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#304 『教師の自腹』福嶋 尚子 , 栁澤 靖明 , 古殿 真大 (著)



教師の自腹問題: 費用の具体例と解決策を探る

近年、教育現場における教師の自腹問題が深刻化しています。保護者負担とすべきでない費用を、教師が自腹で賄っているケースが後を絶ちません。本記事では、本書を元に、教師が自腹で賄っている具体的な費用とその実態、そして、この根深い問題の解決策を探ります。

教師が自腹を切る費用: その実態

本書によると、教師が自腹を切る費用には、以下のような具体例が挙げられています。

1. 教材費: 熱意が生む自腹の連鎖

  • 不足する教材費、年間13万円超えも! 教師は、子供たちに質の高い授業を提供しようと、教科書以外にも様々な教材を自腹で購入しています。教材費をすべて含めると年間平均で13万6,491円に及ぶという結果も出ています。

  • 100円ショップでのまとめ買いは日常茶飯事: 授業で使用する文房具や装飾品などを、100円ショップで購入する教師は少なくありません。 しかし、本来、これらの費用は学校が負担すべきものです。

  • デジタル化の波、教師の負担増に: GIGAスクール構想により、ICTを活用した授業が求められるようになりました。しかし、高性能タブレットやCDラジオなどのデジタル機器を、自腹で購入しなければならないケースも少なくないようです。

2. 部活動費: 熱意と負担の狭間で

  • 休日練習の費用負担: 保護者からの期待に応えるために休日も長時間練習を行う部活動において、その費用を教師が負担しているケースは少なくありません。特に運動部活動において、この傾向が見られます。

  • 自腹で審判資格取得、ユニフォーム購入も: 部活動の大会に出場するために、審判資格の取得や審判服の購入を自腹で行なっている教師もいます。中には、「審判服、帽子、ルールブックは必要」と地域役員に言われ、自腹で購入したというケースも。

  • 生徒の教育を優先、後回しになる顧問の備品: 部活動の顧問もユニフォームや道具を公費で購入することは可能ですが、生徒の教育活動費を優先した結果、後回しになっているケースが多いようです。

3. 旅費: 制度の穴、教師が埋める

  • 校外学習・修学旅行の下見費用: 校外学習や修学旅行の下見は、安全確認や円滑な活動のために重要な業務ですが、その際の旅費を自腹で負担しているケースがあります。

  • 研修・会議への参加費も: 遠方の研修や会議へ参加する際、交通費・宿泊費・参加費を自腹で負担する教師もいます。 特に、管理職層では、こうした遠方への出張や、出席が求められる会議が多い傾向にあるようです。

  • 家庭訪問の交通費、学校によっては自己負担: 生徒の家庭環境を理解するために重要な家庭訪問ですが、その際の交通費が支給されず、自腹で負担している教師もいます。

4. 事務用品費: 必要なもの、でも買ってもらえないジレンマ

  • 文房具購入、自腹が当たり前?: 授業で使用する文房具などを、教師が自腹で購入することは珍しくありません。 本来、公費で賄われるべきものですが、「欲しいものがあっても買ってもらえない」という状況が、教師の自腹を招いているようです。

5. 弁償・立替金: トラブル発生! その負担は誰が?

  • 生徒による備品破損、泣き寝入りする教師も?: 生徒同士のトラブルによる物品の破損や、保護者が支払うべき徴収金の未納分の立替金を、教師が負担するケースも見られます。 中には、SNS上で、数百万円に及ぶ弁償を行なった事例も報告されています。

  • 保護者への請求は困難、自腹という選択: 生徒が備品を壊した場合でも、保護者に弁償を求めることは容易ではありません。学校側が、生徒の成長をサポートし、保護する立場である以上、安易に保護者に請求することは難しいとされています。

