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3・明るい励ましが呪いの言葉になる瞬間

もっと簡潔に、調べた知識とか情報を淡々と公開していこうと思っていたのだけれど。能天気が売りの私と母にも、いわゆる「メンタルブレイク」がやってきてしまった。一番の被害者は勿論母だ。その余波が私のところにもやってきた。


メンタルブレイクのきっかけは、共通の知人からもらった「励ましの言葉」だった。

きっと大丈夫よ、明るい未来を信じましょう

ありきたりな励ましの言葉だと思う。私だって、友人などに家族の病を告白されたら似たような言葉をかけるだろう。仕事関係の人達に報告したときも散々似たような言葉をかけられた。絶対大丈夫よ、今は白血病も治る病気でしょ、きっと復職してくれるわ、待ってるから、などなど。次いで多かったのが「お母さんは大変だから、あなたが支えてあげてね」だった。これが私には一番効いた。いや私もしんどいですけどね?一緒に働いていた大好きな父がいきなり重い病になったんですよ、想像してみてよ。

まあそんな私から見ても、母が一番大変なのはよくわかっていた。1日おきに洗濯物を取りに行って、預けて、毎日父へ電話とメールをしていた。面会できないから余計に不安なんだと思う。たまに電話すると同じようなことばかり話すから、ちょっとげんなりするけど仕方ない、ストレス発散になればと付き合ったりした。

コロナのせいで職場が休業状態になったのと、父が体調を崩したのはほぼ同時だった。なので父と母は、入院までの1ヶ月半、恐らく結婚して初めて四六時中一緒にいる時間を過ごしたと思う。勿論体調は悪かったし、コロナだからどこにも行けないけど、ゆっくり起きて二人でコーヒーを飲んで、調子がいい日は近所を散歩して、それなりに楽しくやっていたらしい。そんな中、緊急入院からの白血病告知、面会謝絶と怒涛のように引き離されて、さらに白血病の「型」もあまり良くないことがわかった。ついでに骨髄移植のリミットと言われる年齢に、あと2ヶ月で到達してしまう。持病もある。もし骨髄移植ができたとしても、たくさんのお金がかかる。ちなみに移植が仮に成功したとしても、生存率は五分五分らしい。父親のことだから私もまだ冷静でいられるけど、自分の夫に置き換えて考えてみたら発狂しそうになった。

そんな中、前述の言葉をかけられたのである。勿論相手は父の詳細な状況まで知らない。教えてないからね。でも周りは何故か「移植できるんだ!もう大丈夫!」くらいのテンションでくる。勇者様が現れたからもう安心だ!この村は救われるぞ!っていう。こっちとしてはどうにも勇者は頼りないし、そもそも村を救ってくれる保証がないって状況なのにそんなこと言われても。なんでそんな喜んじゃってるの?いまモンスターきたら死ぬぞ?

それで母はプッツンときてしまった。大人なので相手に当たることはしなかったけど、私に個人的に愚痴ってきた。なんなの?明るい未来?意味わかんない!それで私もプッツンきた。善意100%の言葉に、勿論悪意は1%もない。一回冷静になれ、一人で頭冷やせ、と言ったら母は「ハイ」と答えて沈黙した。

私は私で、職場の人達から直接「励まし」の言葉を浴びせられて、滅入っていたのだと思う。ちょうど前日に職場で「勇者様祭り」になってゲンナリしていたところだった。私だって笑顔で受け流してんだから、しっかりしろよオカン!という気持ちだった。強くてたくましい母親をここまで落ち込ませた、父の病気を恨んだりもした。


まあ、お互いにいい歳なのでメンタル回復の手段は心得たもので、とりあえず週末会って久しぶりに外でランチをすることになっている。父の用事のついでだけど。

自分が当事者になって初めて「あの言葉、本当は相手を傷つけてたのかも」なんて振り返ってゾッとすることって意外とあると思う。「子供はまだ作らないのー?」と聞いていた友人夫婦が不妊治療をしていたことを知ったときは穴を掘って埋まったものだ。ちなみにこのことがあったので、私自身が不妊治療を始めたときは近しい友人に告知した。「もし子供が産まれたら報告するけど、それまではそっとしといてほしい。励ましや同情もいらないから!」と。前衛的な防衛策である。

よく「頑張ってる人に頑張れって言っちゃダメ」なんていうけど、じゃあなにが適切なのかというとケースバイケースだったりする。難しい。模範解答がほしい。誰かに励ましの言葉をかけるときは、その言葉がどう捉えられるか少しでも考えたらいいのかなと思う。ちなみに私が父のことに関してありがたかった言葉は「家族のみんなも無理しないで、体に気をつけてね」だった。私と似たような立場を経験した女性から言われた言葉だ。

私と母は優しい言葉に傷ついたけど、これから似たような立場の人に優しくできる成長をさせてもらったのだ。ということにしておこう。

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