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純情ラプソディ(第18話)学生カルタ界

 カルタ会の活動は公認大会への参加。これは二つ意味があって、まずは昇段・昇級のため。必ずしも昇級・昇段するのだけがカルタの目的じゃないけど、競技カルタでは級位によって大会で戦える相手が変わるのでA級四段はやはり欲しいものね。

 もう一つはメジャーな大会への出場権を得る事。A級の個人戦の定員は百二十八人に決まっていて、それ以上の応募があったら実績で足切りされるのよね。その実績を得るのが公認大会の成績でA級得点で評価されるんだ。

 ここも大雑把に言うと、A級の選手は各地の公認大会でA級得点を稼いで名人戦・クイーン戦を頂点とするメジャー大会への参加、もちろん優勝を狙うのが活動の中心になると思ったら良いと思う。

 学生特有のものとしては、学生だけが出れる大会もあることかな。高校生しか出れない全国高校カルタもその一つ。大学生なら全日本かるた大学選手権がある。大学同士の対抗戦になるから盛り上がるんだって。もう一つ似たような名前の大会に、
 
 全国競技かるた学生選手大会
 
 これがある。歴史のある大会なんだけど、ここの学生の意味は大学生じゃないんだよね。すべての学生、そう小学生まで含んだ学生の大会。ユースとジュニアのための大会ぐらいの意味に近いかな。ヒロコも勘違いしてた。

 
 個人戦はそんな感じだけど団体戦も盛ん。全国高校カルタもそうだし、大学選手権でも個人戦もあるけど団体戦がメインだものね。団体戦の特徴は級位に関係なくチームを組めるところだけどA級得点とは無関係。

 一番有名で歴史もあるのが全国職域学生かるた大会。名前がちょっとダサイ感じがするけど、たぶんだけど学生に加えて職域、つまり社会人チームを加えてるって意味だと思ってる。個人的には素直に全日本団体戦ぐらいにしたらスッキリして良いと思ってるけど、伝統の大会だから変わんないだろうな。

 この辺は職域チームが単なる社会人でなく、職場というか会社単位でチームを作る事になっているからかもしれない。ここはそうしないと社会人オールスターみたいなチームが出現しちゃうから、そうなってると思ってる。

 この大会だけどトータルすれば大学生が強いけど、高校生が三連覇したこともある。最近では大学生が強いけど、上位に高校生が出てくることも珍しくないのよね。そりゃ、ヒロコのところの県代表が全国で活躍しないのはよくわかる。C級のヒロコのいたチーム程度で全国に後一歩レベルだもんね。

 それ以外なら全国大学かるた連盟の加盟校だけの王冠戦がある。王冠ってなってるのはビール会社が後援してくれてるからだけど、東西でまず学生王冠を決めて、優勝校同士が戦う大会なんだ。

 全日本かるた大学選手権大会はすべてトーナメント制だけど、王冠戦はリーグで東西王者を決めるのが特徴かな。リーグ戦にしている関係で関西でも関東でも一部とか二部に分けてるけど、港都大は関西二部。去年は全敗だったやつ。

 
 カルタだけど男女で差があるかだけど、ハッキリ言ってないと思う。その証拠って程じゃないけど、団体戦は男女混合でチームを組むもの。それだけじゃない、全日本選手権大会も全国選抜大会も他の大会も男女混合で行われるし、女性選手も普通に優勝してる。

 だったら頂点の名人位も男女一本にしたら良さそうなものだけど、なぜか別々になってるんだよね。これは雛野先輩に聞いたんだけど、
 
「大昔は男女がカルタで対戦するのを避けてたそうよ。だって、どうしても手が触れちゃうじゃない」
 
 いつの時代の話かと思うけど、カルタの歴史は古いからこれも伝統かな。梅園先輩はもっとドライで、
 
「頂点のタイトルが二つある方が取れる確率が上がるじゃない」
 
 カルタだけど学生のレベルが最強とも言われてる。これは競技特性にあるとして良いと思う。とにかく記憶力、判断力、瞬発力が要求されるから若い方が有利なんだよね。現実にも名人位もクイーン位も学生が保持してるもの。

 さらに体力も必要。試合時間は一時間から長くて一時間半ぐらいかかるけど、試合時間中は常に極度の集中力が必要なのがカルタ。それこそ札が配られた瞬間から、勝負が決まる最後の一枚まで途切れることなく続くもの。これが大会となると一日何試合もこなさないとならなくなる。

