安部公房-燃えつきた地図

安部公房の著書『燃えつきた地図』を読んだ。

 この本は300頁とそこまで長い本ではないのだが、読むのに時間がかかった。なぜかというと序盤から世界が薄っすらしているからだ。のめり込ませるような描写ではなく、世界が薄白くボンヤリとしていて、いまいちのめり込めなかった。

この僕がうけた印象は物語に結びついている。あらすじとしては、

突然失踪した或るサラリーマンを捜索する探偵が、男の足取りを追って奇妙な事件に遭遇するうち、やがて探偵自身が記憶を見失って失踪する物語。wikipedia

で、物語の冒頭から虚構の世界に放り出されたようになる(虚構の中の虚構)。物語はよく僕の理解をおいてけぼりにしながら進み続け、結末に向かうにつれて世界はパラパラと崩れ、白く白くなっていく。

音楽で思うこと

燃えつきた地図とは無関係だが、読んでから僕の音楽制作について思ったことを少し。

 上で述べたようにこの物語は読者の理解をおいてけぼりに進む部分がある。それを読みながら僕は『こんな風にしていいんだな』と思った。特に聴衆に理解させようとせず、自分の構成を信じて作ってもいいんだなと。難解で全く大衆受けしない作品でも、聴いてくれる人はいる。逆に大衆を意識した曲を作ると、その聴いてくれる人に相手にされなくなる(ああ、でもYMOは大衆と音楽好き両方飲み込んだな)。

この作品は純文学作品で音楽で言えば現代音楽になるので、当然の事ではあるけれど。

いずれにせよ、聴衆のことを考えてなんておこがましい事を考えずに、自分の世界を打ち出すことの重要性を認識した作品でした。

この話は勅使河原宏監督が映画化もしています。


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