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サンセバ映画祭2022日記Day3

18日、日曜日。8時に外に出ると、キリッと涼しい。スマホの天気予報によれば、最低気温11度、最高気温24度。そして今日は薄曇りかな。長袖シャツ1枚で出てきてしまったけど、ジャケットがあったらよかったかも。
 
9時から「ラテン映画コンペ」部門でチリの『1976』。今年のカンヌの「監督週間」部門でプレミアされた作品。カンヌでは見られなかったので、サンセバでキャッチアップ。
 
チリの軍事クーデターから3年、ブルジョワの婦人であるカルメンが別荘の改装に赴くが、旧知の神父から反政府勢力で怪我を追った青年の世話を頼まれて承知したことから、カルメンの人生にさざなみが起こる様を描く物語。

"1976"

安定した生活を送る人物が心理的にプレッシャーを受ける様子が丁寧描かれるのはいいのだけど、逆に心理描写に重きを置き過ぎて物語の進行が遅くなってしまった感があり、少し残念。ただ、政治状況に影響を受けない裕福層が不穏な時代の到来を知って密かに動揺する心理は見応えがあるので、これはもう表裏一体だ。総合的に良作と判断。
 
カフェでコーヒーとクロワッサンを頂いてから、11時半の上映へ。「クルサール」のメインスクリーンで、コンペの『Sparta』。オーストリアのウルリヒ・ザイドルの新作だ。大好きな監督であるし、とても楽しみにしていた1本。
 
ルーマニアの田舎町を舞台に、オーストリア人の中年男性が少年たちに柔道を教える名目で廃校を買い取って改装し、地元の少年たちを集めて小さなユートビアを築く物語。男性は小児性愛を自覚し、その誘惑と戦う苦しみが、ザイドル独特のリアリズムタッチで描かれる。実話をベースにしていると断るまでもなく、ドキュメンタリーにしてもフィクションにしても常に社会の暗部をえぐるザイドルのタッチが冴える秀作だ。

"Sparta"

しかし、この作品にクレームがついた。フランスのリベラシオン紙の記事を読むと、本作に出演したルーマニア現地の子供たちは、作品の内容を知らされておらず、意に反する演技を強いられたという。映画は、主人公の男の苦悩は描くが、小児性愛を巡る直接的な描写は無い。しかし、下着一枚で戯れる子供たちの姿は頻繁に登場し、大人の圧力(主人公ではない)で涙を流す少年のシーンもある。彼らに対し、説明と配慮が足りなかった、ということらしい。また、撮影地は貧困地区であり、日当目当ての親たちは映画の主旨を理解せずに参加を承知してしまったという指摘もある。
 
ザイドル側は、親には説明してあるとしており、指摘を認めてはいない。常に際どい主題を選ぶザイドルであれば、こういう点には十分に気を配っていると思われるのだけれども、クレームは出てしまった。今の時代、これはとても苦しい立場であると言わざるを得ない。
 
先に行われたトロント映画祭は一般上映をキャンセルしており、そしてザイドル監督はサン・セバスチャンへの来場キャンセルを発表した。サンセバは上映のキャンセルはしなかったので、こうして僕は見ることが出来たのだけれど、小児性愛をセンセーショナルに描く作品では全く無いだけに、今後世界での上映が難しくなったら残念な気はしてしまう。しかし、実際に無垢な少年が撮影現場で傷付いていたとしたら、それどころではない。ともかく情報も限られているので、いまは冷静に見守るしかないのかもしれない。難しい。
 
むむー、と頭を抱えつつ、次まで2時間半空くので、いったんホテルに引き上げる。
ホテルで一休みして上着を羽織り、メイン会場の「クルサール」に戻る。メインのクルサール1の内部は、こんな感じ:

観るのは、デンマークのフラレ・ピータゼン監督新作『Forever』(扉写真)。そう、2019年の東京国際映画祭でグランプリを受賞した『わたしの叔父さん』のフラレ監督の新作!
 
『わたしの叔父さん』はトーキョーがワールドプレミアで、観客からも審査員からも愛されたとても幸せな作品だった。僕にとっても本当に思い出深い一本。そのフラレ監督新作がサンセバで見られるなんて、こんなに嬉しいことは無い!しかも一般上映のチケットが取れているので、本人の姿も見られるはず。これは本当に楽しみ。
 
作品は、幸せな家族に突然訪れた悲劇といかに向き合うか、という物語。フラレの落ち着いて静かなトーンは前作からさらに徹底されて、観客も劇中の家族と同じ悲しみをとことん共有することになる。夾雑物は一切無く、ギミックを排し、観客に家族と向き合わせる徹底的な一貫性にフラレの意思の強さが窺える。どちらかと言えばアクの強いデンマーク映画において、静のフラレは独自の地位を確立しているのではないか。今後が一層期待される作家になった。
 
上映後に客席で監督たちが手を振って挨拶。それで終わりかと思いきや、会場ロビーの階段脇に観客が移動し、その階段の上に監督キャストが登場して降りてくるという演出があった。これがサンセバコンペのパターンなのか!とても新鮮。大きな拍手の中をフラレ監督と(『わたしの叔父さん』に続き主演の)イエデ・フラゴーさんらが降りてくる。この演出はいいなあ。

終了し、カフェで一息ついていると、カクテルパーティーに出席の予定があったのを突然思い出し、会場となる拡張高いホテルに入ってみたかったのでダッシュで行ってみる。外観は格調あるけれど、内部はまあ普通の高級ホテルであることを確認し、会場を一瞬だけ覗いて、すぐに退場し、19時15分の上映へ。
 
赴いたのは、「新人監督」部門の『Tobacco Barns』というスペインの作品。(作品スチールにインパクトがあって、目を魅かれる。やはりメインビジュアルは大事だ)

"Tobacco Barns"

タバコ農園を所有する老夫婦の元を夏休みで訪れた家族の幼い孫娘と、そのタバコ農園で働く家族を手伝うハイティーンの女性のふたりの物語。地元で育ったハイティーンの女性は将来について漠然と悩み、夏休みでこの地を訪れた幼女は自然と一体化する。ファンタジーも交えた個性的な演出に監督の才気を感じ、面白い。少し未整理の部分もあるけれど、それも魅力に繋がっている。夏休みの地方を舞台にした少女たちの物語はカルラ・シモン監督を思わせ、スペインの女性監督たちに勢いを感じる。
 
上映が21時に終わり、ダッシュで次の目的地に向かっていると、旧知のフランス人のセラーとすれ違い、うわあ!と再会ハグ。とても久しぶりだったので、とても嬉しい。
 
そしてそして、夜はフラレ・ピータゼン監督がプライベート・ディナーに誘ってくれたので、お言葉に甘えてみた。フラレと主演のイエデと久しぶりに再会し、本日の新作の感想などを伝える。素敵なレストランで21時からしゃべり始め、気が付いたら0時半。時間を忘れた!
 
解散してタクシーの列に並ぶ。もうバスは無く、タクシー乗り場は長蛇の列。結局1時間並び、ホテルについて2時。さすがにブログを書く力は残っておらず、ベッド直行。
 
(19日朝6時に起床し、ブログをアップ。なので終盤は手抜きになってしまった!)




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