見出し画像

「フラメンコ・ボレロ」公演延期

出演舞踊家のみなさんへ

まずは、平富恵スペイン舞踊団
次回公演「フラメンコ・ボレロ」の
これまでの稽古にご参加くださり、
ありがとうございます。

毎回、4時間越え、
そして夜遅くまでのハードな稽古に
お付合いくださり本当に感謝しかありません。

そして5/2の劇場収録中止となりましたこと、
大変申し訳なく、心よりお詫び申し上げます。

昨日、劇場より閉鎖の一報を受け、
さまざまなことが頭をよぎりました。
その結果、中止・延期を決めました。

収録を目前にし、各自、
心身ともに
可能な限りの調整をしてくださったことと思います。

私どもの公演活動の基本として、
まず文化庁事業に選出されている団体として、
東京都の方針を理解し協力する選択をしました。

それにより、スタジオクラスはもちろんのこと、
公演のリハーサルも行えなくなりました。

昨夜、帰宅後、私自身も
「本番まで1週間」と言う
緊張の糸が途切れてしまいました。

コロナ禍の状況を振り返ると、
必ずしも稽古が十分に足りていたとは
言い切れません。

それでも、各自がそれぞれ
最高到達点に向かい
努力をなさっていると感じていました。

今回は、芸術監督として、
自然と舞踊家個々の
底力を信じることができました。

その矢先の事態に戸惑っています。

皆さんのこれまでの頑張りと
仕上がりレベルと、
再び舞台に向かうモチベーションを
これまで以上に
保つことの難しさを思うと

昨日は朝方まで眠れませんでした。

今回の、公演収録について、
直前で皆さんに
お話ししようと思っていたことを、
まさかこのような形で
お伝えすることになるとは
夢にも思っていませんでした。

私が思うこと。
舞踊家のみなさん。
劇場公演を開催するって
どう言うことだとお考えになりますか?
「毎年やるって大変でしょう?」
「はい、大変です」

でも、
そんなことではないのです。
「大変」だとか
そんなことでは全くないのです。

自分の作品を創るということと、
踊るということは
まったく異なることなのです。

自分の作品を
世に生み出すことは、
私にとって「生きる」実感のできることなのです。

そこには、1人ではなし得ない多くの方の協力が必要です。

私は、小学校4年生の時に
こう思いました。
「あ、踊りって結構できちゃうかも。割と思う通りにできるなぁ…」と。
本当に無邪気に
そう思ったのを覚えています。

人には得意なことと、
そうでないことがあると思います。

私にとって、
身体を思い通りに動かすことは、
割と得意なことだったのかもしれません。

その頃から、踊りを目指していたわけでは全くありません。

やがて、フラメンコに出会い、
結局は、踊りの道を選びました。

フラメンコは、素晴らしい

なぜなら、
踊りだけではなく、
歌であり、
音楽であり、
生き方であり…様々ですから。

それに出会い、
こうして仲間と舞台を創り上げる喜び。
舞台には、
その喜びが満ち溢れています。

同時に、
たくさんの苦悩もありますが、
それを乗り越え、
自分の思いが作品となった時、
格別の喜びを得ることができるのです。

フラメンコには、
カンテ、ギター、踊りと
それぞれが必要ですが、
今回の「フラメンコ・ボレロ」の
メインテーマである
ラヴェルの「ボレロ」は、
舞踊家12名のみで臨みました。

私の中では、『12』には
特別の意味がありました。

『12』は、フラメンコのコンパスの1番最後の数。
節目にあたる数。

舞踊団にとって
12回目の記念すべき公演。

2009年に初演からかぞえ、
悠に12年の年月をかけ
ようやく一回りを果たせると感じています。

それを、12人で
踊ることに意味を見出したいと考えました。
今の私にとって考え得る素晴らしい最高のメンバーとともに。

そこで選んだ曲が、
「ボレロ」

コロナ以前の一昨年に
決定していた企画でした。

約一年前に、
初の緊急事態宣言が発動され
世界が大きく変わりました。

そして、偶然にもコロナ禍、
この曲が自分だけでなく
人々の心を元気にする力があると
再確認し、上演実現を目指しましたが、
延期さらに配信への切替えとなりました。

そして、今回の再度の延期となり、
私は羽を折られたような気分になりました。

ですが、芸術上の困難などというものは、
地球上のさらに深刻な困難にくらべたら
なんでもない。
どころか、むしろ幸せな悩み
ではないかとも思うのです。

「フラメンコ・ボレロ」は、
演じる私たち自身を癒し、
観る聴く人々を元気にしてくれることでしょう。

舞踊家が
他のフラメンコアーティストと
本質的に違うことは、
私自身がよく知っています。

私は、舞踊家が
質の高い作品を作り上げるためには、
身を呈して稽古に励まないと
成り立たないと言うことをよく知っています。
ある意味効率の悪い職業だと言うことも知っています。
この12年間は、
舞踊家の地位向上(?)を目指し奮闘してきました。

ですから、みなさんの差し出してくださった力に改めて感謝をします。  同時に条件にかかわらず、
ここまでやってくださった『舞踊家』という
特異体質の皆さまへの感謝の念は絶えず、どのようにお返ししていけばよいか考えています。

そして、今後再びこの作品に関わっていただきたいと切に願っています。

平 富恵


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?