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怪鳥騒動記(第19話)データベース解読

 科技研に運び込まれたエラン船のメイン・コンピューターだけど小さいものなんだねぇ。これだけでもテクノロジーの差がどれだけあるか良くわかるよ。問題は動くかだよね。なんて言っても三十八年間も動いてないものね。
 
「ディスカル、どう、動きそう」
 
 あれこれディスカルがチェックしてるけど、
 
「これは本来宇宙船の電力を受けて動くものですが、非常時のためにエネルギー・パックによる稼働が可能になっています」
 
 なるほどね、
 
「それとカギですが、データベースはカギの種類によって開けられる範囲が変わります」
「ディスカルのカギで全部開かないの」
「全部開くのは偉大なるアラのカギのみです。後の物はそれなりの制約がかかります」
 
 そういうセキュリティ・システムか、
 
「では」
 
 動いた。ディスプレイに電源が入ったよ。それにしてもカギってあんなものだったんだ。なんかカード状のものを想像してたけど全然違う。ほんの小さな米粒みたいなものじゃない。
 
「これですか。宇宙船用にとくに小型化したものと聞いていますが、小さすぎてかえって紛失しないようにするのが大変です。まあ、これだけ小さいからゲリラ戦の時も持ち運べたとも言えますが」
 
 それから何やらディスカルは話しかけていますが、
 
「う~む、音声認識装置の方は故障か、それとも・・・」
 
 ここもセキュリティみたいで、カギを開けただけでは不十分で、声紋によるチェックもあるぐらいで良さそう。ただ、今回の場合は自衛隊でチェックした時の影響で音声認識装置自体が故障している可能性も否定できないかもって、
 
「そうなるとだが・・・」
 
 あれこれディスカルはやってますが、
 
「困ったな、取り外されてるぞ」
 
 そういう時のために地球で言うキーボード的な装置があったそうだけど、これも取り外されてるって。
 
「ディスカル、開かないの」
「う~む、キーボードの製作は難しいし、私の手に負えない。そうなるとマイクの方がまだ可能性があるが・・・」
 
 そこに顔を出したコトリ先輩が、
 
「苦戦中やな」
「さすがに三十八年前のもので」
 
 ディスカルから事情を聞いたコトリ先輩は、
 
「キーボードもマイクも無理やろ」
「でもこれでは」
「でもキーボードやったら、あっちにあらへんか」
「なるほど」
 
 そっかそっか、科技研には他のエラン製品も研究で持ちこまれてるんだ。三時間ぐらい格闘の末に。
 
「これで調べられるぞ」
 
 と、ここまではまだしも順調だったんだけど、ここからがディスカルの本当の意味での苦戦が始まっちゃったのよ。とりあえず操作できるのはディスカルしかいないから任せるしかないのだけど、
 
「ここまでか・・・」
「クソッ、ここもここで終わるのか」
「これもだ・・・」
「だったら、こっちからでは・・・」
 
 後は任せて帰ったんだけど、
 
「どうなってるのですか」
「たぶんやけど、あのカギで調べられる範囲の問題やろ」
「でもディスカルは調べられるって」
「ディスカルが考えたよりアンズー鳥の機密性が高いんやと思うで」
 
『コ~ン』
 
 一週間後にディスカルがやってきた。
 
「結論から申し上げますと、アンズー鳥に関する情報は最高クラスの機密指定になっており、あのカギで直接読むことは不可能です」
 
 なんだって、それじゃ、
 
「そこで可能な限り周辺情報を検索してみました」
 
 ドサッと置かれたプリント・アウトされた情報の山。
 
「不確かな部分も多いですが、千年前の怪鳥騒ぎの時は偉大なるアラもかなりの苦戦を強いられたで良さそうです。当時のニュース記事の断片からも、大きな損害を出しています」
 
 エラン文字はさすがに苦手だなぁ。
 
「そこで偉大なるアラは、かつてのハンティング時代の鳥の弱点を公募して集めたとして良さそうです」
「そんなものまでデータベースに残ってなかったん」
「ええ、千年戦争の時にかなりのデータが失われています」
 
 戦争は良くないよね。
 
「なんちゅうかハンター協会みたいなものはなかったんか」
 
 エランのハンティング事情は特殊だったで良さそう。エランでは早くに大型獣が滅びて、多くの動物が保護対象になっていたで良さそう。言い切ってしまえばアンズー鳥ぐらいしかハンティング対象はいなかったぐらいかな。

 だからハンターを増やしたくなくて、ハンティング方法はハンター協会みたいなところの秘密になってたみたいなの。この秘密主義が昂じて、一般に流布されるようにはならなかったぐらいかな。

 そこに千年戦争が起ったんだけど、ハンターは銃も上手だから動員率が高く、結果として戦死率も高く、千年戦争が終わった頃には全滅状態に近かったって、
 
「ハンター協会が反アラ派に加担したのもあったようです」
 
 結果としてハンティング法は後世に伝わらなかったぐらいで良さそう。
 
「ほんじゃあ、アラが鳥戦争をやったときは」
「通常兵器の乱射で対応できたようです」
 
 通常兵器っても、戦艦主砲のマシンガンみたいな物凄いやつだけどね。
 
「それじゃあ、最後の鳥の時は例のガトリング砲でも」
「そのようです」
 
 でも最後は倒してるけど、
 
「これもどうやらですが、偉大なるアラはハンター協会の残したハンティング法を見つけた気配があります」
「でもそれが機密指定」
「そうなんですが、それは具体的な方法を詳細にマニュアル化したものじゃなさそうなのです。なんというか、もっと文学的なものです」
 
 ディスカルが言うには、ある種の詩のようなものになっていたらしいと言うのよね。でもって、これを読み解いて作戦にした方はガチガチの機密指定で読めないそうだけど、
 
「詩の方は断片的ですが、見つけることが出来ました」
 
 見せてもらったけど、シノブじゃ読めないな。ここでコトリ先輩が、
 
「これがそうか」
「訳しましょうか」
「意味ないやろ」
 
 ユッキー社長まで、
 
「そうね日本語に訳しても意味ないよ」
 
 どういうこと、
 
「コトリもまさかこんなもの見るとは思わんかった」
「わたしもよ。ディスカル、こういう形式ってエランではポピュラーなの」
「古典では出てくることはあっても、この形式で新たな詩が書かれる事はありません」
 
 そうなんだ、
 
「どれぐらい古いの?」
「起源となると一万五千年は遡ります」
「だからか」
「そうよね」
「御存じなんですか」
 
 ユッキー社長が、
 
「この形式の詩は地球にも伝わってるのよ」
「地球にですか」
「そうよ、でもこれが読み書きできるのはわたしとコトリぐらいしかいないと思うよ」
「ユダでも無理やと思うで。あれは主女神しか覚えてなかったんちゃうやろか」
「まさか詩人でもあったとはね」
 
 ビックリするしかないけど知ってるんだ、
 
「読めるのですか」
「すぐには無理や。これは読み方があるんやけど、それを見つけん限り無理や」
「そうよ、古代エレギオンではこれを神韻と呼んでたわ」
 
 そこから二人はああでもない、こうでもないと文字列と格闘。
 
「コトリ、足りなすぎるよ」
「こう抜け抜けじゃ話にならん」
「アラ、生かしといたらよかったね」
「死にたいもん止められるか」
「それもそうね。やっと死ねたんだもの」
 
 ディスカルもまだ残っていないかデータベースと格闘中。

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