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「経営秘伝 - ある経営者から聞いた言葉」を読んだ

最近、読書メモを Evernote → Notion に移行をしている (WebClip はまだ Evernote のほうがいい)。

だが、一括インポートがけっこう崩れてしまうので、良い機会と思い、1つ1つちまちま書き直しながら転記している。書き直すために読み返したりしていると、当時とは異なる方向に興味が向いて、新たに関連書籍を買い直したりしている。
その一環で読んだのが本書。

内容
故・松下幸之助の側で、22年間にわたり仕事に携わってきた経験から学んだ経営の厳しさと妙味。松下翁からの聞き書きの形を借り、経営の衝に当たるすべての人たちへ向けて「経営のコツ」を問わず語りに説き明かした好著。

経営秘伝―ある経営者から聞いた言葉 (PHP文庫) | 江口 克彦 |本 | 通販 | Amazon

特に、大きな会社になるにあたって意図的に “不安定な要素を創る” ことで、安定してるけど安定させない状態にする、そして有名な ”事業部制” はそのための仕組みでもある、というくだりは面白かった。

10年前ぐらいに読んだ 市場の倫理 統治の倫理 が、これと似たような課題についての本で、ひとことで言えば "大企業病" とか "イノベーションのジレンマ" がなぜ起こるか的な話。中にいる人たちからすると、それぞれの正義に基づいて正しい行いをしているので、これは構造やバランスで解決するしかない。

では、どうやって適度に不安定な状態をつくるか? それは本書にあるとおり一概に言えることはなく、そしておそらく、他の目的に混ぜ込む or 自然発生的に起こすほうが効果的に思える。目的をタネ明かしした途端に安定化に向かってしまうので。

以下、気になった点を引用。太字は自分。

だいたい、会社というのは、ひとつのも目的を持って組織されておるんやから、当然ながら、その方向に進んで行くための枠組みというものがあるんや。だから個性を発揮するといっても、その方向で発揮するということになるわね。けど個性というものは、もともとひとつの、まあ、いわば拘束というものがないと発揮できんのや。非常に矛盾したことを言うようやけど、個性は拘束なくしてありえない。そういうことや。

個性的人材が会社を強くする。が、基本のところで筋が通ってないと個性にはならない。

うん? わしが成功した理由か? そやなあ、ようわからんな。 (中略) それできみが聞くように時折、どうしてあんたはこんなに会社を大きくしたのか教えてくれと。どんな方法があるのか教えてくれというようなことを聞かれるときがあってな。けど、そんなことは聞かれても、あれへんわけや。

理屈で商売をやってきたわけやない。その時その時に、ただやるべきことをやってきた。朝がきたら起きる。夜がきたら寝る。そういうことやな。まあ、そういうことを心がけてやってきたけど、これもいつもキッチリやってこれたかというと自信はないな。心がけて努力はしてきたと。そんなことやから、どうやって成功したかといわれても、よう答えることもできん。

成功の要因も一概には言えない。

以前、どこかの会社の主人公が、知恵ある者は知恵を出せ、知恵無き者は汗を出せ、それも出来ない者は去れ、というようなことを、社員の人たちに言っておったけどな、そういうことを言っておっては、あかんと、つぶれると、わしはそういうように感じておった。案の定それから数年したらやはり倒産してしまった。

どうしてわしがそういうように感じたかというと、ほんとうは、まず汗を出せ、汗のなかから知恵を出せ、それができない者は去れ、と、こう言わんといかんのや。まず汗を出せと。知恵があってもまず汗を出しなさいと。ほんとうの知恵はその汗のなかから生まれてくるものですよ、ということやな。汗を流し、涙を流し、努力に努力を重ねるうちに、ほんまものの知恵というものが湧いてくる。身についてくるんや。

大きな会社になって一番に問題なのは安定しすぎるということや。
少々無駄なことをやっても大丈夫だ。少しぐらいのんびりしても構わん。先も言ったように連絡も報告も、そう急ぐ必要もない。態度も大きくなる。そういうことがどうして出てくるかと言うと、会社なりお店なりが大きくなって少々のことでは潰れんと。大丈夫だと。経営者も社員一人一人もそう無意識のうちに考えるようになる。

ああ、危ないと。ひょっとしたら潰れるかもしれん。経営が難しくなるかもしれん。自分のちょっとした行動が、判断が会社やお店全体に好ましからざる事態をもたらすかもしれんというように考えられればいいんやけど、会社が大きくなると、なかなかそういうふうにはいかんのやな。これが一面人情と言えば言えんこともないけど、これがいわゆる大企業病ということになるわな。態度も横柄になる。結論もなかなか出さない。そういうことになるんやな、どうしてもね。

そこで不安定な要素を創らんといかん、ということになるんや。安定してるけど安定させない。それが大企業病を克服するひとつの方法であるわけやな。これに成功するかどうかということ。

自由というものは完全な安定の中には存在しない。ということはどういうことかと言うと、あんまり安定してしまったら、自由が失われるということやな。

ところが、企業の努力目標は大きくなろう、発展しよう、それは少々のことがあっても会社が揺るがない、微動だもしない、絶対的な安定を求めてのことであるわけやな。すなわち、限りなく絶対的安定への努力ということになる。

しかし、そのことはいままで言うてきたように、奇妙なことやけど、不自由になろう、会社の活動を活発にしないようにしようということになるわけや。
(中略)
そこで大きな企業、大きなお店が心がけんといかんことは、どうやって不安定な要素を入れて行くか、創っていくかということや。会社の安定のために不安定を考える。それができん経営者は失格やね。

その不安定さをどう考えるか、これはそれぞれの会社やお店によって違ってくるからな、一概にこれがいいとは言えんけど、わしの場合にはひとつ挙げれば事業部制であったと言えるわけや

きみ、前にも言ったかもしれんが、事業部制のいいところは、責任が明確になること、人材が育つこと、そういうことであるけれど、実はもうひとつ、不安定な状態を創り出すこと、すなわち、危機感の創出というところにもあるんや。

読み終わって改めてググってみたら、この「経営秘伝」に加筆したものが東洋経済オンラインにほぼすべて連載されていた(まえがき・解説除く)。