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目指せ! 写真甲子園(第21話)始動

 学年末試験が写真甲子園のエントリー開始日に始まったのは笑ったけど、なんとか終わって部室に集合。もちろん作戦会議だけど、エミ先輩のところに泊らせてもらって練習までしたから、ミサトの構想はだいぶ固まって来てるんだ。
 
「やはり朝日の中で撮るのが良いと思います」
「だね。やっぱり光が違うからね。で、どう撮る」
「逆光でギャロップが一番迫力出る気がします」
 
 静かな写真も悪くないと思うけど、ここはインパクト重視。
 
「バックは」
「屋外馬場の東側にちょっとした並木がありますから、そこをバックに持って行けば効果的な気がします」
「イイね、イイね、木々から漏れる朝日を背景に駆け抜ける感じだね。まずは今から見に行こう」
 
 部長も試験の出来は良さそうで上機嫌。学年末試験は午前中で終ってるから、
 
「今から行けばお昼も食べるし」
「部長もタダ飯目当てでしょう」
「散々食べて、温泉三昧だった尾崎さんに言われたくないな。ボクはちゃんと払うよ」
 
 試験が終わった解放感もあってピクニック気分でエミ先輩の乗馬クラブに、
 
「これは広いなぁ。もっと小じんまりしてるかと思ってた」
 
 とりあえず部長もエミ先輩の御両親に挨拶してレストランで昼食を、
 
「部長、やっぱりタダ飯になってるじゃないですか」
「人の好意は素直に受けるもんだよ」
 
 食事が終わってから、ミサトが目を付けていた撮影ポイントに、
 
「なるほど! この前を走ってもらうんだね。小林君、無理言って悪いけど、ちょっとでイイから馬を走らせてくれないかな」
 
 エミ先輩が馬を走らせる姿を見ながら、
 
「上手いもんだ。ボクもあれぐらい乗れたら楽しいかな」
 
 そういいながら目は真剣。しきりに並木と柵、さらに馬場の関係を確かめています。エミ先輩が近づいてくると、
 
「大きいもんだねぇ」
 
 エミ先輩が乗っているのはセルフランセだけど、体高が百六十センチ以上あるのよね。体高って背中までの高さを指すらしいだけど、跨っているところでミサトぐらい高さがあるぐらいなの。
 
「そろそろ帰ろうか」
 
 寒いのよね、小雪まで舞ってるもの。じっとしていると震え上がりそう。クラブハウスに戻って部長はエミ先輩のお父さんと撮影に付いてなにやら交渉。
 
「写真の甲子園の予選でっしゃろ。なんぼでも協力しまっせ」
 
 さすがにこの日はオシマイ。翌日になって部室で、
 
「これから初戦審査会に向かって作品を作って行くのだけど・・・」
 
 まずはスケジュールの確認からだった。今日は三月六日だけど、終業式が三月二十五日で春休み。
 
「入学式が四月六日で、七日が始業式だ。この春休みの使い方が前半のポイントになる」
「後半のポイントは?」
「ゴールデン・ウィークだ。今年は四月の二十九日が水曜日で、五月二日から五月五日までの四連休になる。締め切りは五月十五日だが、遅くとも五月十日時点で作り上げておきたい」
 
 ここで大事なのは春休みと、ゴールデン・ウィークでは撮れるものが違うこと。春休みなら桜が撮れるし、ゴールデン・ウィークなら初夏の風景に変わってるものね。校内風景だって、春休みは三年生が抜けた後になるし、ゴールデン・ウィークなら初々しい新入生がいるし。
 
「今回の作品はオープニングの一枚から紡ぎ出される物語にする予定だが、基本コンセプトはやはり躍動にしたい」
「それって校内予選会と同じ」
「そうなるし、このコンセプトは他校も使うだろうが、高校生らしさを打ち出すには欠かせないと思う」
 
 部長は初戦審査会の一作品ごとの審査時間は短いだろうと予想してた。これは麻吹先生もそう見ていたし、予想される参加校数からしてもそうなると見るのが妥当よね。
 
「静の写真で勝負するのはやはり不利と見たい」
「逆の期待はどうですか。他も動で来るのが多いでしょうから、かえって目立つとか」
「それも考えたが、ここはオーソドックスにいきたい」
 
 この辺は結果論になるけど、ミサトも動に賛成。どうも静の写真は苦手だし。
 
「肝心のオープニング写真だが、出来れば春休みまでに完成させたい。具体的には三月二十二日の日曜時点だ」
 
 朝に撮る予定だから、チャンスは明日と来週、再来週の土日か。それを起点に春休みに次に進みたいだよね。よし、頑張るぞ。
 
「尾崎さんの構想を現場に行って確認したけど、こんな感じはどうだろう」
 
 部長が絵に描いて示してくれたのだけど、
 
「部長」
「なんだい」
「絵は下手ですね」
「ほっといてくれ」
 
 これが絵かよ、小学生の落書き以下じゃない。そしたらエミ先輩がサラサラと描き直して、
 
「こんな感じですか」
「エミ先輩、上手」
 
 部長が凹んでたけど、これならわかる。並木越しに昇る太陽に馬が飛び立つ感じかな。
 
「でも、それをするには馬が飛ばないと」
「小林君、飛べる」
「う~ん」
 
 馬も障害飛越競技があるぐらいで、もちろん飛べるのだけど、
 
「平地で飛びあがらせるのは、ちょっとエミでは」
 
 障害物があると馬は飛び越えざるを得ないから飛ぶそうだけど、そんな必要のないところで飛ばすのはかなりの技術がいるんだって。だったら障害を置いての話になったんだけど、
 
「その絵の感じなら、アングルは騎手に対して並行ぐらいですよね」
「そうだけど」
「騎手は百六十センチもある馬に跨ってるじゃないですか。そしたら騎手の頭の高さは二百五十センチぐらいになるし、そこから一メートルでも飛びあがられたら・・・」
 
 エミ先輩は、
 
「飛ぶ時には騎手は前かがみになるから」
「それでも二メートル五十以上になるんじゃないですか」
 
 部長はちゃんと考えてて、
 
「脚立を小林君のお父さんに頼んでおいた。それより問題は天候と時刻だ。天候はどうしようもないけど、この時期の日の出は七時前ぐらいだ。あの並木に太陽がかかる時間は短いと思う」
「シャッター・チャンスは短いのですね」
「だから明日から尾崎さんは小林君の家に週末は泊り込みで頑張ってくれ。これも小林君のお父さんに頼んでおいた」
 
 やったぁ、温泉三昧だ・・・喜んでる場合じゃないか。写真部の作品はミサトのオープニング写真が撮れないと進まないんだ。
 
「部長も来るんでしょ」
「さすがに泊りは無理だ」
 
 だよね。部長は男だし。いくら部活でもエミ先輩の家に泊るのは非常識だもんね。
 
「尾崎さん、小林君、頼んだぞ。明日からの一枚、一枚が写真甲子園の夢につながってるんだ」

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