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僕の音楽体験 Vol.17 ベートーベン交響曲第9番「合唱」

僕の音楽体験 Vol.17 ベートーベン交響曲第9番「合唱」

先にも述べたように、大阪音楽大学の作曲科に在学中は、主にウッドベースでジャズの演奏、そして作曲の勉強も途中からかなり本気で取り組んでいましたが、その他の教科はどちらかというとおろそかになりがちでした。

例えば英語

後にアメリカに移住するのか?というくらい得意ではなく、英語Ⅰというのを落とし続けて4年生の時に1年生に混じって授業に出ることに。

音楽史、心理学、音響学、など今思うともっと勉強しておけばよかったと思うものもあまり真面目に授業に出ず。出席数ギリギリでなんとか通る。

そしてあまり良い話ではなく、決して良い子は真似をしてはいけない話。
もう時効だから話します。
4年生の時の合唱Ⅱというものはそもそも授業に出ずに、後輩に代わりに返事をしてもらう、いわゆる「代返」というもので済まそうという魂胆でした。

学年の最初の頃は大人数の授業ということもあって、バレずに済んでいました。
しかし年度が進むにつれ、「代返」を頼む輩が増えてしまい、明らかに人数が半分くらいになったのに全員出席の返事をしているという事態になりました。

これはいくらなんでも先生も見過ごすことは出来ません。
特に4年生はこれを落とすと卒業できません。

ある日、合唱の先生から呼び出しが。

「君、卒業したいかね?」
「う!もしかして」
「そう、バレているのだよ」
「ああ、どうしたらよいでしょうか?」

などというやり取りの後。
「これに、出演してくれたら今回の代返のことは見逃してやろう」
という提案が。
まるで犯人と司法取引をする刑事のようです。
その条件というのが「一万人の第九」というのに出て第9を歌うというイベントへの出演なのです。
しかも全て暗譜で歌詞も覚えて。
歌詞は確かドイツ語。
全く知識がない!

とはいえ、それに出て歌わないことには卒業ができないのですから、他に道はありません。

幸いにして、僕は小学生の頃にこの「第九」に夢中になっていて、音楽の方はなんとか覚えておりました。しかし担当することになったテノールのパートがどんなものかまではわかりませんでしたが。

とりあえず、一万人もいるのだから影でコソコソと歌っているふりをすればなんとかなるだろうという甘い考えも頭をよぎりました。

とりあえず、歌詞を覚えて楽譜を見る日々。
「フロイデ!」「フロイデ!」
という意味不明の呻きを部屋でつぶやき母にも心配されました。

さて、大阪城ホールに集まった全国からのやる気満々の皆様に混じってコソコソと開場に入る我々大阪音楽大学司法取引組。

指定された席に案内されて行くと、なんとそこは前列から2列目。
とっても嫌な予感が。
そしてゲスト参加されている元宝塚スターの遥くららさんの真後ろではないですか。
その遥くららさんに「今日は強力な助っ人に来ていただ来ました!大阪音楽大学の皆様です!」
と、盛大に紹介されてしまう有様。

もう、逃げも隠れもできない状況。しかも歌詞も譜面もウル覚え。
後ろはナントカ商店街の皆様で、とってもよく練習してきたようなので、
彼らが声を発したら僕も出よう。
そんな事を思いながら本番がスタートします。

指揮は山本直純氏。

テレビ中継も入り、2列目の遥くららさんの後ろなのでカメラはこちらに向いている!

知っている人は知っていると思いますが、この「第九」。
合唱が登場するまでに恐ろしく長い時間待たなくてはなりません。
特に静かな3楽章の長い事!
ベートーベンは一体何を考えていたのか!?

そしてやって来ました、4楽章。
ジャーン、じゃじゃじゃじゃジャジャジャじゃ!
そして合唱の出る番に!

「フロイデ!」「フロイデ!」
おお、出だし好調!

しかしその後、後ろのナントカ商店街の人たちが違うところで飛び出し、こちらもつられて飛び出し。
むむ、しまった、強力な助っ人のはずが!

後の記憶は定かではありません。

とにかく演奏会は無事に終わり、卒業も確定したという事でめでたしめでたし。

後日、オンエアがあったので恐る恐る見てみると、しっかり遥くららさんの後ろで口をパクパクさせている自分が。

そしてナントカ商店街の皆様につられて、とんでもないところで口をパクパクさせている姿までしっかり放映されていました。

全国の「第九」ファンの皆様、申し訳ありませんでした!

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