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論証集の利用法を考える(司法試験)

2022年末から司法試験の勉強を始めています。

司法試験予備試験経由か法科大学院経由かはまだ決めていませんが、論文演習ができるようになるまでの基礎段階のインプットだけは自分でやりたいと思っているので、いろいろ試しています。

ただ、(1)合格率3%程度の競争試験の色彩が濃い司法試験予備試験の対策と、(2)合格率3割〜4割であり、厳しい進級要件と大量の課題をクリアする必要のある法科大学院での教育も踏まえて法曹の適性を測る司法試験とでは試験の性質は大きく異なるであろうことは予測でき、論文対策についても両方混同して考えるのは良くないかもしれないとは思うので、その点はご注意ください。

令和4年度の短答試験7科目(民法、商法、民事訴訟法、憲法、行政法、刑法、刑事訴訟法)を一通り見た結果、科目ごとに性質はかなり違うものの、六法条文の重要性、相当な分量のインプットが必要であること、それでありながら何を勉強するかという選択と集中が必要であろうことを思い、これは受験指導の経験のある予備校出版社のテキストに頼った方が良さそうだと思った結果、ここ半年ほどずっと取り組んでいるのが、伊藤真試験対策講座全15巻です。

今、半分くらい読みましたが、おそらく試験に出る可能性のあるところは全て説明するというコンセプトに沿って作られている様が窺えるテキストであり、どうあがいても今の段階では分からないだろうという箇所などもかなり混ざっているので、現在の利用方法は気楽に分からないところは読み飛ばしつつ、参照条文を逐一確認して、条文の素直な解釈(文理解釈、論理解釈)を確かめるという、逐条テキストのような使い方をしています。

それでも、六法の条文が句読点の位置まで含めて考え抜かれて起草された文章であるということが身に沁みてわかり、自分としてはすごく有益なインプットができているなという印象を持っています。ただ、離れたところに書かれてある類似の規定や、原則と特則の関係など、「素直な解釈」といっても、学習の過程はあまりシンプルでなく、六法のあっちへ飛んだり、こっちへ飛んだりと、かなり苦労しながら読み進めています。

一方で、司法試験予備試験、司法試験ともに、配点の9割以上は論文なので、分厚い試験対策講座をあと8冊読み切るまで論文を書く訓練を何もしないというのも嫌だなと思って、巻末にあった「論証集」に初めて目を通してみました。

気付いた点をいろいろ検討し、今後の利用方法を考えてみたいと思います。


「論証集」とは

論文試験で論文を書く際に必要があると想定される文章の断片であり、今読んでいる第4巻の『債権各論』では、本文部分だけで518ページある本の巻末に、38個の論証が挙げられています。

例えば特に短い最初の論証だと、

[債権各論1 - 請求を問題とする場合の同時履行の抗弁]

  • 問題提起:適法な弁済の提供をしたが、受領を拒絶された後で再び履行を請求する場合に、その相手方は、同時履行の抗弁権を主張できるか。

  • 主張理由:この点、再度の弁済の提供を要しないと解すると、いったん弁済を提供した後に提供者が無資力となった場合に、相手方にとって酷となり、公平とはいえない。また、当事者が履行の提供をした場合でも、それだけでは債務が消滅するものではなく、依然として両債務の履行上の牽連性は存続しているといえる。

  • 規範定立:したがって、一方当事者から一度弁済の提供があったとしても、さらに提供を継続しないかぎり、相手方は履行請求に対してなお同時履行の抗弁権を失わないと解する。

といったふうに、一つの論証を構成する複数の部分に分け、「問題提起」「主張理由」「規範定立」といったラベルをつけて各部分の役割を明らかにしつつ、ひとまとまりの論証を提示するものとなっています。

こうして導き出した規範に、実際試験で出題された事例をあてはめて、この場合は〜だ、という結論を導くというのが、こういった論証の使い方になると想定されます。

(実際司法試験予備校でどういった指導がされているのかは知らないので想像です)

論証の構成要素

論証の流れは大まかに、

  1. 解釈が分かれうる点を「問題提起」し、

  2. 規範を定立するに至る根拠を「主張理由」として挙げ、

  3. 「問題提起」した点に対する解釈を「規範定立」という結論として示す

という流れになっています。1の問題提起の前に「前提」が置かれていたり、3の結論に「規範定立」以外の内容が含まれているため「結論」として示されていたり、2の結論を導く主張理由をより詳しく分析して、「趣旨」「反対説 + 批判」「原則 + 修正」「不都合性」などと書かれていることもあります。

えせプログラマーだった頃の経験を活かして記号化すると、

[前提 & ]
問題提起
[ &
 (
  主張理由
  | 反対説 & 批判
  | 趣旨
  | (原則 [ & (修正 | 例外)])
  | 不都合性
 )..
]
& (
 結論
 | 規範定立
 | (原則 [ & (修正 | 例外)])
)..

このようになります。

[]内は省略可能、&は文の連結、|は択一(例:A | Bで、AかBのどちらか)、()はグループ化部分、..は先行する要素が2回以上続く場合がある、という感じです。

つまり、結論を導く根拠として、主張理由1、主張理由2、不都合性のように複数の要素が挙げられる場合があるし、同様にして結論も複数導かれるということもあります。

論証をどう利用するか

と、ここまで分析して、論証をどう利用するかですが、どうしたら良いでしょうか。

分析可能な形で文章断片を示してくれているのはめちゃくちゃありがたいのですが、「部分」を強調した文章は不自然で、記憶がしにくいのは悩ましいところです。

とりあえず、自分の文章で短く、簡潔に書き直すといったところから始めてみようかなと思っています。


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