見出し画像

「絶望名人カフカ×希望名人ゲーテ:文豪名言対決」 カフカ、ゲーテ著 頭木弘樹編訳 草思社文庫

これは、面白かったです。


「太陽が輝けば、ちりも輝く」と希望に溢れるゲーテ、「救世主はやってくるだろう。もはや必要ではなくなったときに」と絶望するカフカ。

死の数時間前に、美女の夢を見て、「美しい女・・・黒いまき毛・・・素晴らしい色・・・見たまえ」とうわごとを言う82歳のゲーテ。ゲーテは、何人もの女性と恋をしました。しかし、カフカは、その正反対で、自分が幸せな結婚ができるとは思えなかったのです。2度婚約して2度婚約解消した相手フェリーツェは、カフカの作品を全く評価していないように見えました。でも、カフカと別れて、裕福な銀行員と結婚して二人の子供をもうけ、ナチスから逃れてアメリカに亡命するときにも、カフカからの500通におよぶ手紙をすべて持っていっています。「フランツくん、君は愛されていたのだよ」と言いたくなってしまいます。

このような明と暗、あまりの対比。正反対だけど、それぞれの言葉に共に納得できてしまうところが面白いです。

編訳者の頭木氏は、13年もの難病による療養生活中にカフカの言葉を読んで励まされたのだそうです。絶望的な言葉に励まされる・・実は、本当に苦しい時に励まされるのは、絶望的な言葉の場合も多いのかもしれませんね?

そのカフカが愛読していたのがゲーテです。ゲーテの言葉も、手紙の中などでたくさん引用しています。

実はゲーテも絶望の淵をさまよったことがあります。父親との関係がうまくいかず、病気で大学も中退し、恋人とも別れ自殺を考えていた時期があります。そうした経験がなければ、「若きウェルテルの悩み」を書き上げることはできなかったでしょう。ゲーテの「ファウスト」の中の言葉が美しい。

「幸福な両の目よ、おまえたちが見てきたものは、何はともあれ、やはり本当に美しかった」


編訳者の頭木弘樹さんの前著「絶望名人カフカの人生論」もお勧めです。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?