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世界1周(1年間22ヶ国38都市)をしながらできた処女小説「ヨートピア」10〜11/44

10
ウールは月が作る風に当たり、気持ち良さそうにしていた。
「ウールさん!お待たせしました。月に連れてきてくれてありがとうございました!さっそく感動しました!」
「おーもうオッケーか、そうじゃろ、感動するじゃろ、月はいつもロマンチストなんじゃ。次は太陽に向かうぞい」
わたしたちの移動は早い。粒子をトランポリン代わりにするように次々に宇宙上に漂流している粒子を飛び越え、どんどん加速していくからだ。それでも速さは感じない。ただ移動している。確か人間の記憶だと月から太陽はとても遠く何万年もかかる計算だった気がする。人間の時の常識が如何に幻想か思い知らされる瞬間だ。そんなことを思っていたら到着した。確かに見た目は暑そうだが、わたしは暑さを感じない。なぜなら宇宙そのものだからだ。私は踊り続けている粒子たちに出迎えられた。彼らは言葉を持たなかった。一緒に踊ろうと誘ってきたので、真似しながら一緒に踊った。楽しい。みんなと同じ振動数になるのには始め努力が必要だったが、すぐに慣れた。慣れるとこっちのものだった。太陽の元気、暑さの原因は「舞」だった。舞うから暑いのだ。舞う振動数になると、どんどん太陽の中心の方へ進んでいけた。中の方は真っ暗だったが、みんながみんな踊っているので、一大カーニバルがずっと行われている感じだ。音が聞こえてきた。
「ドーン ズーン ドンドン ドーン ズーン ドンドン ドーン ズーン ドンドン」
太鼓の音のような脊髄を震わすかのような世界を震わす音だ。この震えに合わせてみんな踊っていた。中心に近づくとここは休憩ポイントのようだ。みんな休んでいる、、というか動いていない、、というか待機しているのか。。中心に黒い玉があり、そこからどんどん太陽の粒子が泉のように出てきている。みんな踊る準備をしているようだった。待機しているひとつがわたしに語りかけてきた。
「逆から来た人は初めてだなー。外の世界はどんな感じなの?」
「みんなずっっと踊り狂ってるよ。宇宙の果てまで」
「そうかーー。もう後戻りできねーもんなー。覚悟決めるしかねーな」
「踊るのがイヤなの?」
「イヤじゃないんだけど、一度踊り始めるともう止まれないからさー、それに対する不安というか面倒くささというかさ。今止まっているからこそ感じる気持ちだわな」
「なるほどね。でもみんなすごい楽しそうだよ。自分の踊りが無償、無条件に宇宙のイノチの循環に与えていることに喜びを感じていたよ」
「そうか、そんなもんなんか。よっしゃ、なんかやる気出てきたわ。こうなったら最高に踊ったらー」
「ええ、楽しんでくださいね」
そんな会話をした後、その粒子は瞬く間に飛んでいった。そいつの背中はノッテいた。


