よすはす

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小説 幽霊を想うひと

幽霊が出てくるのはこの世に未練があるからじゃないと僕は確信している。 僕が時折おぼろげな幽霊をみるとき、それはかならず微笑んでいる。 その微笑みの先には、かならずといっていいほど、少し寂しげな人がいる。 そして僕は時折確信する。少し寂しげな表情の人がおそらく大切なひとを思い出しているのだろう。 幽霊なのか、それとも記憶のなかが見えてるのか、僕はわからないけれど。 「遠藤くん、また遠い目をしてたね」 塾の授業中、メガネにおかっぱの相馬先生が声をかけてきた。 「あ、

    • 彼女がお化けと言ったのは

      ※オードリーのオールナイトニッポン、2022年5月21日の若林正恭さんのフリートークをオマージュして、このショートストーリーを作成しました。 ある日、ぼくの部屋の天井の壁紙が剥がれた。 もともとたわんでいたような気もするし、古いアパートだから、どこかでがたが来ていたんだろう。 ただ、深夜のコンビニバイトから帰宅して疲れた目でみるには、きつい光景だった。 「こういうときどうするんだっけ」 思わず呟きながら、ワンルームを見回す。 六畳一間。西向きだから日差しは今は入ら

      • やどかりと空き家

        ヤドカリは たくさんの家が海岸に落ちていることに気がついた ヤドカリにとっての家は巻貝だ かわいそうだが言葉の通じない相手 巻貝が亡くなった時にその遺産を相続する形で 背負っている 巻貝はこの家の中にいた時に どんな気持ちだったんだろうかと時々ヤドカリは考える でも言葉は通じないし 動き回れるヤドカリと違って 巻貝は何だか物静かだっただろうから あんまりあう考えはないんだろうなと思ってしまう ヤドカリはでも、異変にはちょっと気がついていた 言

        • 明日のたりないふたりの感想、あるいは若林さんと山里さんへの

          明日のたりないふたり 本当にありがとうございました。 山里さんとお金や舞台とか関係なくただ漫才して遊びたいんだ、というのが二人きりという環境で本当に際立っていました。クラスの数人しかしらない内緒の公園に集まって遊んでいるみたいで、心底楽しそうでそんな友人がいてうらやましいなぁ!と思いました 漫才でZAZYさんをポップコーンにたとえたとき、若林さんは山里さんに負けたから例えツッコミは諦めた、と言っていたことを思い出して、全部自分のなかのものかき集めて戦ってきた若林さんは、本当は

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          キノコのこころ

          ブナシメジのマイタケの仲のよさったらないとヒラタケは考えていた。 香りや味で食卓を彩る二大きのこ。 えのきや、エリンギなどの食感勢も負けず劣らずの勢いがあるが、香り松茸、味しめじ、は伊達ではないし、マイタケは、炊き込み御飯にしたら、松茸をしのぐ芳醇さがあると思う。 ヒラタケはその点、汁物にいれたらうまいのだが、なかなか知名度が足りてこない。 旨いんだぞ!って気持ちがふつふつ湧いて、 ジメジメとした感情になってくる。 キノコなのにさらにジメジメになったらこれはいただ

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          あたたかい家でガス台にかけた鍋が煮える

          あたたかい家でガス台にかけた鍋が煮える ひとりで暮らしていると今日のように雨音以外話しかけてこない日がある。 そんな日は自分でいれた緑茶を飲みながら本を開く。 本を通して著者が時折、あなたはどう? とはなしかけてくる。 時折面食らってしまい、本に栞を挟んで、雨音を聞く。 雨音は話しかけてこない。むしろ私の言葉を吸い込んでしまう。 なにか自分から働きかけるには。 ガス台の前にたち、鍋に水をはる。 煮干しを取り出し頭をとって、鍋にいれて、火をつける。 ぽこぽこと

          あたたかい家でガス台にかけた鍋が煮える

          カラス貝の天井

          カラス貝は地中海から旅をして、人間の船底にはりついて世界に散らばった。食用であり、外来種。 わかければ、足糸を接着し、切り離してを繰り返し、移動することができる。 カラス貝が牡蠣とであったのは、牡蠣棚の中だった。 牡蠣はそのときにカラス貝と初めてあった。 どことなく似ている生き方。水を綺麗にすることが大好きな貝達はすぐに仲良くなった。 ある日牡蠣はカラス貝に聞いた。 「人間に食べられたくないんだけど、どうしたらいいだろう。先輩たちは食べられたあとに食あたりすることで復讐

          カラス貝の天井

          ホタルと消灯作戦

          仕事で首都高を走っているたびに、 夜の東京の光が蛍のように過ぎ去っていく 残業の労働者とともに。 あれっとおもったときには竹橋JCTのクッションに突っ込んでいたはずなのに。 夜景に見とれて、大宮方面に行き損ねて。 「魔法男子にならないかい?」 蛍の格好をしたの妖精がかたりかけてくる。 えっ、おれは死んだ? いや、走馬灯? 蛍の格好ってなんでわかった? 「えっ、死んだのおれ?」 蛍の妖精は僕の顔の前に近付いてきた。蛍の羽、お尻は光っていてよく見えない。そしてYシャツにネク

