに二人の間に隙間風は吹かない保証もないし。そしたらマモルは小さな箱を取りだして、
「シノブ、必ずあなたのことを幸せにします。どうかボクと結婚して下さい」
えっ、えっ、えっ、この展開でいきなり。でもシノブの心はとっくの昔に決まってるんだ。
「シノブで良ければ喜んで」
あとは正式のものにするだけ。今夜にどうしてそうしたかったから、戸惑うマモルを引っ張って三十階に、
「どないしたんシノブちゃん」
「そうよここはデート・コースに相応しくないわよ」
「ここでやってもエエけど、やっぱりホテルやろ」
そうじゃなくて、
「ユッキー社長、お願いします。シノブはマモルのプロポーズを受けました」
「ああ、そういうこと。今さらイイのに」
「しばらく式を挙げられない代わりです」
コトリ先輩が笑いながら、
「そういうことか。ユッキー、やったりいな」
「イイけど、女神の宣言も代用品扱いとはね」
「それでも、お願いします」
そしたらサッとユッキー社長の表情が引き締まり、朗々と、
「恵み深き主女神に代わりて首座の女神が宣す。マモルを四座の女神の男と認めたり」
マモルが唖然とした顔をしてたけど、シノブは跪いて、
「首座の女神様、ありがとうございます」
「幸せにね。式の時は呼んでね」
「ブーケトスはコトリに向って投げてや」
「それは難しいわよ。四座の女神のコントロールじゃ」
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