見出し画像

社会課題は本当に解決すべきなのか

このnoteもずいぶんご無沙汰してしまった。。
今まで7つの空き家をリノベーションし、半径150mほどの小さな街”御手洗地区で様々な事業をつくってきたが、今月末合同会社よーそろを設立して9年目に突入する。どこかに書いてあった記事にベンチャー企業の5年後の生存率は20%以下、10年後は5%近くになると。今考えると様々なピンチに遭いながらも仲間達や応援してくれる多くの皆さんの支えでここまで何とか生き残ることができた。決算の経理をまとめながら、同時に今までやってきたこと、これからどのように動いていくか、設立10周年を前に今一度考える時間をもらった1週間であった。

火曜日は広島大学工学部建築プログラムの学生達が御手洗を訪れサスティナブルデザイン現地研修を御手洗で行った。金曜日は九州のとある島で私たちのように空き家や古民家をリノベーションしながら地域の人、移住者を巻き込みながらレストランや宿などを次々と展開している会社のメンバーたちと共同研修を行い、土曜日は叡啓大学主催のソーシャルビジネス講演会をオンラインで行った。

私たちがやってきた事業とは何だったか、ソーシャルビジネスとは何か、話をする上で今までのことをまとめるいい機会を頂いたのである。

「問題」と「課題」の違い

そもそも課題とは何なのか?

課題とは「解決すべき問題」のことらしい。あるべき理想の姿があり、その理想からかけ離れているギャップをどう埋めるべきか、それが課題である。

問題とは、あるべき理想の姿から離れている現在の状況のことをいうようだ。そのような状況ではあるが必ずしも解決しなければならないものでもないのが問題と言える。読んで字の如く”お題を問うている”だけと解釈するのだろうか。

課題に戻れば、それはあるべき理想の姿をきちんとイメージできなければギャップの埋め方、解決の手法はわからないとも言える。

元々あったような平坦な道が理想の姿ならば、穴ぼこが空いている今の状態が問題であり、それを平坦な道にするためにどのように埋めるべきかが課題である。

その言葉の意味を考えるならば、私たちが今までやってきたことは何なのか… 社会課題に挑む… いやそれとは違う。

社会課題には挑まない

私が以前このnoteでも書いた御手洗地区でカフェ(船宿カフェ若長)をはじめた話にもあるように理想とする姿をイメージし、こうすべきだとはじめたわけではない。もちろん、御手洗の街の人からしても島外から来たただボランティアをしていた御手洗が好きだろう若者がカフェをした先にどうなるかイメージしていた人はいなかったであろう。「ようわからんけど、やらせてみよう」程度な話で。

そう、そこに「問題」はあったが、「課題」はなかったのだ。

私もボランティアガイドをしながら、ゆっくりする場所がなかったことが観光する上で問題であるとは思っていた。それよりも農家さんにもらったこの場所の柑橘が感動的な美味しさでそれらを味わってもらいたい、また衝撃的な美しさに魅入ってしまった2階からの風景を皆さんにも見てもらいたいと強く思い、行き当たりばったりでカフェにしただけだったのだ。

先週の3つの講座、講演の中でも同じ質問を受けた。
「初めからこのような多店舗展開をイメージして取り組んで来られたんですか?」と。

もちろん答えはNO。行き当たりばったり(笑)
ただ、もし初めからそのようなイメージをして取り組んでいたとしたら今ここにいないだろう。
私の場合は特によそ者なので、初めから地域課題を決めつけ、こう埋めるべきだということはとてもおこがましく、地域からも煙たがられ、今のような素晴らしい物件に出会うこともなかったと思う。何よりも、地域の人たちの理想と勝手な想定をした自身の理想との埋まらない「穴ぼこ」に嫌気がさし去っていくことと思う。
今までも勝手な課題設定をし、熱く語りその方向に無理やり持っていこうとして失敗した人、うちと一緒に事業したらこの街はもっと良くなると熱心に事業売り込みをしたがパタリと来なくなった人を何人も見てきた。
確かに進めるバランスも重要かもしれないが世の中の一般的な問題と課題をごちゃ混ぜにして、おたくの地域の穴ぼこを埋めますよと都会的な理想像を押し付ける行為はどう考えても上手くいった試しがない。何よりもWINWINどころかLOSELOSEなのである。

だから社会課題には挑まない。
社会課題、もっと小さくて身近な地域課題に対してもそうであるが理想の状態はどのような姿なのか、地域をつくってきた人が大切にしてきたもの、大切にしたいものは何なのかを深く知ろうとすることが重要であると思う。それは言葉ではわからない。こうではないか、ああではないかとぶつかりながら一つずつ投げかけ、共通の言語とイメージをすり合わせないと本質には辿り着けない。

