アムステルダムDoc映画祭2022日記Day8
16日、水曜日。昨夜に少し雨が降ったみたいだったけれど、朝は晴れて良い天気。ただ、アムステルダム到着から1週間で気温が10度くらい下がった気がする。キリリとした欧州の冬が大好きなので、大歓迎。
少し部屋で作業してから、10時45分の上映に向かうべく外に出る。本当は、午前中は部屋で作業を続けたかったのだけれど、ジェームズ・ベニング監督の新作が見られるのだと気が付き、急きょ出動した次第。東京にイメージフォーラム・フェスティバルや恵比寿映像祭があるおかげでジェームズ・べニング作品に接することは出来るけれども、やはりチャンスは少ない。IDFAで上映があると知ったら駆け付けずにはいられない。
新作のタイトルはずばり、『The United States of America』(扉写真も)。べニングは確か70年代に同じタイトルで作品を作っている。車の中から見たアメリカ、的な内容だったはず(間違っていたらごめんなさい)。
2022年の本作は、アメリカの全50(くらい?これまた自信なし)州の、ひとつの光景/情景のフィックス・ショットを繋げていく作品で、アルフベット順に、各州で撮られた1~2分程度のフィックス・ショットの連続が眼前に現れては消えていく。
ラストベルトや軍需施設など、特徴あるショット(州)もあるのだけれど、ただ荒涼たる大地が横たわっているだけ、というショット(州)がほとんどを占めている。あげくの果てには雲しか映らない州もある。それ自体が批評的行為で、そういう意図を読み解こうとしながら、「アメリカはやっぱり広いなあ」と単純に呆れつつも、アメリカという国が現在抱えるあらゆる側面を、全州の2分からなるショットの連続で考えさせるのは名人芸で、まさにジェームズ・べニングならではだと唸る。
確かに、ナレーションも字幕も無いし(州の名前だけは出る)、ただひたすら2分のフィックス・ショットの連続を見続けることに苦痛を伴う時間帯もある。忍耐力は確かに必要。途中退出者も多かった。
しかし。最大のサプライズは映画の最後に来た。あらゆることを根底からひっくり返す演出がなされていたことを知る。なので途中退場者は気の毒。映画が終わると、隣の見知らぬ観客と猛然と答え合わせが行われ始めた。僕も隣席の青年に話しかけた。「〇〇って、〇〇だったいうこと?」と聞くと、「どうやらそうらしいよ」。場内が騒然としている。
あらゆる常識や偏見や深読みを引っくり返し、映画表現の恐ろしさを知らしめてくれる偉大な作品。『The United States of America』、イメージフォーラム・フェスティバルに営業してみよう。
いやあ、見て良かったなあと噛みしめつつ、いったんホテルに戻る。ジェームズ・べニングが気を楽にさせてくれたような気がした。というのも、本日午後にパネルディスカッションに登壇することになっており、それが実はとてもプレッシャーになっていたから…。
パネルのテーマは、ヨーロッパ映画とその業界が内外でいかに捉えられているか、という意味のもの。僕はアジア/日本からの立場でみたヨーロッパ映画とヨーロッパ映画業界に関する見解を期待されているらしい。んー、テーマがあまりにも大きいし、一体何をどう話せばいいのか分からない。そして、自分でも自信のないことをニュアンスだけでも伝える英語力が残念ながら僕には無い。英語のアドリブが効かない。このオファーを受けてからの1ヶ月、IDFA自体は猛烈に楽しみだけれど、トークが猛烈に憂鬱という日々が続いていた…。
で、ついに夕方の本番が来てしまった。背伸びしてもしょうがないし、そもそも難しい話が出来る性質でもないので、開き直るしかない(ジェームズ・べニング効果)。
ということで、今年の3月にウクライナ映画人支援上映を企画したことで、いかに欧州の価値観と連帯を感じられたかについて、話してみる。ナイーヴだけれども、映画の力を改めて実感できた。そしてヨーロッパの組織のイニシアティブがなければ、決して成し得なかった。これほどSolidarityを感じたことは無い、というようなことを話しつつ、日本の映画人がより殻を破り、大胆な主題に取り組めるようになるためにも、欧州のプロデューサーたちと繋がっていくことが日本の文化の生命線となっていると話し、いつの間にか欧州映画から日本映画の話にシフトしまった…。
会場に一人だけ日本の方がいらっしゃって、とある配給会社のAさん。トークの後に飲むことが出来た。Aさんが「ちゃんとしてましたよ!」とおっしゃって下さって、もう安堵感で膝から崩れ落ちそうな思い。Aさん曰く、どうやら僕は10分以上ひとりでしゃべっていたらしい…。
まあ、ともあれ、なんたる解放感!終わった!
ただ、やっぱり細かいニュアンスを伝える英語力、あるいはその細かいニュアンスを考えられる柔軟な頭脳の欠如は如何ともし難い。反省ばかりのIDFA、いよいよ終盤です。
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