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ウ・ア・ワ

(僕はゴミカスだ・・)

国内有数の進学校に通っていた僕は、高校一年の途中から当時話題となっていたゲームにのめり込み、学校帰宅後は朝までそのゲームをし続け、僕にとっての学校は二年の中頃には寝に行くだけの場所となった。
学校では先生をはじめクラスメイトや幼少期からの幼馴染達が心配して声をかけ続けてくれていたが、当時の僕の耳にその声は届かなかった。
一生懸命勉学に取り組むみんなの輪の中に僕の居場所が無くなるのにさほどの時間を必要としませんでした。
無我夢中といえばちょっとかっこいい感じだが、でも実際には将来から逃げるためにゲームに依存していただけなのかもしれない。
今となっては当時の記憶はほとんどなく、自分でも一体何が起こっていたのか説明することができなくなってしまった。
そんな折、プロゲームチームに誘われたことをきっかけに高校を自主退学しました。

僕は家柄にも恵まれ、体格も人並み以上、勉強もスポーツも何をやってもそつなくこなし、同年代の周りの子達と比べて常に抜きん出ていました。
両親は幼い頃から僕のことを心から理解してくれていて、常に優しく寄り添ってくれていた。
学校生活のことや将来のことについても、僕の意思を第一に考え、尊重してくれた。

高校中退後のプロゲーマーとしての活動にも理解を示してくれ、暖かく見守ってくれたお陰で僕は全力で目の前のプロゲーマー活動に専念できた。
そんな僕は現在、両親をはじめとする周りのサポートもあり、幾つかのゲームの大きな大会でのタイトルも獲得することができ、プロゲーマーとしてそれなりに名前が知られるようになったのだが、ある日ふっと何もわからなくなり、形容しがたい虚無感に苛まれたのです。
こんなに周りに恵まれている僕は、いつも自分のことばかりで、そう急に何も分からなくなったのです。
気付いたら僕は無性に幼馴染達に会いたくなり、数年ぶりに連絡を取っていました。


アキラとワタルは何も聞かず僕の誘いに応じ今日一日を共にしてくれた。
数年ぶりに再会した僕たちは行くあてもなくぶらぶらと地元の街を移動しながら、お互いの近況を報告しあっていた。
話題の中心は主に僕が高校を中退してからの高校生活のことや、その後の受験や大学での新生活についてであったが、実質引きこもりの僕は二人へ報告できる話題はなく、自然と二人の話題に耳を傾け、相槌を打っているばかりだった。
そんな僕に気を使ってくれた二人は僕の活躍のことを交互に話題にしてくれていた。
僕の活躍を聞く度に自分たちのモチベーションになっていた、なんて優しい嘘を聞いた時、僕は何と返していいか分からずに、ただアキラとワタルは夢を叶えるために立派な大学に入って凄いじゃないか、そんなしょうもない返ししか思いつかない自分を恥じたりした。

やがて幼い頃によく三人で遊んだ砂浜へと辿り着き、不思議なことに僕たちは一日中しゃべり続けて歩き続けたとは思えないほどに疲れていなかった。
今日の最後であろうその時間、なんとなく辿り着いたその場所、まるで青春ドラマのように海辺の砂浜に三人で座り、誰からともなく口々に話題が潮騒にあわせるように滑り出し続けていた。
この場所のせいなのか、もうすぐ訪れる別れを偲んでのことか、久しぶりに童心に返ったことによるノスタルジックな感傷のせいなのか、話題は尽きることはなかった。

「きょうは、ありがとう」
今日一日ずっと言いたいと思っていた言葉が、とめどなく押し寄せる話題の隙をついて唐突に僕の喉から押し出された。
しかし肝心のセリフも空気を読めない一際大きな潮騒のせいでそのほとんどがかき消されてしまった。
幼馴染の二人は笑顔のまま、え?と聞き返す素振りをしたが、僕はもう一度言う勇気が出せず、関係のない話題を切り出して誤魔化してしまった。
そんな自分を恥じらいながら盗み見た二人の横顔は、正面から真っすぐに夕日に照らされ、僕のここ数年の心のもやもやさえも拭い去ってしまうようだった。
幼い頃から変わらずに優しい二人の横顔に向けて、あえて現在進行中の話題を遮り、僕は潮騒に負けない声でこう言うのが精一杯だった。

「ほんと、君たちって、ちゃんっっとしてるよなっ」
僕がそう言うと、三人同時に自分の内側から何とも言えない笑いが込み上げてきて、夕日に向かって一斉に笑ったのだった。
そして笑いながら僕たちは誰からともなく立ち上がり帰路の方へと歩みはじめた。


そんなよくある風景に飽き足りたように、でもどこか名残惜しそうに、浜風が海から吹いてきたかと思うと、浜辺には夕日に照らされた三人の影が潮騒に押されるように低く伸びやかに伸びていた。


「ウルト、今日はほんとうにありがとうな」
いつだって、二人は僕よりも優しい。

若者の日常をテーマにした投稿コンテスト「#2000字のドラマ 」投稿作品

プロフィール

私、那須ノの簡単な自己紹介となります。
惹かれたら是非ご覧ください。


いつも本当にありがとう。 これからも書くね。