自腹を生み出す構造: 制度・意識の問題点

教師の自腹問題は、教師個人の意識や責任感だけで片付けられるものではありません。本書は、自腹を生み出す構造として、以下の3つの問題点を指摘しています。

1. 複雑な手続き、不透明な予算

  • 学校現場に購入権限がない: 学校で必要な物品を購入する際、複雑な手続きが必要となる場合があり、その結果、教師が自腹を切ってしまうケースが見られます。

  • 予算編成の過程がブラックボックス: 予算編成の過程が教職員に公開されておらず、どのような費用が認められるのか、どの程度の予算が割り当てられているのかが不明瞭なため、必要なものを請求しづらい状況があります。

2. 公費・私費の線引きの曖昧さ

  • 「教員の好意」がエスカレート?: 教師が自発的に行った行動が、結果的に自腹につながってしまうケースもあります。 公費で賄うべきものなのか、私費で賄うべきものなのか、その境界線が曖昧なことが問題です。

  • 「慣習」が正当化を招く: これまで慣習的に行われてきたことが、自腹を当然視する風潮を生み出している可能性もあります。 しかし、時代の変化とともに、公費・私費の線引きを見直す必要があるでしょう。

3. 教職員の意識: 諦めと責任感のジレンマ

  • 諦めの境地? 「どうせ言っても無駄」: 予算や制度の壁に阻まれ、必要なものが手に入らない経験を繰り返すうちに、「どうせ言っても無駄」と諦めてしまい、自腹を当然視してしまう教師もいるかもしれません。

  • 「子供たちのため」という責任感: 教師は、「子供たちのために」という強い責任感から、自腹を切ってでも、より良い教育環境を提供しようと努力しています。しかし、その責任感が、過度な自腹負担につながっている可能性も否めません。

解決に向けた取り組み: 制度改革と意識改革の必要性

教師の自腹問題を解決するには、制度改革と意識改革の両輪が必要となります。本書では、具体的な対策として、以下のような提案が挙げられています。

1. 制度改革: 教師が自腹を切らなくても済む環境づくり

  • 学校現場への権限委譲: 物品購入に関する権限を、学校現場に委譲することで、迅速かつ柔軟な対応が可能になります。

  • 予算編成過程の透明化: 教職員が予算編成過程に参加できる仕組みを作ることで、必要な費用を明確化し、自腹を抑制することにつながります。

  • 公費・私費の明確な線引き: 公費と私費の線引きを明確化し、ガイドライン等を作成することで、教師が安心して業務に取り組める環境を作ることができます。

  • 会計ルール等の見直し: 現実的な費用を反映した会計ルールに見直すことで、教師の自腹負担を軽減することができます。

  • 公費執行の簡素化: 物品購入や旅費請求の手続きを簡素化することで、教師の負担を減らすことができます。

2. 意識改革: 自腹を「美談」で終わらせない

  • 自腹問題の周知徹底: 教師だけでなく、保護者や地域住民に対しても、自腹問題の実態を周知徹底し、理解と協力を得ることが重要です。

  • 「自腹は当たり前」という風潮の払拭: 自腹を当然視する風潮をなくし、公費で賄うべきものは、きちんと請求するよう、意識改革を進める必要があります。

  • 「子供たちの権利保障」の視点: 教師の自腹に頼るのではなく、「子供たちの権利」として、教育を受けるために必要な費用は、公費で賄われるべきだという意識を、社会全体で共有することが重要です。

3. 教育行政と学校現場の連携強化:

  • 現場の声を反映した制度設計: 教育行政は、学校現場の声を積極的に聞き取り、より実態に即した制度設計を行う必要があります。

  • 学校財務マネジメントの導入支援: 学校財務マネジメントの導入を支援することで、公費と私費を計画的・効率的に活用し、自腹削減を目指します。

教師の自腹問題は、複雑な要因が絡み合っており、一筋縄では解決できない問題です。しかし、子供たちの未来を担う教師が、安心して教育活動に専念できる環境を作ることは、社会全体の責任です。本書で提示された解決策を参考に、教育現場と行政、そして社会全体で、この問題に真剣に取り組んでいく必要があるでしょう。

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