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母の目に映るバスキア

まくら

note2日目です。

まだ使い方がよくわかっていません。

でも、すごく心地いい。だって、誰にも指図されないし、誰にも叩かれないし、怒られないし。

noteでは現実の知り合いとは誰ともつながっていません。

そもそもつながる気もないのです。SNSって、つながる(つなげられる=つなげさせられる)ツールとして意識すると、その途端に疲れるツールになってしまうので。

noteは「疲れない」ツールとして、自由に発信していこうと思っています。

でも、SNSはともかくとして、世の中には程よい疲れなら、進んででもしてみたい疲れもあります。

今日はそんな「程よい疲れ」のお話です。

突然発動したアンテナ

私の母は70歳を超えています。数年前から呼吸器を患い、自由に外出できなくなった父を介護していますので、毎日が苦労と心労の連続です。ですから、実年齢よりかは少し老いて見えるかもしれません。

私も両親と同居していて、父の介護を手伝っていますので、私も実年齢より老けて見られているのかもしれませんね。

私はアートを鑑賞するのが趣味の一つなのですが、そんな心労の多い母を少しでも癒せてあげられたらと、アートに限らず、いろいろなところで見聞きしてきた日常のあれやこれやを話してあげることにしています。

そんな母がある日突然「バスキアの絵って見てみたいねぇ」と言い出しました。

今まで母とバスキアについて話したことは一度もなかったので、まず母が彼を知っていたことに驚きました。

それに、母も介護の毎日で自由に遊びに行けず、積極的にどこかへ行きたい、などと意思を見せることはもう何年もなかったので、言われた私の方もとても驚きました。と同時に、母がまだそのように世の中のトレンドにアンテナを立ててくれていたことについて、嬉しくもありました。

それで、善は急げで、その日のうちに二人で出かけたのです。父は寝たきりではないので、多少一人にしておいても、それですぐ大事に至る、というわけではありません。何かあったらすぐに連絡するようにと伝え、六本木へ向かいました。

123億 vs 70歳

正午過ぎに六本木ヒルズに到着。平日でしたが、混んでました。

私はここへ来るのは2度目ですが母は初めて。せっかくだからと、展望台のチケットも買い、まずはそちらへ。

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美しい東京。早起きをして気持ちのいいあくびをした時のような、とても透明感のある青空です。

東京には空がない、と誰かが言ったそうですが、とんでもない、こんなに広くて瑞々しい空があるではありませんか。

しばし二人で都会を見下ろし、絶景を堪能してから、いざ本丸のバスキア展へ。

母がバスキアについてどこまで予備知識があるのかわかりませんでしたが、絵を見ながらぼつぼつと語る母の言葉を聞くうちに、彼がハイチ系アメリカ人であることと、若くして亡くなったことだけは知っていました。それだけ知っていれば十分です。

バスキアの作品がこれだけたくさん、一堂に会するのはそうそうありません。まさに壮観です。もう室内がバスキアのスピリッツで蠢いています。ゴッホの糸杉のように、のたうち回っているのです。

私自身はだいぶ昔、もう20年は昔だと思いますが、都内のどこかの美術館でバスキア展を見たことだけは覚えています。その頃たしかシュナーベルの映画「バスキア」もやっていて、それも見ました。バスキアに触れるのはそれ以来なので、なんだか、懐かしい旧友に再会したような感覚に捕らわれました。

細かな作品についての印象や感想は割愛しますが、やはりひときわたくさんのギャラリーに取り囲まれていたのが、ZOZO前澤さんが123億円で購入した作品です。

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123億というフィルターがかかってしまっているというのもありますが、2メートル四方に近い大きさもあいまって、まさに「迫りくる」感じでした。

そんな、猛獣のような、それでいて異形の紳士、のようなこの作品の前で、老いた母は一人静かに絵と対峙しています。あるいはバスキアと対話していたのかもしれません。

私には、そんな母とこの絵とが、一対のセットになって、バスキアの作品のように感じてしまいました。

溢れるほどの素晴らしい才能を持ちつつも、あっけなく27歳で旅立ってしまった一人の青年を、東北生まれの素朴を絵に描いたような老いた母が、慰めていたのかもしれません。

私はそんな母を、少し離れた距離から、静かに見つめていました。

あと何回、今日のように母と二人だけで出かけられるかは、まさにバスキアの人生のように予測不可能です。

いろいろなものを見せてあげたい、美しく、感動するようなものに触れさせてあげたい、そう思った、令和最初の11月。

「疲れたけれど、行ってよかったね」

「次いつ見られるかわからないしね」

-end-


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