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謎のレポート(第10話)刑の始まり

「おはようございます。最後の晩餐は終わりました」

 メイド姿のマリたちが入ってきた。オレは再び椅子に縛られた。なんとかしようにも、体に力が入らない。痺れグスリが残っているのかもしれないが、とにかく最後の晩餐でオレのすべてを搾り尽くされてしまった感じだ。

 昨夜と同様に縛られたまま朝食を取った。この朝食の中にどんなクスリが入っているか、わかったもんじゃないが、食べないと体がもたないのは間違いない。朝食が終わりしばらくするとあの御主人様が現れた。

「最後の晩餐は楽しんでくれたかね」

 オレは返事をするのも億劫だった。そりゃ、二度とないと思った女の中にイケたのは嬉しかったが、女による地獄のような輪姦を経験させられたからな。やっと出た言葉が、

「どうする気だ」

 男は薄ら笑いを浮かべながら、

「最後の晩餐が天国に思えるようになるぞ。いや、新しい天国に入れるとも言える」

 その時に体にスウッと何かが流れ込んだ気がした。すると体を縛っていたロープが緩んだ。最後のチャンスが来たと思ったが、どうにも力が入らない。

「これが死刑以上の刑を受ける体だ。しばらくは体の使い方を教えてもらいなさい。マリ、頼んだぞ」
「かしこまりました」

 あの御主人様が部屋から出て行き、そこからロープを解かれたが、やっぱり力が入らない。昨夜の地獄の晩餐で気力も体力も絞られ尽くした脱力感とはどこか違う。とりあえず胸が重い気がする。どうなっているのだ見てみると、

「なんだこれは!」

 どこをどう見ても女のオッパイじゃないか。それも結構大きいぞ。乳首も女の乳首で綺麗なピンク色だ。それだけじゃない、オレは地黒だし、喧嘩三昧で歴戦の傷跡が数えきれないあったはずなのに、それがどこにも見当たらないし、肌も白くて、すべすべじゃないか。

 丸太ぐらいあったはずの腕の細いこと、折れてしまいそうだ。手も小さいし、指だって細い。どう見たってオレじゃないし、これは女そのものだ。だとすると、まさか、まさか、ウソだろう。

「無い、無いぞ」

 扱いなれたモノは影も形もなくなり。のっぺりして細い溝があるだけ。マリは、

「熊倉吾郎は完全にこの世から消滅しました。あなたの名はアリサです」

 部屋に持ち込まれた姿見の前に立つように言われてみたが、

「こ、これがオレだって・・・」

 オレは子どものころから身長が高くて今は一八五センチ以上はあったはず。だが映っているのは小柄な華奢そうな美少女だ。オレの動きに合わせて鏡の中の美少女は動くし、オレが見える範囲も、そのまま鏡に映っている。

「な。なにをした」
「見たままでございます」

 なにがどうなっているのだ。一瞬だぞ、あの一瞬で性転換しただけでなく、体も少女に作り替えてしまったと言うのか。

「これが死刑以上の刑」
「正確にはその刑を受けるための体でございます」

 そう言えば声もおかしい。野太かったはずの声は、細い高音のものになっている。そう女の声、それも可愛い声じゃないか。

「男に戻れるのか」
「いえ終身刑となっております」

 なんてこった。死ぬまで女として暮らせと言うのか。最後の抵抗を試みた。マリを倒して逃げようとしたのだが、

「無駄です」

 あっさり腕を捩じ上げられ抑え込まれてしまった。オレの力は見た目通りにか弱いものになっていた。マリの方が長身だが、それにしてもの力の差だ。というか弱すぎる。オレの力は小娘以下になってるとしか思えない。

「わかりましたか」

 マリに逆らうのは無駄だ。それはよくわかった。ここは暴れても無意味だ。様子をうかがうためにマリに従っておくしかなさそうだ。マリに勝てないなら、男相手なら誰であっても勝てそうにない。

 そこからマリはオレを浴室に連れて行った。浴室は部屋を出て左に曲がった突き当りにあった。そこで女の体の洗い方、髪の手入れを教えられた。そうそう髪も黒髪のロングになっている。

 風呂から上がると、予想していた通りメイド服が待っていた。脱がしたことはいくらでもあるが、身に着けるのは初めてだ。抵抗するのはあきらめて身に着けたが、女の服の着方がわからずマリに教えられていった。

