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怪鳥騒動記(第32話)女神作戦

 コトリ副社長の立てた作戦の基本は待ち伏せ作戦。そのための軍勢の配置は慎重の上にも慎重が重ねられています。とにかく頭の良い鳥ですから、こちらの動きを察知すると裏をかいてきます。

 そのために軍服から平服にすべて変更し、さらに兵器にも様々な偽装工作が施されます。これを三々五々に作戦ポイントに向わせます。実戦での配備についてはリー将軍が指揮しましたがコトリ副社長は、
 
「相手を鳥と少しでも見くびったら負けるで。相手を名将と考えて動くんや」
 
 もっともこういう事をやらせて乗って来れば盛り上がるのがアメリカ軍。リー将軍まで田舎のおっさんの扮装になって現地に集まって来ます。後は鳥を待つだけですが、
 
「作戦の時やけど、鳥次第の動きになるけど、ミサキちゃんはここに居て欲しい」
「かなり離れてますね」
「ああ、それやったらだいじょうぶ。確認してある」
 
 わざわざそこに小屋みたいなものまで建てられて、
 
「鳥が来たら怖いと思うけど、外に出て見といてくれる」
「外でですか」
「それがミサキちゃんの役割や」
 
 鳥は各地を襲っていますが、今はニュージーランドみたいで、
 
「そろそろ舞い戻ってくるやろ。明日からユッキーと一緒にあっちの方に移る」
 
 待ち伏せ作戦は、まだ襲われていない食糧貯蔵庫。ここは比較的小規模だったので、まだ鳥にも襲われていません。その貯蔵庫の前に小さな家を建て、そこで二人は鳥を待ち受ける作戦です。ミサキがいる小屋なら、鳥が来たらすぐにわかりますし、距離こそかなりありますが、丸見えになります。

 ちょうど鉱山の入口は広めの谷間で、米軍は反対側の山の中に潜む格好になります、この辺は木々も多く潜むには最適です。ミサキが見てもそこにアメリカ軍戦闘部隊三万が潜んでいるとは見えません。
 
「心配せんでも攻撃してこおへん人は襲うへん」
 
 リー将軍の方は攻撃方法の検討を重ねています。鳥の弱点が背後にあるのはわかっても、背後のどこかは不明です。攻撃合図はユッキー社長が無線で合図する手はずですが、リー将軍への指示は、
 
『満遍なく背後を撃つ』
 
 とにかくワン・チャンスですから、その時の鳥の向きで射撃角度が変わります。現地に入ってからも攻撃ポイントの確認に余念がありません。後は鳥が来るのを待つばかり。
 
 
 一方で、ここは足止め作戦のための小さな家。
 
「ユッキー、見えたんか」
「まあね、七十九だからいつ来てもおかしくなんだけど」
 
 ミリメシを食べながら、
 
「小山恵はどうやった」
「まったく、コトリの宿主代わりのお相手の一時的なものと思ってたのに、ここまでやらされるとは思わなかったわ」
「やり始めたら、キッチリやってまうのは昔から同じやな」
 
 コトリはお湯を沸かしに立ち、
 
「三女神をまた引きずり込んだんは、やっぱり後悔してるねん」
「そうね・・・でもさぁ、ここはエレギオンじゃないよ」
「もちろんや。あそことは違う、あんなところにしたらアカンねん」
「それでイイと思ってる」
 
 お湯が湧いたらコーヒーを淹れて、
 
「ジュシュルを待つんか」
「待つよ」
「そんなとこも変わらんな」
 
 ユッキーは昔を思い出すように、
 
「メッサ橋の後にこんな感じで話してたのを覚えてる」
「そやったなぁ。そんな遠い先でもユッキーと一緒なんは嬉しかったけど、そんな遠い先でもユッキーと一緒なんはちとワロタ」
「わたしもよ。ところでさぁ、カズ君のマンションにどうしてわざわざ来たの」
 
 コトリも懐かしむように、
 
「行かなアカンと思たんよ。行けばイイことがきっと待ってるはずだって」
「あははは、イイことがまた二人が一緒になることなら笑っちゃうよ」
「そうでもなかったで」
 
 ユッキーはコーヒーを慈しむように飲みながら、
 
「いつまで生きてるんだろ。一万年も頑張ったアラを尊敬するよ」
「命は天に在りってか」
「死生、命在り、富貴、天に在りかもよ」
「なんか忘れられてる気もしてる」
「ホンマやで」
 
 ひとしきり笑った後、
 
「明日やな」
「コトリにも見えるよね」
「リー将軍はやってくれるよ」
「だから死ねないのよね」
「ボヤくな、ボヤくな」

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