ドライブスルー八百屋を利用してみたらうっかり泣いた話
ニュースで話題になっていたので、気になっていたドライブスルー八百屋。接触は最小限で、ダンボールに詰めた野菜を直接車に積み込んでくれるらしい。気になっているうちにどんどん事業が拡大して、ついに家の近くにも拠点が出来たので利用してみることにした。
夫の休みに合わせて土曜日の予約をし、いざ当日。
近所とはいえ行ったことのない場所、夫に運転を任せてナビを頼りに車を走らせていく。右折の指示が出たので曲がろうとすると、進行方向に手作りの看板を持ったお兄さんがいる。パイプ椅子に腰掛けて長期戦の構えだ。しかもこの日は雨が降っていて、お兄さんは看板の他に傘を待ちカッパを着て座っている。
【ここを曲がらないでください。この先交差点を右折!】
危ない危ない。慌ててハンドルを戻して、指示通り交差点を曲がる。さて次はすぐそこの小道を右折か…と思っていると、小道の入り口にまた看板お兄さんがいる。どうやら次の右折はまだ先のようだ。
ここは案内に従おう、とナビを無視して徐行をしていくと、案の定右折を指示するお兄さんがいた。こちらと目が合うと「どうぞどうぞ」と言わんばかりに手を振って誘導してくれる。慣れたものだ。その先も50mおきくらいに誘導のお兄さんがいる。段々楽しくなってきたぞ。
入り口ではそれはもう盛大なお迎えだった。雨の中たくさんのお兄さん達が、私たちの車を歓迎してくれた。
「ご予約のお客様ですか!!」と聞かれる。当日分はとっくに売り切れていたらしい(これも途中の看板で知った)。そうです、と答えると、こちらへどうぞ!と倉庫の中へ誘導された。
いわゆる配送センターの、トラック搬入口だった。中へ進んで、予約の名前と積み込みの位置(後部座席か、トランクルームか)を確認、支払いを済ませて、案内のとおりに倉庫内を移動し野菜を積んでもらう。搬入口にはたくさんのダンボールが積んであった。たくさんの野菜や、果物のダンボール。これの中身を全部出して、バラして、詰め直しているのだなと思った。きっとそれは、さっき道中出会ったお兄さん達なのだろう。
積み込みが終わり、車を出そうとしたとき「あっ!ちょっと待ってください!」とオマケを渡された。
いやいや、オマケ随分大きいな。
これだけで支払い額のいくばくかになるよな…と思いながらありがたく頂戴した。ちなみにジョッキの方は現在夫のオンライン飲み会で大活躍している。
さて倉庫からそろそろと出ていくと、盛大なお見送りに帰り道を誘導されて元の大通りに出た。看板のお兄さんはさっきと同じところにいる。ちょうど交代のお兄さんが来て、看板を受け渡していた。
ふと、あのお兄さん達はどういう立場の人達なのだろうと気になった。普段倉庫に勤めている人達だろうか、もしかしたら普段はトラックを運転しているのかもしれない。だって皆若くて強そうだった。そしてとても愛想がよかった。飲食店で勤めていたことがあるので、物流ドライバーさんには随分お世話になった。ドライブスルー八百屋は、外食卸がなくなって行き場のない野菜をお客に直接販売しようという取り組みなのだという。
私の買った野菜は、あのお兄さん達も助けることになるのだろうか。窓ガラス越しだが久しぶりに生身の人と触れ合い、優しくされた体験で、存外自分の心が弱っていたことに気付く。オマケで貰ったジョッキを両手で抱えたら、なんだか涙が出てきた。
家に帰ってダンボールの中身を確認すると、高騰して手が出しづらかった葉野菜や大根、我慢してた新玉ねぎやちょうど切らした長ネギなど、かゆいところに手が届くラインナップ、しかも新鮮。物流から直接買うのだからそりゃそうだ、と思うけれど、それを毎日捌いている人達を思うと(いつもならダンボールを開けるなんてことはしないはずの人達だと思うのだ)本当にありがたい気持ちになった。
ちなみに果物は、近くに住んでいる祖父にお裾分けした。齢90歳にして、毎朝自家製フルーツジュースを作るハイカラな祖父だ。きっと美味しいフルーツジュースになったと思う。
外食産業が活気を取り戻して、ドライブスルー八百屋なんてしてる暇もないくらい倉庫が忙しくなることが何よりだとは思っているけれど。冷蔵庫と心がさみしくなったら、そのときまだドライブスルー八百屋をやっていたら、再訪したいなと思うのであった。
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