 スカートも初めて履いたが、とにかく股間がスースーする感じが妙すぎる。胸を締め付けるブラジャーも苦しい。それに生地が肌に触れる感覚が落ち着かない気分にさせられる。そこから化粧になり、

「いずれ自分でして頂きます」

 マリの言葉は慇懃だし、教え方も丁寧だが、

「教えられたことは一度で覚えられた方が身のためです」

 女の格好をさせられるのに猛烈な抵抗感はあったが、マリの言葉の裏の重さを感じさせられた。教育係は学校の先公じゃない。覚えられないと、それを無理やりにでも覚えさせる手段を取るはずだと。

 メイクが終わると靴を履かされた。これがなんとハイヒール。靴を見た瞬間は、こんな小さな靴にオレの足が入るかと思ったが、足を見たらなんと小さなこと、履いてみるとピッタリだった。そこまでオレは小さくなっていると嫌でも自覚させられた。

 そこからヒールの歩行練習をさせられた。とにかく歩きにくい代物で、すぐに転びそうになる。部屋の中を何度も何度も歩かされてから、

「ヒールも決まりですから早く慣れるように」

 マリの口調や態度からわかるのだが、マリが『決まり』を口にする時はとにかく重い感じがする。決まりは守るべきなのはわかるが、裏返しに決まりを守れなければ重い罰がセットであるのは間違いなさそうだ。

「言葉も変えなさい」

 男言葉をやめて女言葉しろと言う事だ。それだけじゃない、仕草の一つ一つにも注意が入った。男ではなく女の仕草をしろと言う事だ。要は体が女になったから、心も女になれって事だと思うが、内心は鼻で嗤っていた。

 そんなもの言われたから、はいそうですかになるものか。体は女にさせられてしまったが、オレは男だ。女の心なんかになるものか。ただここで反抗しても無駄だし、意味がない。ここはマリの言葉に従って、女っぽいふりだけはしておいた。

 そうこうしているうちに昼食。この館に来てから、初めて手を使って食べたが、食事のマナーもマリはとにかく煩かった。口の動かしたかまで指導されたぐらいだ。昼食後は休憩時間みたいなものだったから聞いてみた。

「女ですから生理とか妊娠もあるのですか」
「ありません」

 助かった。女の生理は厄介だと聞いてるからな。それに妊娠させられて子どもを産まされるなんて真っ平だぜ。そうなるとこれは見た目だけの性転換なのか。

「いえ生理や妊娠こそ出来ませんが女としての機能は完全です。もう一人の御主人様が刑を行えば、生理も妊娠も可能になります」

 なんだって。御主人様がもう一人いて、そいつがこの刑を執行すれば妊娠まで出来るようになるって言うのか。なんだよ、それ。だが、どう見てもオレが女なのは間違いない。ニューハーフとも遊んだことがあるが、どんなに綺麗に見えてもあれは男だよ。

 性転換手術を行っても、元の骨格は変えようがない。聞いた話では骨を削って少しは変えることもあるそうだが、オレの変わりようはそんなレベルじゃない。身長だけで三十センチぐらいは縮んでる気がする。顔だってエラが張った厳ついデカイ顔だったのに、今はすんなりした小顔だ。元の熊倉吾郎の体の面影なんかどこを探してもない別人になってしまっている。

「ホルモン剤とかは」
「根っこから変わっていますから必要ありません」

 ニューハーフが女らしい曲線を維持するためにはホルモン剤の投与が必要だそうだ。女性ホルモンは男では作れないからな。だが今のオレは自分の体で女性ホルモンを作っていると言うんだ。

 午後も女教育をマリから受けた。またヒールの歩行練習だ。オレは歩くのもやっとなのにマリは歩く姿勢に注文を付けやがった。口答えすると、そのしゃべり方にイチャモンが付いてくる。まだ女になって初日だぞ。すぐに出来るもんか。やがて夕食になりやっと終わりになった。化粧を落とされて、

「今夜は慣れるために、そのままで寝てもらいます」

 メイド服のままでか。パジャマぐらいないのか。

「決して脱いではなりません」

 マリは部屋を出て行きカギがかけられた。扉は木製だが閉まる音を聞いただけで、重々しそうだ。かなり分厚くて頑丈だと見ないとならないだろう。つまりは殴ったり、蹴ったり程度ではビクともしそうにない。ましてやこの体だ。とりあえず女にさせられた一日目は終わってくれたみたいだ。

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