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セレネリアン・ミステリー(第9話)大統領の計画

 ここはホワイトハウス地階のマップルーム。普段は大統領やファースト・レディのプライベートなミーティング・ルームとして使われる事が多い。ちなみに名前の由来はフランクリン・ルーズベルト大統領が第二次大戦中に戦況報告室として使用し、多くの地図が貼り付けてあったからとなっている。

 今日はセレネリアン・プロジェクトの経過報告。定期的に文書で報告しているが、今回は呼ばれてのものになっている。出席者は統合軍議長及び副議長ともちろん大統領だ。
 
「安全保障会議として開いてしまうと、ややこしくなるからな。今日はこれからのプロジェクトの進め方についての下相談だ。だから現場責任者であるリー将軍に来てもらった」
 
 プロジェクトが始まって半年だから節目と言う事だろうが、
 
「やはり調査が先行しているのは身体班か」
「はっ、装備班の方は難航しております」
「そうなるだろうな」
 
 身体班の方はあれだけ良好なサンプルがあるのに対して、装備班はブラックボックスを相手にしているようなものだから時間がかかるのはやむを得ないだろう。
 
「言語班はどうだ」
「ハンティング博士の活躍により手帳の中身を見ることはできましたが、こちらも難航しております」
「未知の言語を解読するようなものだからな」
 
 あんなものが読めるかどうかさえ疑問だが、ここは装備班とセットの部分が多いので引き続き頑張ってもらうしかない。
 
「そろそろ第二期計画に入らなければならない」
 
 セレネリアン・プロジェクトは極秘計画ではあるが、いつまでも極秘にするのは無理があるのは当初からわかっていた。強引にかき集めた科学者たちをいつまでも閉じ込めておくわけにはいかないからだ。

 だから第二期計画はこれからも極秘にするものと、公開するものを区別するためのものとも言える。
 
「そういう予定であったが、そうは行かなくなってきている」
「と言いますと」
「トライマグニスコープだよ」
 
 あれの費用は確かに莫大。本体購入費用、販売計画遅延に伴う補償金、さらに運搬に使った宇宙トラックの使用費用・・・これらでNASAの年間予算の数倍にもなり、議会からの説明要求が厳しくなっているらしい。そう言えばジョンストン大統領は民主党だが、議会は共和党が多数派であるし、
 
「でもトライマグニスコープのお蔭で・・・」
「それはわかっている。研究が飛躍的に進んだのは認めておるし、これからも有用であるのも理解しておる。問題はそうであることを議会と国民に納得させることだ」
 
 大統領はトライマグニスコープ予算の説明のためにセレネリアン・プロジェクトの存在を明らかにするつもりか。来年には大統領予備選も始まるからな。
 
「我々が第二期計画でやらねばならないのは、真の目的のカモフラージュだ」
 
 大統領の腹案はセレネリアン・プロジェクトの公表と分離で良さそうだ。
 
「リー将軍。セレネリアン・プロジェクトの公表で一番注目されるのは何かと思う」
「はっ、やはりセレナリアンかと。それも地球人類と種が同じなのは非常に注目されると存じます」
「うむ。しかし我々が本当に欲しいのはセレネリアンの先進技術だ。セレネリアンの謎は正直なところどうでもよい。そこでだ、セレネリアンの存在を最大限にアピールしたいと考えている」
 
 そこから統合参謀本部議長からの説明になったが、まずこれ以上、科学者たちをエドワーズ空軍基地に監禁状態にしておくのは無理があるとした。これは私も同意だ。そろそろ限界だろう。そこで公表とともに、科学者たちを解放するプランで良さそうだ。
 
「身体班はフォート・デメリックに移し、装備班は国防高等研究局に移管させる。言語班はより広く世界の言語学者の協力を得るためにマサチューセッツ工科大に移す」
「科学者たちは?」
「残す者と、帰ってもらう者のリストは出来ておる」
 
 さすがに手回しが良い。
 
「本部はフォート・デメリックに置く。空軍基地より君も居心地が良いだろう。そこで注目をセレネリアン自体に向けさせるのが君の次の任務ぐらいだ」
 
 これはこれで厄介そうな仕事だが、フォート・デメリックに移れるのは正直なところホッとする。エドワーズの空軍の奴らの迷惑顔との付き合いにはウンザリさせられたからな。ここまでで議長と副議長は退席し、残ったのは大統領。
 
「身体班はカモフラージュになりますが、研究体制も縮小されるのですね」
「うむ、これはカモフラージュのためだけではない。ダンリッチ教授のチームは良くやってくれた。これ以上は、そうそう調べることはないのじゃないのかね」
 
 引き続きダンリッチ教授は残って研究するが、教授の愛弟子のみのものになるようだ。
 
「その代りと言っては何だが、フォート・デメリックの本部ではカモフラージュ作戦を担当してもらわねばならない。こちらの方の予算は心配しなくともよい」
「ありがとうございます」
 
 たく厄介な。どうにも便利使いされてる気がするが任務だから止むを得んか。さて科学者の要不要リストだが、
 
「ハンティング博士も不要リストですね」
「シンディ博士だけでなく複数のスコープ・オペレーターが養成されたからロンドンに帰ってもらう。とにかく英国人だからトラブルが起るとウルサイからな」
 
 まあ、そうなるのだが・・・そうだ、
 
「セレネリアン・プロジェクトが公表されるとトライマグニスコープの発売発表もされますね」
「ああそうだ。これも期間が延びるほど例の補償金が増えるからホッとしてる」
「発表されたらハンティング博士も注目されますよね」
「ああ、ドレッド社も広告塔に使うだろうからな。ハンティング博士も有名人の仲間入りになるってところだ」
 
 これを利用するのはアリだと思う。
 
「大統領、ハンティング博士はセレネリアンの謎に大きな興味を抱いております」
「どういう意味かね」
 
 ハンティング博士の利用法の提案をすると、
 
「なるほど。リー将軍の提案はおもしろい。ハンティング博士が自発的に同意してくれたら採用しよう」
「ありがとうございます」
 
 そこから大統領にコーヒーを勧められながら、
 
「リー将軍はセレネリアンの謎に興味があるかね」
「やはり、どうしても」
「これは、ここだけの話にして欲しいが私もそうなのだ。第二期計画の改定にあたり、タダの異星人にしてしまう話もあったが、伏せ切れないの判断をしたのは本当だ。だが、本音はこの謎の正体を是非知りたいのもある」
「そして、セレネリアンの謎がクローズアップされるほど真の目的はカモフラージュされる」
 
 最後に、
 
「私の予想ではそこまでハンティング博士ならたどり着くと見ています」
「その件については既に将軍の裁量にしている。これは、今も変わらない。ただしタイミングだけは慎重にな」
「もちろんです。どれほど手強い相手であるかは私も良く存じています」
 
 ハンティング博士はどこまでやれるだろうか。
 
「中間報告のとりまとめを頼んだぞ」
「一ヶ月を目途に取り組ませます」
「うむ、こちらもそれに合わせて動く。事務処理はワシントンが行うから安心した前」
「はっ、御期待に副うように努力します」
「任せたぞ」
 
 そこから大統領はつぶやくように、
 
「このミステリーが解けたら世界がひっくり返るかもな」

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