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猫達 そしてアラムは

春の爽やかな日差しを受け
アラムは、身支度をしている。
最近、会社には出社せず直接打合せの
場所に向かう毎日。

ヤンホンと会う毎日が続いていた。
ヤンホンに頼んで先方の購買責任者に
Contactする段取りをしていた。
しかし、段取りが進んでいると思っていたのは
アラムだけだった。

ヤンホンは、詳細に渡り新製品情報を
アラムからとった。
そしてすべての製品仕様の詳細はヤンホンの
手に渡った。
彼から得られる情報が尽きていた頃だった。

紹介してもらうはずの中国大手EVMakerの話など一向になかった。
アラムは、それでもヤンホンを疑う事はなく
完全に信じ切っていた。

恵まれた環境の中、苦労知らずで順調に生きてきたアラムには、中国の黒い社会の存在など知る由もなくヤンホンという美女の手玉に取られていた。
それは見事なハニートラップだった。

情報を取りつくされたアラムは、
手足を縛られたままドラム缶の中で
セメントをこねる男たちの姿を
震えながら見ていた。
奥のテーブルにはヤンホンが笑顔で男に抱かれ
白酒を飲む姿が微かに見えた。

そして、ドラム缶は漁船に乗せられ、
深い海に沈もうとしていた。

沈んでいく最中に大きな光が海上に突き抜け空高く跳んだ。

日本の片田舎でニャーと黒猫の赤ちゃんが一人で鳴いた。
それは、黒猫アラムだった。

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