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旧仮名キーボード開発記#7|アプリ審査

旧仮名キーボードをリリースします。
11月15日午前2時半現在、Appleによる審査中ですので、もうしばらくお待ちください。まだ審査結果は返ってきていません。

今回は、リリース作業に関する話題を書こうと思います。
※開発や辞書作成に関する話題は、書いても書ききれないほどあるので、また少しずつ書くことにします。

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アプリを出すにはお金がかかる

App Storeでアプリを公開するには、Appleと開発者契約を結ばなくてはいけません。これを「Apple Developer Programに加入する」といいます。

Apple Developer Programに加入すると、開発者は年会費として1万2980円もAppleに納めなければなりません。

領収書の抜粋

自作アプリをApp Storeで公開している開発者は、単なる個人趣味で開発している人であっても、全員このくらいの金額を毎年Appleに納めつづけています。つまり、5年間アプリを公開しているだけで6万4900円が開発者の個人口座から消えていくことになります。

上記を踏まえながらも、「旧仮名キーボード」は完全無料で公開することにします。

無料で公開している以上、あまりにも低評価をたくさん付けられてしまうと金銭的理由から公開停止を検討せざるを得なくなりますので、どうぞその辺は長い目で見て応援のほどよろしくお願いします。

語彙追加や機能改善などは今後も継続的に行っていくつもりなので、もし何かあれば公式サイトの問い合わせ窓口にご意見をお寄せください。

審査基準は厳格らしい

Appleのアプリ審査基準は厳格だという評判があります。

実際、以前に別のiPhone用アプリを出した経験がある(現在は非公開)のですが、そのときは審査で2回も却下されました。

却下というと、「このようなアプリは認めない」というニュアンスにも取れますが、実際は単なる差戻しのことです。不備を修正して再提出すれば、よほどのことがないかぎり何度も審査してもらえます。

却下されるときには却下理由が添えられており、それに基づいてプログラムを修正すればよいのですが、審査の度に新しい指摘が上がってきます。おそらく審査の流れとしては、不備が1つでも見つかり次第、それ以降の操作は中断し、却下ステータスに変更するという運用なのだと思います。

当時の個人制作アプリの審査履歴を参考のために見返すと、以下のとおりでした。2021年のものなので、現在は事情が変わっている可能性があります。

1日目 17:03 アプリ提出
2日目   0:41 審査開始
 〃    0:47 却下 ∵写真アクセス許可アラート不備
 〃  18:39 修正版のアプリ再提出
3日目 16:11 審査開始
 〃  17:29 却下 ∵トラッキング許可アラート不備
5日目   0:39 修正版のアプリ再提出
 〃  16:12 審査開始
 〃  17:33 受理

却下理由のスクリーンショットも載せておきます。

初回の却下理由
2回目の却下理由

このときは機能テストを十分に行い、事前にウェブ上の資料を読みながら丁寧に審査対策を行ったのですが、このような点を指摘されました。

2回目の却下理由については、期待される仕様に不明点があったので審査員に問い合わせを行いました。
問い合わせ内容は、「もしユーザが初回アラートでそれを許可しなかった場合、アプリから同じアラートを再度立ち上げることはできない。つまり、ユーザが能動的に設定変更をしない限り、アプリ内のリンクを押しても公式サイトも問い合わせ窓口も開けないことになるが、そのような仕様でもよいのか」という内容です。すると、「貴殿におかれましてはガイドライン遵守に関する御理解と御尽力を賜り、厚く御礼を申し上げます。さて御問合せの件につきましては以下ページの資料が参考になります」と定型文のような英語メッセージが届き、具体的な回答は何も得られないまま、すでに何度も読んだことのある資料数件を再度熟読させられました。

結局、ほしい情報はどの資料のどの部分にも書かれていませんでした。

最終的には、トラッキングを許可しなかったユーザがリンクを押したときには「アプリからサイトを開くにはコレコレを許可設定に変更してください」のようなアラートだけを出すような不親切な仕様にしたところ、無事審査通過となりました。そんなことで本当にいいのかと思いましたが、それで良かったようです。

なお、今回の「旧仮名キーボード」では、基本の要件に加えてキーボード開発に関する追加要件にも対応したうえで提出しているつもりです。
以下がキーボード特有の要件です。

