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「春雷」〜宗教二世の青春〜

           立花 隼人 著
「最悪の夜」
青春ほど楽しく、充実した時代はない。そして青春ほど切なく、哀しく、残酷な時代もない。
隼人はその青春の真っ只中にいた。

昭和61年3月、新幹線新駅開業に向け掛川市には街中に活気が溢れていた。
隼人も転勤を重ねて、ようやく掛川での生活に慣れた頃である。
そんなある夜…

隼人は待ち切れずアパートの一室を出、階段を駆け下りた。そして通りへ。
夕闇を過ぎ辺りは次第に闇を深めていく。
「まだ来ないのか…」
隼人は一人呟いた。先程アパートの一室で見た光景が、フラッシュバックしている。
それと共に耳にした「グーッ」と言う声とも音とも分からないものが耳から離れない。
「どうして?なぜ?あんなことを…」
たまらず溢れそうな涙をこらえながら、
隼人は自問自答していた。
「大通りに出よう!」意を決し歩みを進める。
知らぬ間に「ポツリ、ポツリ」と雨が頬を濡らし始めた。
「雨か…」
辺りに街灯は少なく、闇は広がるばかりである。
隼人の待ち望む音はいつまでも聞こえず、
遠くで、雷鳴が響いていた。


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