          ホタルと消灯作戦

          オードリー式会話のススメ

          僕はお笑い芸人が好きだ。 自分がつまらない人間だと人生で悩みつづけてきた自分は、お笑い芸人の話をたくさん聞いて、どうしたらつまらない自分がなんとかできるか考えていた。 (なにせ僕は本当に話がつまらないことで、友人や元恋人から何万回もつまらないと話を切り上げられてきた) なかでも僕が好きなのはオードリーの漫才だ。 中学からの同級生で結成された若林正恭と春日俊彰のコンビは、2008M1準優勝を皮切りに、テレビで見ない日はないまま、10年以上がたった。 かれらが、その以前はまっ

          オードリー式会話のススメ

          芋虫とカタツムリ

          芋虫とかたつむりは歩く早さがにている。 芋虫はカタツムリに殻があるからうらやましかった。 「君は家があるからいいねえ」 カタツムリは芋虫の、その純粋さが好きだった。だから、将来のことはいわなかったけど、 芋虫に、どうつたえようか迷いながら、カタツムリは言った。 「ありがとう。でも、僕はだから、このあたりからはほかにはいけない。君はね、いつか空すら飛んで、広い世界にいけるさ」 芋虫は自分が飛んでる姿を想像した。ロケットみたいに葉っぱを跳ねている自分。 バカみたいで面白い。カ

          芋虫とカタツムリ

          マシュマロとバームクーヘン

          友達のたっちゃんが、木をバームクーヘンに、金属をマシュマロにできちゃうことは、僕とたっちゃんだけの秘密だった。 公園で二人で遊んでいたとき、偶然たっちゃんが、切り株に触れて、そしたらそれが甘いバームクーヘンになっちゃって、蟻たちがよってきた。 甘いと知ってるのは二人でひとくちたべちゃったから。 「たっちゃん、すごいよ!」 でも、たっちゃんは震えて 「俺んち、木造アパートだから、お菓子の家になったらどうしよう!」 笑いそうになったけど、笑えなかった。 だからぼくはたっちゃんい

          マシュマロとバームクーヘン

          はぜる松ぼっくりの前の気持ち

          燃え盛る炎にくべられた松ぼっくりは直前まで、 そびえたつ松になれるとおもっていたが、 葉とともに焚き付けたあとの起爆剤として、 はたまた炎を維持するための燃料として、 他の枯れはてた木とともにくべられて 月日の儚さに気持ちをふつふつとさせ、 あるはずの未来と枯れた木への憐れさがあいあわさり、 はぜた勢いで自分をくべた主へ火の粉を飛ばそうと意気込んだそのとき、 その火へ暖をとりにきた犬が現れて、 ああ巡っているんだとひとりごちて、 炎のなかに身を委ねて そ

          はぜる松ぼっくりの前の気持ち

          ひっこし先は思案中。

          炎上した記事について 倫理的にはアウトと直感したけど、とたんに倫理的に言行一致かな私は、と思ってしまい。 毎週ビッグイシュー買えてないし、千円渡そうとしてはなしかける勇気がなくてもちものにこっそり入れたこともあるし、渡せたトンカツ弁当も、わたせなかったおにぎりもあるから、すごく複雑な気持ちでみていた。好奇心だけじゃだめだし、それを開陳して、見世物にしてはいけないけれど、僕には三年がない。編集者は記事について倫理的にそれをつなぐ橋渡しをして、彼らには同じ営みがあり、それを権

          ひっこし先は思案中。

          引き裂かれたミミズと蛙の背

          ミミズがよく実家の庭先で干からびていた。水をかけてあげても、大概はだめだった。 ミミズが生まれた頃、親と引き裂かれて この畑にきた。 生まれた山あいの土は落ち葉がたくさんのところで、人間たちはそれを牛ふんとまぜて肥料にするために持ち上げたらしい。 ミミズも一緒に持ち上げられてしまった。 親の顔はしらないけれど、さみしさだけはミミズは知っていた。 一緒に運ばれてきた、友達の蛙に相談した。 「親にあいに生きたいんだけど、どうしたらいいんだろう」 蛙はミミズとずっと仲良しだ

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          コンティニューが起こした静電気が開くドアノブと手のひらの間に生じた火花に感電したとき、ひとは子供時代の友人の夢を見るか?

          落語が化石から蘇り恐竜として食らいつく。 よみがえらせた科学者の名前は笑いのカイブツ、伝説のはがき職人、作家、ツチヤタカユキ ツチヤタカユキと、出会い笑いの恐竜として鋭い牙を見せつけたのは、立川吉笑 会の題名はコンティニュー。 これだけ再起しにくい世の中で見せつけたのは起死回生の一撃だった。 ツチヤタカユキを語るにはオードリー若林がはずせない。 オードリーのラジオ、オールナイトニッポンに、大量の大喜利投稿を、ときに修験者のように送ってくる正体不明のツチヤタカユキに、 若

          コンティニューが起こした静電気が開くドアノブと手のひらの間に生じた火花に感電したとき、ひとは子供時代の友人の夢を見るか?

          アリの心、働き知らず

          アリが時折自分の部屋に入ってきていた。菓子くずを運んでいたんだろうか。 働きアリは悩んでいた。 アリの世界は身分制、女王アリが偉く、次に貴族の働かないアリ、そして子どもたち、働きアリは一番身分が低かった。 働きアリは悩む。働かなければ、みんな暮らせないが、私はいつ幸せになるのか? 働きアリは聞いてみた。 「同僚アリよ、働いていたら、幸せか?」 きかれたアリは目も向けず 「働かなくては、いきられん!」 幸せかきいたのに、と働きアリは思う 働きアリは聞いてみた

          アリの心、働き知らず