4.4.1 Keyboard extensions have some additional rules.
They must:
- Provide keyboard input functionality (e.g. typed characters);
- Follow Sticker guidelines if the keyboard includes images or emoji;
- Provide a method for progressing to the next keyboard;
- Remain functional without full network access and without requiring full access;
- Collect user activity only to enhance the functionality of the user’s keyboard extension on the iOS device.
They must not:
- Launch other apps besides Settings; or
- Repurpose keyboard buttons for other behaviors (e.g. holding down the “return” key to launch the camera).

https://developer.apple.com/app-store/review/guidelines/#extensions

唯一不明点があるとすれば、第2項の「Follow Sticker guidelines if the keyboard includes images or emoji(もしキーボードが画像や絵文字を含むならば、スティッカーガイドラインを遵守せよ)」の意味です。

スティッカーガイドラインには以下のように書かれています。

4.4.3 Stickers
Stickers are a great way to make Messages more dynamic and fun, letting people express themselves in clever, funny, meaningful ways. Whether your app contains a sticker extension or you’re creating free-standing sticker packs, its content shouldn’t offend users, create a negative experience, or violate the law.
(i) In general, if it wouldn’t be suitable for the App Store, it doesn’t belong in a sticker.
(ii) Consider regional sensitivities, and do not make your sticker pack available in a country or region where it could be poorly received or violate local law.
(iii) If we don’t understand what your stickers mean, include a clear explanation in your review notes to avoid any delays in the review process.
(iv) Ensure your stickers have relevance beyond your friends and family; they should not be specific to personal events, groups, or relationships.
(v) You must have all the necessary copyright, trademark, publicity rights, and permissions for the content in your stickers, and shouldn’t submit anything unless you’re authorized to do so. Keep in mind that you must be able to provide verifiable documentation upon request. Apps with sticker content you don’t have rights to use will be removed from the App Store and repeat offenders will be removed from the Apple Developer Program. If you believe your content has been infringed by another provider, submit a claim here.

https://developer.apple.com/app-store/review/guidelines/#extensions

画像(image)とは、おそらくLINEスタンプや、Slackのカスタム絵文字や、WeChatの表情包や、ガラケーメールのデコメ素材のようなものを指していると考えられ、その画像内容が不適切でないことを保証する必要があるということだと思います。

一方、絵文字(emoji)というのは何を指しているのか判然としません。通常は😃のようにユニコードに割り当て済みのものを指すような気がしますが、そこに不適切な絵文字が存在する可能性があるということでしょうか。たとえば、中国にはある事情で使用不可の絵文字があるわけですが、一応日本国も昭和47年以来その事情を尊重する政治的立場を取っていることから、その絵文字の存在を問題ありとみる審査員がいないとも限りません。何が問題があって何が大丈夫なのか分からないため、今回は基本的な顔の絵文字群だけを収録することにしました。このほか、^_^のような顔文字やアスキーアートも絵文字の一種とみなされうるかもしれないので、変なところで指摘されないように、それらについても収録しないことにしました。

そもそも審査員は日本人なのか、日本語の分かる外国人なのか、日本語の分からない外国人なのか、全然見当もつきません。

アプリの提出画面には審査用の備考を書くための欄があり、そこにテストや審査に必要な情報を自由記述で書けるのですが、わざわざ「The Japanese language has two spelling systems」だとか「Japanese has two character sets, just as Chinese has traditional characters (繁體字) and simplified characters (简体字)」だとか「To test the app, make sure to use the traditional spelling system. For example, you need to type "おはやう" instead of "おはよう"」というような前提知識を英語で書きながら、「日本語が分からない人はそもそも日本語キーボードの審査は困難だから、日本語の分かる人が審査するのでは?」という疑念も拭いきれず、それでも前回は英語で審査されたのだからということで、今回も英語で書いて送りました。もし日本語の分かる人に届いているなら、まったくアホらしいですね。

今この記事を書いているのは深夜2時過ぎなのですが、ちょうど日本時間AM2:07に「審査中」のステータスに切り替わったので、少なくとも審査員の職場は海外だと思います。

11月16日にリリースしたい

今夜はもう1時間ほど起きていて審査結果を待ち、却下されていたら即修正&再提出してから寝ようと思います。

昭和21年11月16日に新仮名遣いが発表され、今年で77年目です。

できれば、11月16日という節目の日に旧仮名遣い大復活というシナリオでリリースしたいものですが、間に合うかどうか。

次回予告

審査通過後に、アプリのPR記事を書きます。

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