11
宇宙は回っていた。ぐるぐる回っていた。同じ場所をずっと動いてなにしてんだろうと思ったが違った。少しずつ動いていた。つまり螺旋状に動いていた。どこに行くんだろう。ガイドのウールは黙ったままだ。とりあえず行く当てもないし黙って流れることにした。音楽がどこからともなくやってきた。三味線の音だった。水のせせらぎの音だった。なんでここで?1897年12月22日発とその音楽には刻まれていた。約100年前に作られた音楽が今になってここにたどり着きわたしとつながったということのようだ。三味線の音楽は嬉しそうに飛び跳ねていた。水のせせらぎはおしとやかに優雅に流れている。対照的だがどちらも似ていた。コップの中に入っている氷がカランコロンとなった。これもどうやら同じ場所からの音楽らしかった。木が鳴っていた。これも音だった。ここには地球上の音が集まっているようだ。ファンが回っている。車が通っている。エンジンが動いている。全部音だ。地球上で流れている音がここに流れついてくるようだった。そしてすべての音がひとつになって「ドーンドーンドーン」となって聞こえなくなった。そして進む。どんどん進む。進んでいるのだろうか。直線上に進んではいない。螺旋状に動いているから直線的にはそんなに進んでいないのだろうが、世界はめくるめく変わってる。土星が見えてきた。土星の周りを覆う輪っかは、無数の紐で出来ていた。スーパーの買い物袋の紐、プレゼント用の紐、業務用の紐、などのありとあらゆる種類と色の紐が漂っていた。波打つ毎にキラキラと粉を吹いている。ハッピーターンについているあの粉のように甘かった。わたしはウールさんになんで紐なのか聴いてみた。
「紐は用がなくなればゴミ箱行きじゃろ?用無しもんの美しさなめんなよ」
確かに美しい。色彩豊かで、流れ漂っているからみんな生きているように波打っている。そうだ生きているのだ。死んでいない。この紐たちは確かに生きていた。動いていた。流れていた。
「俺たちは、地球上ではきつく縛られて用無しになったら捨てられるのが世の常だけどよ、ここじゃずっと流れて動いてるから新鮮なのさ。楽しいっちゃそうだけど、たまにきつーく縛られたいと思う時もあるけどな。紐は縛るのが役目だろ。それができないとなると自分の存在意義が分からなくなって不安になるのよ」
とブツブツ話していた紐には
「love before wake up」
と書かれていた赤い紐だった。おそらくプレゼント用のデパートの紐だろう。
「こうして流れて動くのも立派な役目ですよ。こんなに美しい景色をわたしは見た事がない。これは紐だからこそであり紐じゃなかったらこの美しさは出ないと思いますよ。」
「そうか、確かに他所からどう見られるかは考えた事がなかったな。自分で自分の価値を見出すのもありだが、外からの価値で自分の価値を見つけるってのも悪くないのかもな。そうだな。ありがとうよ。なんかこれからは楽しく波打てそうじゃぜ」
この紐は自己解決したようで、ブツブツと呟いて大きな波を打って流れていってしまった。紐たちの川を抜けると、土星の表面に到着した。土星という名前が付いているだけあって、土臭かった。湿ってはいない、乾いた土の臭いだ。でも彼らは生きていた。動いていた。
「水分がなさそうだけど、みなさんは喉渇かないんですか?」
「わたしたちは水分がなくても生きていける体質になっているドスン。具体的には目の前の空間の中から生きるのに必要な栄養素だけを取り出して食べることで生きているのよ。どんなイノチもその場の環境に適応して生きるものドスン」
「口がないですけど、どうやって取り込むんですか?」
「くっ付いて体と同化する、と言った感じドスン。触れることで体と一体になって体内に栄養素が流れるのダスン。人間でいう血流と同じダスン。」
「でもこれだけの土さんたちがみんな栄養素を取り込んだら、食べるものがすぐなくなっちゃうんじゃないですか?」
「その栄養素を作ってくれているのは、頭上でぐるぐる回っている紐さんたちなのダスン。ありがたいことダスン。彼らのおかげで栄養が偏ったことは一度もないワサン。」
あのハッピーターンだ。あれが土さんたちの栄養素になっていたとは。紐たちはこのことを知っているのだろうか。
「もちろん知ってるドスン。あなたに話さなかったダスカ?ま、当たり前のことだから話すまでもないということダしょうね、彼らにとっては」
「さっきから気になってたんですが、語尾につくドスンとかダスンとかって・・、なんですか?」
「土星の最先端ファッションダスン。日本人は稲を植える時に、歌いながらやるでしょう?あれと同じことドスン。ドスン。ダスン。ははは笑」
存在意義とか言ってたのに、、当たり前のように他のために与えることができている紐がカッコよく思えた。土たちはその栄養素のおかげで動くことができ、ここでも月のように風を作っていた。ここで作られた風は太陽の粒子たちを遠くへ飛ばし流すための風だという。紐に彫られていた「love before wake up」がキラッと光って頭上に流れ、そして消えていった。

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