ミサトの不思議な冒険（第23話）チーム結成

　朝起きたら二人の選手が現れるかと思ったけどそれもなく、
 
「行くぞ尾崎」
 
　競技スケジュールは八時に開会セレモニーとルールの最終確認、使用機材のチェックがあって、九時に撮影開始。三時間の撮影時間で、十二時にメモリー・カード提出。一時間の昼休憩を挟んで、二時間のセレクト会議。十六時から公開審査で勝負を決めるってなってる。

　ミサトたちは七時にヒルトン・ホテルに着いて控室に案内されたんだけど、相変わらずミサト一人。どうなるんだろうとヤキモキしてた。
 
「麻吹先生、あと二人は」
「心配するな」
 
　もう一つ心配なのは組み写真を紡ぎあげるテクニック。ミサトの腕も上がったはずだけど、オフィスでもハワイでも組み写真のトレーニングをやってないのよ。そりゃ、加納アングルも、光の写真も、さらにミサト・アングルも超難度のテクニックだけど、団体戦ではチームの技量が合わないとならないのよ。ミサトに組み写真の才能が無いのは部長の時に思い知らされたもの、
 
「それも考えてある」
「でも開会式まで一時間もありません」
「わたしは負ける気はない」
 
　だから、チームが出来なきゃ、不戦敗じゃない。その時に、
 
『コンコン』
 
　ノックして誰かが入って来たけど、若い男と女。うん、えっ、えっ、えっ、
 
「よく来てくれた。このチームで戦ってもらう。紹介はいらんだろ」
 
　え、あのリボンの女の人は、男の方も見覚えが、まさか、まさか、そんな夢のようなことが、
 
「ミサトさん久しぶり」
「二年ぶりだね」
 
　思わず抱きついちゃった。リボンのシンデレラのエミ先輩と野川部長だ。うん、このメンバーなら最強だ。チームワークも完璧、組み写真の団体チームなら日本一、いや世界一かもしれない。
 
「どうしてここに」
「いつもの麻吹先生のムチャ振りだよ」
「そう言うな。ハワイ旅行が付いている」
 
　ハワイと日本の時差は十九時間、そのうえ日付変更線までまたぐからややこしくなるけど、昨日のミュラー先生たちとの昼食が終り宿に帰ったのが十七時ごろ。麻吹先生がミサトの日本へのお土産を買うのに付き合ってくれたんだ。
 
「コトリさんから連絡があったのが昼過ぎで、急遽ハワイに行って欲しいって」
 
　あの時の電話だ。あの電話の相手はコトリさんだったのはわかるけど、
 
「どうしてもっと早くコトリさんに連絡しなかったのですか。ロイド先生たちとの昼食は十四時過ぎには終わってたじゃないですか」
「あれか･･･」
 
　その日のコトリさんは沖縄出張中。ハワイの十四時は日本の九時で、その時にはコトリさんは、沖縄担当大臣や沖縄県知事、さらに那覇市長や沖縄の財界人を交えた会議が始まっていたそうなんだ。

　麻吹先生もコトリさんに連絡を取ろうとしたみたいだけど、会談中はコトリさんのスマホはオフ。だから秘書さんに連絡を取ったけど、とにかく会議が終わらないと、どうしようもなかったみたい。
 
「昼ぐらいまで連絡の取りようがなかったから、そこまでの時間つぶしに尾崎の買い物に付き合っていた」
 
　エミさんは北六甲クラブにいたそうだけど、野川部長は用事があって出かけていたそう。大急ぎで旅行の準備をしたそうだけど、
 
「エミもマナブもパスポート持ってなかったから大慌てになって･･･」
 
　マナブって･･･そうだった、そうだった、野川部長の名前は『学』だった。そこはさておき、こんなもの間に合わないじゃない。パスポートの申請には本人確認書類と写真と戸籍抄本をそろえるだけでなく、後日交付なんだよ。
 
「それがエレギオンＨＤから来た人があれこれ交渉してくれて･･･」
 
　スッタモンダの末にパスポートが手に入ったのが、十七時頃だって。どんなマジック使ったんだろう。後は関空からハワイ便に乗れば良さそうなものだけど、早くても二十時半頃になっちゃんだよ。

　ハワイと日本の時差の関係で、たとえば関空発二十一時でハワイに十時ごろに到着するぐらい。これじゃあ、七時どころか八時にも間に合わないよね。
 
「連れて行かれたのは神戸空港だったのよね」
 
　そこからどうやってと思ったけど、エレギオンＨＤのビジネス・ジェットで飛んで来たと言うから腰抜かした。
 
「そりゃ、ビックリしたわよ。あのコトリさんがエレギオンＨＤの月夜野社長だったのよ。エミもマナブも驚いたのなんのって」
 
　麻吹先生から連絡を受けたコトリさんは、午後の視察を十四時に切り上げて十六時過ぎには神戸戻り、そこから給油が終りハワイへのフライト許可が下りたのが十九時過ぎだって。
 
「さすがはコトリちゃんだ」
 
　あのぉ、麻吹先生はコトリさんに丸投げしてるだけじゃない。ハワイ時間なら零時過ぎになるけど、そうなると日本とハワイは六千キロあるから、
 
「七時間足らずで飛んできたのですか」
「絶対に間に合わすって機長は張り切ってたけど」
 
　さすがはエレギオンＨＤのビジネス・ジェットだ。
 
「麻吹先生、よく間に合いましたね」
「ああ、コトリちゃんが請け負ってくれたからな」
 
　頼む方も頼む方だけど、請け負う方も請け負う方だよ。そりゃ、このチームなら即席でも問題ないけど、
 
「もし間に合わなければ」
「そんなもの不戦敗に決まっている。だがなコトリちゃんがそんな事をさせるとはずがないと安心してた」
 
　綱渡りもイイところじゃないの。