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怪鳥騒動記(第17話)ディスカル

 どうにも信じれれないですが、シノブがエレギオンの女神だったとは。でも、あのホウキとチリ取りはトリックには見えません。シノブが輝いたのもです。まだまだ混乱が続くボクですが新たな来客が、
 
「悪かったね」
「シノブ専務の彼氏が見れますからオツリが出るぐらいです」
 
 この人も知っています。地球全権副代表にして、ECO副代表、エレギオンHDの霜鳥常務に間違いありません。
 
「初めまして霜鳥梢です。こちらは夫のディスカルです」
 
 白人が旦那さんか。小山社長が、
 
「ディスカルが鳥の専門家だよ」
「いえ、私が知っているのは断片的な知識だけで」
「でも地球で一番知ってることになる」
 
 もう仰天しっぱなしです。ディスカルさんを紹介されたのですが、
 
「ディスカルって、あの、あの・・・」
「話は聞いています。信じてもらうしかありませんが、私はエラン総統府親衛隊二番隊長のディスカルです」
「でも亡くなったはず」
 
 そうしたらディスカルさんは辛そうな顔になり、目に涙を浮かべ、肩を震わせながら、
 
「仲間はすべて失いました。母なるエランでもそうでした。そのエランも滅びの時を刻んでおります」
 
 これは拙いことを聞いたみたいです。
 
「平山博士、出来たらそっちの話題は、そこそこにしといてくれてあげる」
 
 もう間違いない、本物だ。
 
「アンズー鳥は大いなる災いの鳥。これを地球に持ち込んだのは、エラン人しかいません。この責任は最後のエラン人である私の責任でもあります。聞きたいことがあれば、わかる範囲でお答えします」
 
 聞けば聞くほど奇怪な鳥です。
 
「ではあれほど巨大化したのは」
「おそらく、その通りです。エランと桁違いのエサの量がありますから」
「これから、どこまで成長するとお考えですか」
 
 ディスカル氏は考え込んで。
 
「生物的限界があるでしょうが、確かなことは」
 
 たしかにブラジルに行って実物を見るより遥かに知識が増えました。でも聞けば聞くほど打つ手などありそうな気がしません。
 
「それでもエランでは鳥を退治できたのですよね」
「結果としてはそうです」
「でもどうやって。聞く限りでは核兵器が直撃でもしない限り倒せそうにありませんが」
「弱点があったのだけはわかっています。なにしろハンティングの対象にしていた時期があるぐらいですから」
 
 あの鳥に弱点が。
 
「ただ弱点の記録がエランにも残されているかどうかは疑問のところがあります」
「どういうことですか」
「最後にエランに現れた時に偉大なるアラが退治しておりますが三ヶ月かかったとなっています」
 
 エランでもそんなにかかったんだ。そうか、弱点がわかっていれば三ヶ月もかかるのはおかしいと言う事か。
 
「ハンティングが行われていた時代は偉大なるアラでさえ、記憶に留めていなかった可能性があります。またハンターは、見つけた鳥の弱点を公表していなかった可能性もあります」
 
 いわゆる秘伝扱いだった可能性もあるということか。
 
「最後の怪鳥はエランでも化物じみた大きさであったとなっております」
 
 それでも翼開長で二十メートルとは小さく感じてしまう。
 
「それより小型の怪鳥はエランの通常兵器で駆除できたと見て良いかと考えています」
 
 どういうこと?
 
「最後の怪鳥は、もしかするとエランの通常兵器でさえ通用しない事態が起ったのではと」
 
 だから三ヶ月も、いやそうじゃなくて、
 
「あくまでも可能性です。手強い怪鳥対策のために偉大なるアラが弱点を調べ出したのではないかと。もしくは様々な攻撃を行った末に見つけ出したか」
 
 それでも千年前。もちろんディスカルさんも覚えていないし、地球には他のエラン人はいない。
 
「でも我々は見つけようがありませんし、地球の兵器は千年前のエラン兵器に較べても威力はかなり落ちるはずです。そうなるとやはり核兵器」
 
 ここでディスカルさんが、
 
「地球文明はエラン文明よりかなり遅れていますが、確実にエランより優れているのは核戦争を起さなかったことです。エラン人は愚かでした、全面核戦争を経験して、やっと核兵器の自制を覚えたのです。ですから使うべきではありません」
 
 それはわかるし、どこの国も使いたくはないでしょうが、あの鳥を放置できないではありませんか。それこそ地球が滅ぶかどうかの究極の選択。
 
「そう考えて、かつての愚かなエランの指導者たちは核のボタンを押したのです。まあ、こんな精神論は一介の軍人には関係ありません。軍人が考えるのは勝利を得る手段です」
「そうは言われても失われた弱点の記録を地球で見出すのは困難です」
「見つかる可能性はあります」
 
 ここで小山社長が、
 
「平山博士は、鳥問題特別対策チーム、別名怪鳥チームのメンバーですよね」
「ええ」
「鳥対策のためには、かなり大きな権限を与えられていますよね」
 
 怪鳥チームも最初は情報収集ぐらいのものでしたが、怪鳥問題が大きくなるにつれて機能が強化されています。現在はあの怪鳥が日本に飛来する可能性を考えての具体的な対策が求められています。

 スタッフも強化され、トップは村松総理になっています。さすがに総理が常に臨席とはいかないために実質的には特命の井出大臣が委員長代行となっています。他にも岩本防衛大臣だけではなく、制服組の早田陸幕長、富士空幕長、嵐海幕長もメンバーとなっています。
 
「是非見たいものがあります」
「なんですか」
「エラン船のメイン・コンピューター。あそこのデータバンクにはアンズー鳥の情報が残されている可能性があります」
 
 でもあれは、
 
「そうです。ロックが掛かって動きません」
 
 メイン・コンピュターだけでなくエラン船の、ほぼすべての機器がロックがかかって動かなかったはず。
 
「あの船はガルムム評議会議長が指揮された船です。あのロックの解除のためには評議会議長のカギが必要です」
「ではそのカギは船内に残されているはず」
 
 小山社長が、
 
「カギは見つかってないのよ。ディスカルの推測では、カギと気づかずに分解または紛失してしまった可能性があると見てるわ」
「では、やはり開かない」
 
 するとディスカルさんは、
 
「カギは一本ではありません。総統が地球に来られた時も、持って来ていました。そのカギはエラン帰還後のゲリラ戦でも生き延び、最後の作戦の時に宇宙船奪還に向かう私とアダブに託されています」
 
 えっ、あるのだ。
 
「でもねぇ、メイン・コンピューターは自衛隊管理になってるのよ。つまりディスカルにも、エレギオンHDでも手が出せないよ」
 
 カギがあるなら開く可能性があり、謎のエラン文字もディスカルさんや、小山社長なら読めることになる。問題はどうやって話をそこまで持って行くかですが、
 
「お願いしてもイイかしら」
「ええ、まあ、その」
 
 この話を怪鳥チームの会議で持ちだし、村松総理以下を納得させるのは容易じゃありません。でもそこに希望の光があるのなら、なんとかしないといけません。
 
「叩けよさらば開かれんだよ。博士を信じてるで」
「正義は勝つよ」
 
 シノブのためにも、二人が結ばれるためにも。

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