 それと練習量でも社会人はハンデがある。学生だって学業があるけど、社会人になるとモロ仕事だもの。それに野球とかのように企業が運営してカルタに専属できるチームがある訳じゃない。あっても同好会程度のもので、あくまでも個人の趣味なのが競技カルタだよ。

 それとカルタにプロとアマチュアの区別はないけど、ほぼアマチュア。賞金や副賞が出る大会の方が珍しくて、大会参加はすべて自弁。遠いところの大会に参加するなら交通費も宿泊費ももちろん自前。

 でもプロって見方も少しはある。たとえば小倉山杯。他なら学生王冠戦も副賞はビール一年分だから、どうしても欲しいって梅園先輩も言ってたぐらい。ビール好きだものね。他の競技ならプロとアマの区別が厳密なところもあるけど、カルタは曖昧と言うかそもそも意識してないぐらいで良いと思う。

 それでも基本的にはアマチュアが名誉を懸けて戦うものってところかな。だから学生なら熱中できても、社会人では片手間になってレベルが下がる傾向があるものね。だから学生優位の構図はなかなか変わらないかな。

 
 その学生のレベルだけどやはり関東が優位。梅園先輩の静岡もかつてはダントツの強豪県だったらしいけど、今は東京が強い。首都だから人口も多いし、人口が多いからカルタ人口も多くて層が厚いのよね。大学の数だってウジャウジャあるし、地方からカルタ経験者が集まってくるのも東京だものね。

 だけど団体戦にしろ、個人戦にしろ東西の成績は言うほど離れていないのもある。この辺はなんだかんだといってもカルタ人口の薄さがあるのよね。特定世代の強豪の出現率は限られてるし、絶対数もまた少ない。その強豪が東西どちらの大学に進むかで覇権が大きく左右されるもの。現実にも名人位は東京だけど、クイーン位は関西だものね。

 それとカルタの強豪と言っても入学するときには関係ないのよね。別にカルタ強豪大学があってそこに憧れて進学するものじゃない。もちろんスポーツ推薦なんてのも影も形もないもの。

 いかにカルタ好きでも、進学先は自分の将来を考えて選ぶもの。そこにカルタ会があるかどうかなんて誰も考えないよ。この辺はそもそも高校カルタ部があるところは進学校が多いのもあるものね。

 全般のレベルは東京の方が高くとも、個人戦なら一人強いのが関西に居れば勝っちゃうし、団体戦でも五人、いや極論すれば三人ムチャクチャ強いのがいれば優勝しちゃうのがカルタ。大学選手権でも福岡の大学が優勝したりもあるもの。

 
 それでもって話じゃないけど、関西の大学の東京への対抗心は強いかな。やっぱり近江神宮のお膝元だし。小倉百人一首が選ばれたのも京都。藤原定家が小倉山荘で選んだから小倉百人一首なんだって。もっとも平安時代だけど。なんとなく元祖であり、本家って意識はあるぐらい。

 ただ競技カルタになると元祖は微妙になる。競技カルタの原型のようなものは各地で行われていたそうだけど、現在の競技カルタの始まりは明治三十七年に萬朝報の黒岩涙香であり、第一回の全国競技会を東京日本橋の常磐木倶楽部で開催したとなってるんだよね。そういう意味では競技カルタの本家は東京になるけど、その辺も古すぎる話かな。

 
 ヒロコの港都大は関西学生カルタ連盟に所属になる。加盟校は、
 
 ・滋賀・・・立命館
 ・京都・・・京大、京都府立大、同志社、佛教大
 ・奈良・・・奈良女子大
 ・大阪・・・阪大、大阪公立大
 ・兵庫・・・港都大、西宮学院
 ・岡山・・・岡山大
 ・広島・・・広島大
 
 関西で一番強いのは近江神宮のおひざ元の立命館。ここは学内にカルタ会がいくつもあって、団体戦となると選抜チームを組んで送りだしてくるらしい。次が京大で、ここには現役のクイーンがいるものね。関東は名人がいる東大、早稲田、慶応が三強で東北大も強いんだって。

 でもうちだってチャンスがないわけじゃない。学生のレベルは高いけど、とにかく四年で卒業しちゃうから、いくら強い選手がいたって入れ替わるもの。その逆もあって、ひょこっと強豪選手が入学してくると勢力地図が塗り替えられるのが学生カルタなんだ。

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