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「「外圧」の日本史」 本郷和人 蓑原俊洋 著 朝日新書

歴史学者の本郷和人さんと政治学者の蓑原俊洋さんの対談です。とても興味深い内容でした。


蓑原さんが、マーク・トウェインの「歴史は韻を踏む」と言う言葉を紹介しているのですが、まさに言い得て妙だと思いました。


日本の歴史も同じようなことをくり返しています。つまり:

1)海外の状況がわかっていない。

2)海外の状況がわかり、これではいけないと言うことで海外から学ぼうとするときは、謙虚で真剣である。

3)最初はいいのだが、海外からの情報を次第に自分に都合の良い方向に歪めて解釈するようになる。

4)調子が良くなると、夜郎自大になり、他国を下にみる。


例えば、命がけで大陸に向かった飛鳥・奈良時代のエリートたちは本当に頑張った(p.26 本郷)し、優秀だったと思います。その次の平安時代の空海なども超優秀で、中国語もサンスクリット語も堪能だったらしいです。また、近世でも明治維新直後、第二次世界大戦での敗戦直後の日本は、勤勉で有能で真面目に頑張ったと思います。これは、上記の2)にあたります。


でも、島国ということもあるのでしょうが、1)3)4)は多いですね。

聖徳太子が遣隋使に託して「日出る処の天子、書を日没する処の天子に致す、恙なきや」という書を送っているところなどは、彼我の国力差がわかってない(p.17本郷)と言えるでしょう。「白村江の戦い」は、朝鮮半島の状況を十分に把握していなかったので、出兵し負けてしまったと言えますし、それと同じようなことが秀吉の朝鮮出兵時にも言えますし、日露戦争にも太平洋戦争にも言えるかと思います。


1980年台のバブルの頃の日本も「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とか言ってのぼせ上がっていました。蓑原さんは、「あのヴォーゲル先生によるあの本は、アメリカ人に対する警鐘ですよね。日本はナンバーワンになったわけではないですから。でも当時の日本人は日本語版を自画自賛のための本として喜んで手に取った(p.178)」と指摘しています。当時僕は会社員だったのですが、蓑原さんと同じようなことを感じました。「アメリカなんて、大したことないよ」という人はたくさんいました。その結果が、今の低迷につながっていると思います。


一方、海外、特にアメリカのエリートは、非常によく日本を研究していると思います。明治維新時のペリーもハリスもかなり日本を研究していたようです。マッカーサーも当時には珍しくアジア人に対する差別意識がなかった人なのだそうです。


この本の最後の方に「私は二〇二五年以降が特に危険だと考えています。中国の五か年計画が終わりに近づき、バイデン政権も過去のものとなって、トランプないしトランプもどきが米大統領になっている公算が大きいです。つまり、アメリカは世界への関心を失い、さらに内向きとなることによって国際政治がさらに不安定化していると思います(p.274)」ということを篠原さんが書いているのですが、心配ですね。ネットを見ていると、1)、3)、4)をやっている人たくさん見かけますし・・・。


この本全体を通して、本郷さんが先輩風を吹かさずに、11歳年下の蓑原さんと対等の立場で対話しているのが心地よかったです。対話のできる専門家っていいですね。


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