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サンセバ映画祭2022日Day6

21日、水曜日。6時起床、シャワーと朝食済ませて7時半に外に出る。ここ数日で季節のページがはっきりめくれた気がする。朝晩はすっかり秋で、12度くらい。日中も20度が最高との予報。今朝は薄曇り。
 
8時半からメインの「クルサール会場」スクリーン1で、コンペの『The Rite of Spring』というスペイン映画へ。セビリア出身のフェルナンド・フランコ監督による3本目の長編作品。
 
大学1年生の内気な女性が、上京したマドリッドで慣れない新生活を送る中、ふとしたきっかけで脳性麻痺の青年と知り合い、障害者に向けた性的介護の存在を知る。ヒロインは介護を申し出て、自らの殻をも破ろうとするという物語。

"The Rite of Spring"

展開がとてもスムーズで心地よく、自然体で偽善に陥らない爽やかな青春の物語であり、とても好感が持てる。主人公の感情の揺らぎが手に取るように伝わってくる好編だ。身体障害者の性を描いた『ナショナル7』などの秀作を想起させつつ、本作はヒロインが自らの気持ちが介護なのか愛なのか、そして相手はどう受け止めているのかで悩む姿がとても真摯に描かれており、等身大の青春映画として優れている。フランコ監督は編集者として30本以上の長編に関わっているとのことで、本作の流れのスムーズさは、なるほどさすがと思わせる。朝イチでとても素敵な気分にしてもらえた!
 
会場近くのカフェでコーヒーを飲んでから、11時半から同じくコンペで『The Kings of the World』というコロンビアの作品。ラウラ・モラ監督の2本目の長編。
 
都会のストリートで暮らす少年が祖母の土地を相続することになり、その地を目指して5人の仲間たちと自然の中を旅するロードムービー。出会いと別れ、トラブルと安堵、やがて仲間割れを経て、苦労をしながら目的地に向かう。せわしない都会の喧騒から、ゆったりとした自然の中の旅に移り、キャメラの動きに緩急があり、幻想的な描写もある。豊かな映像でじっくりと観客を惹き込んでいく作品だ。

"The Kings of the World"

だがしかし。隣席の男性客が異臭を放つ上に、貧乏ゆすりをして足の爪先で床を踏み叩く癖があってうるさく、完全に集中力を持って行かれてしまった。映画祭に限らず、劇場で映画を見るということはこういうリスクを引き受けることだとは言え、僕もまだまだ修行が足りないな…。

とはいえ、近年注目されることの多いコロンビア映画の魅力を確実に継承しているし、ラウラ・モラ監督の今後には是非注目していきたい。多少の不自由な鑑賞環境に負けているわけにはいかないのだ。
 
上映終わり、次までかなり時間が空くので、今日はランチからバル街に行くことにする。キノコのカナぺ、タラのトマトとニンニク和えのカナぺ、ピリ辛ひき肉コロッケなど、いずれも美味すぎて、ひとりで身悶えしてしまう。ビール一杯と共に、至福のランチ。

少しブラブラして(朝の薄曇りからピーカンになり、昼の日差しはかなり強い)、15時半の上映へ。「新人監督部門」でモルドバの『Carbon』という作品。Ion Bors監督の長編1作目。
 
ソ連崩壊後の1992年を舞台に、独立を果たすモルドバとロシアの関係に、ルーマニアも絡んでくる政治コメディー。トラック運転手の青年が内戦に参加しようとし、アフガン戦争経験者の年長の男が彼と同行するものの、道中で炭化した遺体を見つけ、きちんと埋葬しようとするうちにトラブルに巻き込まれていく。

"Carbon"

白状すると、僕はモルドバの事情に全く疎く、コメディーなのについていけないという窮地に陥ってしまった。どうにも展開が理解できていない。スペイン人の観客は爆笑しているので、僕に基礎教養が不足していることは明らかで、ああ、かくもワールドシネマへの道は険しく、厳しいのだ…。
 
と自虐に浸っている場合ではなくて、今年に入ってウクライナについては多少勉強したのだから、隣国のモルドバについても知る努力をしなければいけなかったのだ。ウクライナ情勢だけを調べて、そこで止まってしまうのは怠惰であり、センスの不足だ。常に視野を広げていないとならない。猛省。
 
ひとつ言い訳があるとしたら、英字幕がスクリーンの枠外の下に投影されているのだけれど、今回は前の席に大きな男性が座っており、英字幕への視野を塞がれてしまったことも痛かった。体を曲げて伸ばして英字幕を見るのはなかなか大変。まあ、海外映画祭、一喜一憂だな…。
 
カフェを探し、コーヒーで気分転換して、18時半からの上映を見るべく「クルサール会場」に戻る。
 
18時半から「ラテン映画コンペ」部門で、本作が長編デビュー作となるアルゼンチンのマリアーノ・ビアシン監督による『Sublime』という作品。今年のベルリン映画祭の「ジェネレーション」部門にも出品されており、僕はベルリンで未見だったので、サンセバでキャッチアップ出来てありがたい。

「新人監督」部門や「ラテン映画コンペ」部門の一般上映では、上映前に監督とスタッフキャストの登壇が時折あり(コンペだと客席から手を振るだけ)、今回登壇したビアシン監督は何らかの賞を授与されたようで、長めのスピーチをしている。英語通訳は入らないので、残念。

『Sublime』(扉写真も同作)は、ベースを奏でる16歳の少年マヌエルが、仲間たちとロックバンドを結成して練習に励む中、ギタリストである幼い時からの親友を愛してしまい、友情と愛情の狭間で苦悩する物語。

"Sublime"

キャメラはマヌエルの表情を終始アップで捉え続け、物語の進行よりは、マヌエルの複雑な心境の揺れにひたすら寄り添う演出。バンドの曲と演奏は未熟ながらもエモーションに満ち、カタルシスをもたらす素晴らしい青春映画だった。終映と同時に爆発的な拍手が起き、これは今回のサンセバで最大の客席のリアクション。

ドキドキとうっとりを抱えながら会場を出て、日本から来場している知人の方と合流し、またまたバル街で一杯。

今日はそのままホテルへ帰還。映画は4本だけど、本日も充実。ブログを書いて、まだ0時前。至福のサンセバも、あと2日。最後まで堪能できるように、早く寝よう。


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