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「ある漢の生涯 安藤昇伝」 石原慎太郎 著 幻冬舎文庫

一世を風靡したヤクザ、安藤昇の生涯を描いた小説です。

頬に刀傷があるヤクザ者なのに自伝の映画に主役として登場し、他の役者たちを圧倒したと言われた安藤昇。安藤昇の映画がかかっていたのは1960年代後半。小学生だった僕には、なんでヤクザが役者になってしかも主演を張っているのか、よくわからなかったのですが、その鋭い眼差しに、なんか只者ではない怖さを感じたものです。


安藤昇率いる安藤組は、カッコいいヤクザ集団だったのです。薬には手を出さず、刺青もしない。安藤昇は法政大学、幹部の花形敬は明治大学、安藤から弟分的存在として目をかけられていた西原健吾は國學院大学空手部主将。


特攻隊の生き残りだった安藤は、戦後の渋谷で愚連隊的に暴れまわっているうちに裏社会の若き顔役になっていきます。


飛ぶ鳥を落とす勢いの安藤組にも終わりがやってきます。相場師横井英樹襲撃で安藤自身が懲役刑を受け、その間組を立て直そうと奔走していた花形が抗争相手に殺され、出所後すぐに西原が別の抗争相手に殺されたことで、安藤は組の解散を決意します。ここまでは、なんとなく知っていたのですが、その後のことは知りませんでした。八丈島で釣り人相手のホテルを経営し、2015年に89歳で亡くなっています。奥さんのゆうこさんは、安藤がまだ10代だった頃付け文をしてきて、その後安藤が予科練に入った後面会にきた女学生です。


「思い返してみれば、十九歳で特攻隊に志願した時、俺の人生は終わったと覚悟したな。終戦を迎えて後の人生は余録だと思った(p.137)」と語る安藤も、やはり戦争の犠牲者の一人だったのかもしれません。


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