【ChatGPT】法務実務に利用する際の活用方法と注意点
はじめに
本稿では、契約書作成業務などの法務部門の業務について、どのようにChatGPTを活用できるかをご説明します。
私自身、会社員のときには法務部に所属し、毎日契約書を作っていましたし、退職後も一時期行政書士として法務業務を行なっていましたので、ChatGPTがどのレベルの法務業務をこなせるかについては興味がありました。
ChatGPTを使いこなして契約書をハックすることは、仕事に役立つだけではありません。
自分や家族、友人の生活にも役立ちます。例えば自分が住む住宅の不動産売買契約や賃貸借契約、住宅ローン契約、生命保険の契約、などなど、日常生活においても契約で溢れており、なんならスーパーでリンゴを買うのも売買契約です。
どんなことであれ契約書に関してChatGPTに聞いてみることはリスクヘッジに役に立つはず。
契約書のテンプレートの準備に
ChatGPTを使って、契約書のテンプレートを生成することができます。例えば、業務委託契約書、不動産の賃貸契約書やアルバイトとの雇用契約書など、様々な分野の日常使いの契約書を作成する際に、必要な条項やフォーマットをChatGPTが提案してくれます。
これにより契約書作成の初期段階を効率化することができます。
契約書の作成で一番面倒なのが、この「テンプレート探し」です。
これまでであれば、インターネットで検索して探していたと思いますが、ネット上に転がっているテンプレートを使うには、Webサイトに登録しなければならなかったりして面倒。
そんな時にサッとChatGPTに聞いてしまえば、簡単なテンプレートが手に入ります。
はい。これで一番大変な第一歩を踏み出すことができました。
弁護士費用の適正化に
仕事で顧問弁護士に契約書の作成を依頼する場合も、自社で草稿(=ドラフトといいます。)を用意して、その用意したものに、当事者の情報や、契約の内容を書き込んだ上でレビューを依頼するか、ゼロから契約書の作成を依頼するかで、弁護士報酬額は全然変わってきます。
例えば簡単な業務委託契約書であれば、ゼロから作成を依頼すれば20万円かかるかもしれませんが、こちらであらかじめドラフトを用意して、その修正を依頼する形式にすれば、費用は半額以下で済むでしょう。
また、契約書、一般に言えることですが、最初から法律専門家に丸投げするよりも、自分で作成して専門家にチェックを依頼したほうが、一般的には良い契約書が出来上がります。それは、美術関係の生々しい情報が契約書に必然的に盛り込まれるからです。
日常生活のリスクヘッジに
日常生活で発生するちょっとした貸し借りで、しかもどんな契約書を使っていいかわからない場合も、とりあえずChatGPTに聞いてみる習慣をつけると、後々のトラブルを避けられます。
仕事であろうと日常生活であろうと、なんといっても1番トラブルになるのは言った言わないですから、契約した事実と内容を書面化しておくだけでもトラブルの8割は避けられます。
完全オリジナルな契約書の作成に
ChatGPTにテンプレート用意させる使い方をしているとだんだん気づいてくることがあります。
それはChatGPTが用意してくれる契約書自体が短くて無難なものであり、自分が検討している具体的な契約内容にそぐわないものであることに。
そんな時はオリジナルな契約書を作ってみましょう。
やり方はこれまでと逆です。
これまでは何かの契約書のテンプレートを出してとChatGPTに依頼していました。
一方、完全オリジナルの契約書を作るときは、まず最初に自分が締結したい契約の条件をChatGPTに伝えます。
具体的には、契約当事者名、契約締結予定日、契約金額、そして最もカスタマイズすべき対象である諸々の条件についてできるだけ詳しくメモを書いておきます。
どんなことでも構いません。できるだけ詳しいメモが良いです。そのメモが一番重要で、ChatGPTにはこのメモを元に契約書のドラフトを作って、と依頼するわけです。
ではやってみましょう。
以下の条件での契約を締結します。条件を全て反映した契約書のドラフトを書いてください。
織田信長株式会社は徳川家康株式会社に対して5000の兵の派兵業務を依頼します。派兵の日程は天正3年5月1日から天正3年8月30一日までです。派兵場所は天竜川河口付近です。戦闘の相手方は武田信玄株式会社です。 報酬は総額で天正小判1万枚です。天正3年4月15日を契約締結日とし、報酬の半額を速やかに支払います。業務期間終了後に残りの半額を15日以内に支払います。兵員の構成は別紙により定めます。 一方が派兵日前までに契約を解除することはできますが、違約金として契約金額の1割をへ相手方に支払います。
その結果、ChatGPTから以下のような出力がありました。
このように内容は完全オリジナルですが、有効な契約書の体裁を取っています。
上に書いた、契約条件を記した文章を、ChatGPTが解釈し、契約書化してくれるわけです。
この方法を知り、少し練習しておけば、テンプレートの契約書を使用するよりはるかに契約の実態に沿った契約書が締結できます。
更に上記で説明しましたように、弁護士等の法律専門家に相談する場合も費用が抑えられるのはもちろんのこと、的確な回答が速く返ってきます。
