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怪鳥騒動記(第5話)平山博士

 シノブは最高情報責任者(CIO)で率いてるのは戦略情報本部。これはクレイエール時代の情報戦略本部を引き継いで発展拡大したもの。ユッキー社長も非常に重視されてて、
 
『情報を制する者は世界を制す』
 
 クレイエール社長に就任してからずっと力を入れてられて、エレギオン・グループが発展するのと比例して充実して、今や世界中にネットワークを張り巡らせた一大組織ってところ。CIA並とか噂されることもあるけど、それはちょっと大げさ。もっともコトリ先輩に言わせると、
 
『そう思われるだけでも情報戦は有利に立てるんや』
 
 戦略情報本部の活動は多岐に渡るのだけど、エレギオンHDの中では調査部と呼ばれてる。調査部も本来は本部の下のセクションの一つだけど、どうしてもここの活動が目立つからね。

 メキシコの怪鳥の情報も通常の情報活動の一環として入るのだけど、ユッキー社長の指示もあったから、重点項目に格上げして調べさせてる。とは言うものの、今のところはメキシコにあるエレギオン・グループの系列会社から上げてもらってるものが主体だけどね。

 やはり怪鳥の画像や映像は合成やCGによるニセモノが多いというか、溢れてるみたいで良さそう。いくつか『決定的』とされたものがニセモノとされて、怪鳥騒動が終りそうになった時期もあったんだけど、それでも新たな目撃情報や被害情報が出て来るんだ。

 エレギオン・グループの社員でも目撃したり、不鮮明な画像や映像を撮ったりしたのも出てる。ここまで来ると、メキシコの怪鳥は実在している可能性が高いと見て良いかもしんない。
 
「アメリカが出てきたやん」
 
 コトリ先輩が嬉しそうに言ってたけど、アメリカだけでなく他の国々も参加した国際合同調査隊が結成されて調査活動が始まったんだ、日本からも山科教授のチームが参加してる。

 これでシノブの仕事がちょっとラクになった。エレギオン調査部と言えども、怪鳥調査チームを送り込むのは大変だからね。今は国際合同調査隊の集めた情報をハックするのに専念してる。

 国際合同調査隊は現地の目撃情報や、新たに集められた画像や、映像の分析を進めるのと同時に現地調査を行ってるんだ。その情報を見る限り、やはり鳥は実在しているで良さそう。後は決定的な画像とか映像が欲しいのと、国際合同調査隊では捕獲も検討されてるみたい。

 
 シノブは専門家の話を聞きに行ったんだ。行ったのは山科教授の愛弟子と言われている平山博士。とにかく山科門下の俊英として有名みたいで三十五歳。ただね、メキシコの怪鳥騒ぎ以来、マスコミの取材が多くてウンザリしてたみたい。

 まあ、マスコミ取材って聞くだけ聞かれて、時間は取られるわ、ゼニにはならないわ、言った事と違った記事にされるわで、仕事の邪魔にしかならないものね。そのクセ、エラそうで厚かましい。

 そのせいかシノブが訪れた時も胡散臭そうな顔してたのは良く覚えてる。とりあえず挨拶して、名刺を渡したんだけど、
 
「エレギオンHDが何の用事ですか?」
 
 ぶっきら棒に言われたもの。まあマスコミ以上に関係ないと言えば、関係ないところだもの。だから初対面の第一印象は良くなかったんだけど、
 
「鳥の話を教えて頂きたくて」
「鳥ねぇ・・・」
 
 そこから名刺とシノブの顔を何度も見比べるのよね。
 
「なにか顔に付いてますか」
「いや、その専務さんなんですか」
「ええ、そうなってますが」
 
 肩書で態度が変わるタイプの人かと思ってたら、感極まったような表情で、
 
「これは世界一美しい専務さんだ」
 
 これを大真面目に言うんだよ。さらにだよ、
 
「こんなに美しい専務さんが存在するのは犯罪的だ。世の中、絶対間違ってる」
「専務が綺麗だったらおかしいのですか」
 
 そしたら、ちょっと困った顔して、
 
「その通りだ! こんな美人がボクの目の前に現れるのが間違ってる」
 
 あんまり大真面目だから、シノブもこらえきれずに笑っちゃったら、平山博士も大笑いになって、そこから親しくなった感じ。平山博士も合同調査隊に参加したかったみたいだけど、
 
