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目指せ! 写真甲子園(第3話)藤堂副部長

 副部長の藤堂君は野川君と小学校からの友だち。とにかく体がデカイ。柔道黒帯で、中学時代もかなり活躍したそう。高校でも柔道部だったそうだけど、一年の終りに退部して写真部に入ってる。
 
「まあ副部長と言っても、二人しかおらんかったからや」
 
 野川君に誘われたと聞いてたけど、どうも違うみたいで、
 
「野川が一人になってまうやんか」
 
 どうしてそこまでと思ったけど、話は思わぬところに、
 
「オレも写真はあんまり詳しないから、あくまでもダチから聞いた話やけど・・・」
 
 野川君も子どもの頃から写真が好きで、写真教室に通っていたそうなんだ。でも先生が病気になって閉めちゃったらしい。その時に生徒たちに推薦状を書いて他の写真教室を斡旋したんだけど、
 
「野川は優秀や。そやから、もっと伸びてもらうために川中写真教室を推薦したんやけど・・・」
 
 これも驚いたけど、最初の写真教室で野川君はB3級まで取ってたんだって。まだ小学生だよ。でもこれが仇になったっていうから世の中複雑。
 
「川中写真教室の先生は野川のB3級が気に入らんかったらしい。そやから野川を降級させてもたんや」
「そんなの信じられない」
「それでも野川は通っていたそうやけど、かなりイジメられたって話や」
 
 川中先生は野川君を嫌う一方で、宗像君たちは大のお気に入りだったで良さそう。野川君をB4級に留める一方で、宗像君たちを先に昇級させたんだって。
 
「コンクールの出場も、あそこは写真教室の許可がいるそうやけど、全部却下されたらしい」
 
 どうしてそこまで、
 
「宗像がB2級に昇格した時に、お情けみたいにB3級に昇格させてもらったらしい。相性の問題もあるんやろけど、嫌な噂もあるんや」
 
 あくまでも噂だとしてたけど、宗像さんは社長の息子。それも末っ子の三男で親は猫可愛がりしてたらしい。宗像さんが写真を好きだと知ったら全面支援って感じかな。
 
「そこまでは親の勝手やけど、手も出したって話や」
 
 宗像さんが活躍するのに邪魔なのは同世代のライバル。
 
「でも諏訪君や、浅草君は」
「あいつらは確実に宗像の下とされとったんちゃうか。目障りなのは野川やったんやろ」
「でもどうやって」
「カネの力らしいで」
 
 川中写真教室にかなりの寄付をしてるらしいんだって。
 
「そこまでされて、野川君はどうして辞めなかったの」
「あいつは見かけによらず強情でな。一度決めたら、最後までやり通す男やねん。オレにも殆ど言うたことないけど、B3級を再び認めてもらうまで辞める気はなかったらしい」
 
 野川君ってそんな人なんだ。
 
「でも一度だけボソッと言うとったわ。強情もホドホドにせなアカンって。たぶんやけど、余計な回り道したんを後悔したんちゃうか」
 
 野川君はB3級を取ったのを契機に川中写真教室を辞めただけでなく、カメラも置いちゃったって言うのよね。
 
「それだけやない。野川は変わってもた。アイツ、クールに見えるやろ、でもそんな奴やなかったんよ。もっとな、カラッと明るい奴やってんよ。ああなってもたんは、川中写真教室に入ってからやねん」
 
 そうだったんだ。あれは川中写真教室で生き抜くためのポーカー・フェース。でもカメラを置いてた野川君が写真部に入ったのは、
 
「ちょっと話が遡るけど」
 
 去年の写真部はホントにピンチだったんだって。三年生部員こそ三人いたけど、二年はゼロ、一年も誰も入って来ずで自然消滅寸前って聞いて驚いた。
 
「野川君が一年にいたのじゃ」
「野川も春には入部してへんねん。カメラも見たくないって言うとったわ。去年の部長は綱木さんて言うんやけど、野川のことを知っとったんや」
「だから勧誘されて入部した」
「ちょっと違う。野川が頼まれたんはコーチや。野川もかなり嫌がっとったけど、どうしてもって言われてやったらしい。あれは相手が宗像やったからかもしれん。去年の校内予選は負けたんやけど、宗像たちとの差はかなり詰めてたらしいのはホンマや」
 
 そこから野川君の闘志に火が着いたのかな。
 
「顔には出さへんけど、そんな気がする。校内予選会で写真部が負けた後に入部してもたからな。あれはビックリしたんや」
「だから」
「そうや、オレでも数のうちになるやんか。もっともやが、数のうちにしかなれてへんのが悔しいけどな」
 
 野川君と宗像君の間にそこまでの因縁があったとは思いもしなかった。野川君悔しかっただろうな。川中写真教室時代もそうだし、去年の校内予選もそう。さらに今年だってそうじゃない。

 そこまでされたら、なんとか一矢報いたいじゃない。報いるために部員を集め、トレーニングしてたんだろうけど、
 
「そや、一番悔しいのは野川やろ。とにもかくにも、たった一人から五人まで盛り返したんは野川の努力やから」
 
 文字通りのイチからの努力だよ。
 
「野川は夏までにオレみたいな初心者をレベル・アップする気やってんよ。でもな、やってみたら無理って思い知らされたって言うとったわ」
「なんか悔しくないですか」
「だから言うたやろ、一番悔しいのは野川やって。それもやで、選りによって相手はあの宗像なんだぞ。よくあれだけ平気な顔が出来るか不思議なぐらいや」
 
 たぶんだけど藤堂君は野川君が苦しむ姿を小学校から見ていたに違いない。だから野川君が再びカメラを手に取った時に、なにがなんでも支えてやると決めたんだと思う。そのために続けていた柔道まで捨てちゃったんだ。
 
「そこまでは言い過ぎや。柔道の方は芽が出なかったんよ。そやから渡りに船で写真部に来ただけ」
 
 これがウソなのはエミでも知ってる。だって一年で団体戦のレギュラーに選ばれたぐらいだもの。藤堂君にとっては柔道より野川君が大事と見たんだ。藤堂君は見た目がゴツそうだから、一見怖そうに見えるけど、文字通りの気は優しくて力持ち。人情家としても良さそう。エミにも良くしてくれるもの。
 
「オレもなんとかしてやりたいが、柔道ならともかく写真では手も足も出えへんのや。足手まといにしかなってへんのが口惜しいは」
 
 そこの点はエミも一緒。馬術なら家業だから少しは出来るけど、カメラとなるとお手上げだものね。
 
「ただやけど、カメラやからチャンスはゼロやないとは思てる。カメラには体力いらんからな」
 
 なるほど! 藤堂君もイイこと言う。体力は一朝一夕では絶対無理だものね。あれだけは、かけた時間に比例するもの。エミが体育会系の部活を選ばなかったのもそこ。それこそ中学から頑張ってる人に追いつけないし。

 少しだけ希望の光が見えたけど、カメラのテクニックも独学じゃ限界があるだろうし、野川君一人に頼っても無理そう。これだけじゃ、突破口じゃなくて、そこから漏れてる光ぐらいだよ。

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