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「万事快調<オール・グリーンズ>」 波木銅 著 文春文庫

僕は、村上龍の「69」という高校生が主人公の小説が大好きなのですが、この「万事快調」は、まさに、現代の「69」と言えると思います。今度は女子高生が主人公。最高に面白かったです。


舞台は茨城県の東海村。


主人公の朴秀美は、田舎の底辺工業高校の、目立たない生徒ですが、学校が終わると東海村サイファーという集まりでフリースタイルラップをやっています。


読書家で、本を読みたいと言ったひきこもりの弟に、自分の本棚から『無伴奏ソナタ』と『アルジャーノンに花束を』と『わたしを離さないで』と『夏への扉』と『たったひとつの冴えたやりかた』をさっと選んで渡します。ちなみに、この中で僕が読んだことがあるのは『アルジャーノンに花束を』だけです。


矢口美流紅は、陸上の選手で明るく目立つ生徒なのだけど、父親は東海村の臨海事故の後自殺しています。そして、映画オタクです。


だから、母親(トキちゃん)の理想に合わせている自分を「メソッド・アクティングの賜物だった。徹底的な役作り。『レイジング・ブル』でジェイク・ラモッタを演じるために三十キロ近く体重を増減してみせたデ・ニーロや、『ダークナイト』でジョーカーに精神を近づけすぎたあまり病んで不眠症になって死んだヒース・レジャーのごとく、矢口はトキちゃんの求める理想像の役になりきってみせた。明るくて、活発で、あまり深いことは考えない。いつも幸せ。(p.78)」などと表現したりします。


岩隈真子は、漫画オタクで、大島弓子の『綿の国星』全七巻はあらゆる台詞を暗記するほどに読み倒し(p.35)、『ガロ』の掲載作品から『進撃の巨人』の最新話まで、草食動物のような視野で情報を蓄えています(p.36)。


そして、岩隈は、想像の世界では相当過激なことを妄想しているのだけど、普段は表現をすることをしないのですが、ネトウヨに染まりそうになった後輩の藤木(男子生徒に)に向かって激しく啖呵を切ります。


「大島弓子読んでおきながらネトウヨになれるって、マジでありえないんだけど。そのふたつは両立しないだろ。どっちかにしろ!(p.131)」

「まぁね。靖国神社行って日本兵のコスプレしてはしゃぐのも、駅前で旭日旗振り回しながら反日外国人は出ていけーって叫ぶのも自由だ(p.131)」

「実は私は、日本を転覆させるために中国から送り込まれたスパイだっつったら、どうする? 友達と一緒に竹槍で突き殺す?(p.132)」


いくつかの偶然が重なって、朴秀美は、矢口美流紅と岩隈真子と共に、部室棟の屋上で放置されていたビニールハウスで大麻を栽培するという、とんでもないことをはじめます。そのグループ名が、ジ・オールグリーンズ。


ジャン=リュック・ゴダール、スタンリー・キューブリックの「時計仕掛けのオレンジ」、「セブン」でのモーガン・フリーマンのセリフ、「レイジング・ブル」のロバート・デ・ニーロ、「アルジャーノンに花束を」、「ガロ」、たまの「さよなら人類」なんて言葉が、米津玄師や、全く知らないけどおそらく有名なラッパーたちの名前とともに、ぽんぽん出てくるのが、逆に新鮮です。しかも、語っているのが高校生。こんな高校生、本当にいるの?と疑問に思ってしまうのですが、作者がこの小説を書いたのは大学生の時。ということは、リアリティがあるわけです。


この小説のラストがはちゃめちゃで最高!ネタバレになるので詳しくは書きませんが。

ドライブ感があり、ノリがよくって、アゲアゲで、ぶっ飛んでて、ツボる、カッケー小説でした。←ちょっと無理して「若者言葉」を使ってみました。


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