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エレギオン残照(第30話)コトリの独り言

 今日は重役会議。コトリも腹を決めなきゃね。

「次の議題だが聖ルチア教会が復活したのは諸君も知っておると思う。当社と聖ルチア教会の関係は昔から深いものであり、ブライダル事業に是非利用したい」
「社長、利用は可能と思いますが、それだけじゃないですよね」
「そうだ、出来れば優先使用としたいし、可能であれば独占使用にしたい」

 まあ、そうなるわよね。そうなりゃ、メリットが高いのは目に見えているけど、

「そこで交渉担当だが、これは総務部の渉外に該当するとまず考えるが」

 定石ではね。通常ならミサキちゃんで十分だけど、今回はちょっと違うのよね。

「でも、社長。この交渉は重大です。香坂副本部長の手腕を疑うわけではありませんが、ブライダル事業部に委ねる方が良いのじゃないでしょうか」

 そういう意見も当然出てくるわね。これはブライダル事業が担当する方が適任と言うより、シノブちゃんの方が実績があるものね。たぶんだけど社長の腹はミサキちゃんに手柄を挙げさせたいだと思うけど、

「ブライダル事業部に直接関係するとの意見はもっともだが、私はまず香坂君に交渉に当たってもらおうと思う」

 やっぱりね。ミサキちゃんの実績は確かなものだけど、今までのものはコトリの秘書役として挙げたものが殆どなのよね。だから今でも重役には伴食と見られちゃう部分があるのよ。だから社長はミサキちゃんに一人で作った実績を上げさせたいんだ。

「小島君、君はどう思うかね」
「はい、香坂副本部長が適任かと」

 こらミサキちゃん、そんな目でコトリを見ない。だいじょうぶ、コトリが付いてるんだから安心しなさい。

「では香坂君に任せると言う事で決定にしたい」

 会議後に

「コトリ専務、ちょっと無謀じゃないですか。ミサキには戦う力がありません」
「戦うなんて殺伐なお話ねぇ。ところで日曜日にサルベッティ大司教が聖ルチア教会でミサを行うわ」
「えっ、ついに来るのですか」
「もう来てるよ。そのミサにコトリも参加する」
「ではミサキも」
「来ちゃいけない。行くのはコトリだけで十分だから」
「でも・・・」

 ミサキちゃんはイイ子だよ。シノブちゃんもそう。どちらもコトリの分身みたいなものだし、コトリのイイところを注いで作ったんだ。二人ともコトリに取って友達と言うより娘みたいなものなんだ。いや、本当のところを言うと娘を作ったんだ。可愛い可愛い娘をね。だから親のコトリは娘のためになんでも出来るの。たぶん本当の親ってこんな感じだと思ってる。

 コトリが生き続けているのはユッキーのためと言うのもあるけど、二人の娘を見守るためってのも大きいのよ。どれかが欠けていたら、ここまで生きて来れなかった。そう言えばユッキーも羨ましがってたもんな。あれだけ何でも出来るユッキーが、神の分身だけはどうしても作れないのよね。泣いて悔しがってた時もあったっけ。

 ミサキちゃんもシノブちゃんもイスカリオテのユダには会わせたくないんだ。二人にはユダもイエスが作った使徒の祓魔師の一人だと言ったけど、たぶん違うと思う。十二使徒の中でもユダは別格なのよ。あれは神としてイエスと肩を並べる存在であったと見た方がイイの。

 そうなると神を取り込む力も使徒の祓魔師とは段違いの可能性があるわ。ミサキちゃんや、シノブちゃんでは正直なところ危ないかもしれないぐらい。コトリだって絶対だいじょうぶとは言い切れないぐらいかもしれない。コトリはどうなっても今さら気にもならないけど、二人にそんな危険な目に遭わせるわけにはいかないよ。

 そうそうコトリに万が一の事があったらユッキーに二人のことは頼んでる。ユッキーも二人を可愛がってるからね。だって四百年も抱えて手放さなかったぐらいだもの。コトリがもしユダに取り込まれたり、殺されたりしたらユッキーが二人を守ってくれるわ。もっとも、その前に怒り狂ったユッキーがユダを宇宙の塵にするだろうけど。

 でもこの体での人生は楽しい方に入るんじゃないかな。記憶の封印が残ってる間だって、高校や大学時代も楽しかったし、この会社に入ってからも楽しめてた。カズ君との恋も良かったわ。あれだけ一途に純情になれたのは本当に久しぶり。情熱的な恋もイイけど、純情な恋はまた別格だもの。カズ君には感謝してる。シオリちゃんとお幸せにね。

 記憶が戻ったのは良かったか悪かったかだけど、それでもユッキーとまた再会できたから文句なしか、もちろん二人の娘にも会えたし。こう考えるとコトリにやることは残ってない気がしてる。

 こんなことを思うのもこの体の寿命が近づいてるから。コトリは様々な能力を与えられてるけど、宿主である人の体の寿命だけは短いの。だいたい五十年ぐらい。これだってそんなに短いと思ってなかったんだけど、これだけ平均寿命が延びても変わらないのはわかった。コトリに長寿はないの。

 これはユッキーやミサキちゃん、シノブちゃんはそうでないから、コトリだけがそうみたい。だから後せいぜい五年程度。もちろん次に移るだけだけど、また会えなくなるなぁ。エレギオン時代だったら、

「今度はコレにした」

 そう言って見せびらかしたものだけど、今の世の中じゃ難しいものね。出来ない事もないけど、クレイエールで働くのは無理だし。だからシノブちゃんや、ミサキちゃんともっと会いたいんだけど、二人とも子育てに忙しいし、旦那とラブラブだしで、コトリが入り込めないもの。

 そうそうあの二人は記憶を受け継がないから、こうやって会えるのも本当に最後かもしれない。次に移った時にコトリにはわかっても、あの二人にはわからないもの。また、ユッキーと二人だけになるんだものね。

 結局はそうなるんだよねぇ。始まりが二人だからいつまでも二人。これだったら、エレギオンで野垂れ死んでたら良かったな。あそこで野垂れ死んでたら、次に移るのは難しかっただろうし。でも、そうさせてくれないのもわかってた。勝手に死ねないのも嫌と言うほど経験してる。さてユダに会ってくるか。

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