「穴ぼこ」の美しさ

理想の姿からかけ離れた現状の穴ぼこは全国一律な「穴ぼこ」ではなく、むしろ世の中には同じ深さ、形のものはないそれぞれが唯一無二の「穴ぼこ」であることを知る必要があると思う。
よく見ると広さ、深さ、質感の違い、もしかすると尖っている部分があったり、極端に引っ込んでいる部分があったり、ツルツルしてたり、ザラザラしてたり、トランポリンのような弾力ある底をしているかもしれない。

衰退する地方はその穴ぼこを暗くて深くて底なしの恐ろしいものだと決めつけ、とにかく誰かに埋めてもらおうとする。そうしてただただどこかから持ってきた砂で平らに埋めようとする者に「とにかく埋めてくれ」と丸投げする。結果、こんなのではずではなかったと悲しい結末になるのが今あちこちで起きている地方の失敗なのではと思う。

問題であり、重要な課題だと思っていた「穴ぼこ」はよく見るとむしろそれそのものが魅了的なものであり価値があるものなのかもしない。そもそも埋める必要などないかもしれない。
ただ、価値あるものを伝え長期的に残していくためには整えることは必要である。どの部分に価値があるのかを見極め、残すべきもの、捨てるべきもの、際立たせるもの、まとめるべきものを細分化し整える。これらを価値ありと受け取ってくれるだろう相手にどう合わせていくか、媚びるわけではなく、示していくこと。
その場所の他にはない歪な「穴ぼこ」の特徴は何なのか、それが他にはない価値となる。都会のような、良かった時代の昔のような「平坦」にするでもなく、その歪な「穴ぼこ」の景色こそが理想の姿だと考える。どう考えても都会に離れず、昔には戻れないのだから。

私は”キリコミスト”

話を戻そう。
カフェである私の御手洗事業1号店”船宿カフェ若長”は、元々整備をして開けていた施設を閉じてしまったいう問題に対してこの風景の価値を感じてくれる共感者がもっといるのではないかという強い好奇心で切り込んでいったことから始まった。
そう、問題に切り込んだのだ。私は切り込み好きの”キリコミスト”なのだ(笑)
カフェをしたくて御手洗に来たのではなく、御手洗という場所や風景に魅せられてその問題に切り込むことでもっともっとその穴ぼこの形を知りたかったからだ。

お客さんにもっと喜んでもらうために、また中のスタッフが負担なくスムーズに仕事ができるように毎週のように小さな「穴ぼこ」(課題)を埋めて行った。
埋め続けて行った先に1ステップ大きな課題があり、変化するニーズから生じる問題を組み合わせることで2号店が生まれ、7号店まで結果的に広がったという流れである。

なので「初めからこのような多店舗展開をイメージして取り組んで来られたんですか?」という問いに対していつも「成り行きです」「行き当たりばったりなんです」と答えるのだが事業の一つ一つの小さな課題をしぶとく解決していった結果と言うのがちゃんとした答えかもしれない。

事業の課題は自分が決定し行動すれば克服できることがほとんどである。事業の課題解決は持続可能な成果を生む。だからこそ様々な問題に切り込んで行けたのだと思う。問題に切り込んで例え成果が出なくても最低、事業の課題解決の次の糸口を見つけることができるから。

振り返るとそのようにして私は仲間と一緒に、地域の様々な問題に切り込み、その「穴ぼこの風景」の面白さを見つけていった8年間であったように思う。

この度、コロナ禍前の講演会で一緒に登壇したご縁で九州の離島から研修で来てくれた会社の代表も成り行きで広がっていったローカル事業モデルだった。成り行きといえど、やはり強い覚悟と責任を持って一つ一つ課題を埋めて行った結果、多事業に展開されていったということだが。彼は私よりも10歳ほど若く、やり方や置かれている立場も違うが、しぶとく、したたかに、しなやかに(ローカルビジネス成功の3Sと呼んでいる笑)行動する素晴らしい人物であった。
そのスタッフも皆も問題意識を強く持ち発言する姿に私も御手洗の仲間たちも大いに刺激を受けた。
来てくれてありがとう!


御手洗に来て10年以上。未だに知らなかったこと、新しい発見がある。それは新しい事業や社会の変化によって浮き出てくるものでもあった。
これからも沢山の失敗をするであろうが、何よりも新しい価値の発見を楽しみたい。
私はまだまだ成功しているわけではないが、これからも”ローカルキリコミスト”として様々な問題に切り込み地域限定の様々な事業づくりに取り組んでいくつもりである。
歪で素晴らしき御手洗の「穴ぼこ」の価値を地域の人やこの地域を愛する人達と再確認しながら、その風景を次にバトンタッチしていきたいと考えている。

叡啓大学主催の講演会「社会課題にビジネスでアプローチ ~改めて広島のソーシャル・ビジネス(社会起業)を考える~」は第2回目へと続く。広島で活躍するキリコミスト達の貴重な話が聞けるので(しかも無料)ぜひこの機会に。


世のキリコミスト達に幸あれ!

 








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?