「あははは、カネがなくて」
 
 学者は貧乏だもんね。
 
「若手の俊英ってのも堪忍して下さい。実態はほら」
 
 大学の研究室にいても食べられないから花鳥センターに勤務してるとか。ここは鳥に重点を置いた動物園ぐらいのもので、平山博士はそこの主任研究員ぐらいの肩書。実態的には飼育員も兼務してられるで良さそう。
 
「・・・ボクのところにも山科教授経由で情報が送られるのだけど、メキシコの怪鳥は実在してると見て良さそうだ」
「あんな大きな鳥がですが」
「そうなんだけど、現地の情報ではさらに大きいのじゃないかとも見られてる」
 
 五メートルより、さらに大きいってことなの。
 
「そんな大きな鳥が飛べるのですか」
「現実に飛んでいるのは間違いない」
「翼竜の生き残りとか」
 
 ここで平山博士はニッコリ笑って、
 
「そういう説は学者の間でもある。中世の龍は翼竜の生き残りであったと考える人もいるし、中世に生き残っていたら、現在のメキシコの出現する可能性もゼロじゃないからね」
「まさか! 平山博士もそう考えてるとか」
 
 平山博士は楽しそうに、
 
「ボクは違うと見てる。たしかに翼竜ならサイズとして合うが、翼竜の飛行能力はさして高いとは考えられない。とくにだ、大型の犬を掴んで飛び去るのは不可能として良い」
 
 さらに付け加えて、現在の画像情報からして明らかに現在の鳥類の特徴を備えており、翼竜と見るのは無理があるとしてる。
 
「でも鳥であっても、あれほどのサイズとなると飛ぶのも大変では」
「そうなんだよ。現在の最大のワタリアホウドリでも翼開長で三メートル強ぐらいだ。大きくなれば飛行に必要な筋肉も重くなり、飛ぶのが難しくなる」
 
 それなのにメキシコの怪鳥は高度な飛行能力を持っていそうだものね。
 
「そんな鳥は古代も含めていないのでは」
 
 悪戯っぽく笑った平山博士は、
 
「ラルゲユウスを主張する学者もいるよ」
 
 古代鳥の一種で、かつてその存在が学会でも議論になったものだって。ほんの少ししか化石がなく、それが独立した種なのかも問題となり、当時の有ある名な古生物学者が主張した、
 
『翼開長は最大で十メートルに達する可能性がある』
 
 これについても大激論が巻き起こったとか。現在は他の化石が入り混じったニセモノぐらいの評価かな。
 
「ところで、さらに大きくなったとは、どれぐらいですか」
「うん、七メートル以上の情報もあるそうだ」
「それって、プテラノドン・クラス。翼竜も含めて過去最大級ですね」
 
 平山博士はニコニコと笑いながら、
 
「プテラノドンは有名だけど、過去最大級ならケツァールコアトルスがいる。あれには翼開長十八メートル説があるぐらいで、ミネソタ州にはその説に基づいた展示を行っている博物館もあるよ」
「そんなに大きいのが・・・」
「もっとも発見されてるのは十二メートルクラスになり、体長はキリンぐらいになる」
 
 こんな話を教えてもらったんだけど、これで終わるのはなんだか惜しい気がしたんだよ。そう、これで終わったら絶対に後悔するって強い思い。シノブの中で確実に何かが反応してる。
 
「もし御迷惑じゃなかったら、これからも鳥の話を聞かせてもらえれば嬉しいです」
「えっ、次もあるのですか」
 
 ダメかと一瞬思ったんだけど、
 
「ではボクからの提案ですが、こんなむさくるしいところじゃなくて、他のところでお話するってのはどうですか」
 
 この時に平山博士の顔を見たらガチガチ。平山博士もシノブに何か感じてくれてるんだ。
 
「それは願ってもないことです」
 
 そこから平山博士はモジモジしながら、
 
「これは先に断わっておくけど、エレギオンの専務さんを満足させるような店は無理だよ」
「かまいませんよ。松屋の牛丼でも喜んで」
「それはひどいな。いくら貧乏でも、もうちょっと期待してよ」
「じゃあ、サイゼリア」
「もうちょっと頑張る」
「御心配なく交際費でなんとかなります」
「さすがは専務さんだ」
 
 そうして定期的に会うようになったんだ。

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