なにしろ、あなたのメモ書きは契約で最も重要な実体部分が書かれていたわけですから、的を外しようがありません。
ChatGPTのすごいところは、法律文章ではない日常文による条件を解釈し、法律文書に変換してくれる点です。
この点こそ、ChatGPTが既存のWEBサービスと一線を画した点です。
そこで私たちが本質的に問われるのは、契約書の形式的な作り方を知っているか否かではなく、直面している課題に対する当事者意識や国語力になってくるわけです。
契約書のレベルアップに
ChatGPTに更に的を絞って依頼すると、オリジナルな契約書をレベルアップすることができます。
するとこのように契約書がレベルアップされます。元の契約書に、12条以下が追加されました。
保険加入や解約条件の列挙まで行われています。
ここまでくると、日本国内での企業間の法務部がチェックする契約書のレベルにだんだん近づいてきました。
自分に有利な契約書に
前項までで、 必要な条項を反映した契約書のドラフトができたとします。
確かに契約書の内容は整っています。
でもこれで本当に良いのでしょうか。
私がこれまでに試してみた範囲では、ChatGPTの提供する契約書の内容はあくまで当事者間で公平な契約書です。
もし自分が徳川家康株式会社であった場合、少しでも自分の会社に有利な契約内容にする必要があります。
もちろん相手方も同じ気持ちですが、その意見のぶつけ合いが契約交渉です。
(ChatGPTは自分で契約交渉にも役立つと言ってますが、本稿では契約交渉については扱いません。)
では、その趣旨に沿って契約書を自社に有利に修正してもらいましょう。
やってみます。
以下のように返ってきました。いくつかの点で変更されています。
(長いので、読み飛ばしてください。)
変更された点はわかりました。
でも、前のバージョンと比べてどのように変更されたかいちいち見比べるのは面倒です。
何とか楽に見比べられないでしょうか?
新旧対照表の作成に
そういう時は、新旧対照表の作成を依頼できます。
(表形式はうまく貼り付けられないため、スクショを貼り付けます。)
どこが変更されたか見やすいですね!
特に16条をご覧ください。
徳川家康株式会社の損害賠償責任が、無制限から、報酬額を上限とする範囲に限定されています。
この条件などは、契約において超重要であり、通常は法務部員や顧問弁護士が追加するような条件です。
この一例をとってみても、契約書を作るだけで満足せず、有利な条件の追加や不利な条件の削除について詰めておく必要があることが分かります。
新旧対照表の作成は、通常はMicrosoft Wordなどで作成します。
作成にはとても時間がかかります。
私はこの単純作業が大嫌いでした。
今はChatGPTがやってくれます。
なお、更に楽する使い方として、以下のように指示すると、変更箇所を太字で示してくれます(ちなみに下線で示してくれと依頼するとうまくできませんでしたので、代替策として太字での表示にしました)。
旧条文から新条文への変更箇所を太字にした新旧対照表を作成してください。
このテクニックは株主総会議事録、株主総会招集通知、取締役会議事録、適時開示、有価証券報告書、行政への各種届出書など法律文書のさまざまな場面で使えますので、総務部の方にぜひ試してみていただきたいです。
まとめ
いろいろと事例を紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
業務に活用していただける点があれば幸いです。
ChatGPTは言語モデルですから、数字より言葉を扱う方が得意です。
法務の業務は正に言葉を使う仕事の一つ。
しかも契約書次第では会社や個人の命運を決めるものです。
面倒な繰り返しの業務や、テンプレートを用意する業務、契約書の体裁を整える業務などはChatGPTに任せつつ、人間は契約条件を考えたり、交渉したりすることなど、生産的な業務により時間を割けるようになります。
「機械にできることは機械に任せる」
これです。
最後にまとめです。
一般論としては、自分の専門分野ほどChatGPTは使えます。
その理由は、自分の専門分野の仕事をさせれば、ChatGPTの間違いに気が付けるからです。
周知の通り、ChatGPTはBingなどとは異なり、質問すると必ず答えを返してくれますが、それが間違っているケースが多々あります。
これはChatGPTが論理で作られたモデルではなく、確率論で作られたモデルであるためです。
すなわちChatGPTが事前に学習したデータの根拠が複数あるとして、その中から答えとして選択するものを多数決で選んでいるためです。
多数決で代表者を選ぶ民主主義だって間違えることがありますので、構造は同じです。
よってChatGPTに正確性に関して過大な期待をせず、部下に下書きをさせる感じで使えば良いわけです。
部下が間違えて作ってきた草稿を上司が修正することで、チームとしてのアウトプット量は何倍にも増加します。
今回の契約書関連もしかり。
ChatGPTが出してきたものはよく読んで活用してください。
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