見出し画像

藤原基央の背中は彼の生き様を映す

※この文章は「BUMP OF CHICKEN TOUR ホームシック衛星2024」広島公演2日目(3/21木)のネタバレを含みます。


ホームシック衛星2024 広島公演2日目、3曲目に披露されたのは『ラフ・メイカー』だった。私はツアーのネタバレや事前情報を全く把握していない状態で広島公演に臨んでいたので、まさかラフ・メイカーが聴けるとは予想もしておらず藤原さんが歌い出した瞬間に思わず「まじかぁーーー…!」という声を漏らしてしまった。突然の独り言に隣の席の方はびっくりしたかもしれない。(なお、別の記事にまとめようと思っているが、私は1曲目の歌い出しと同時に嗚咽を漏らして泣き始めたので、その経緯も合わせて隣の人に迷惑がかかっていなかったかとても心配である。)

兎にも角にも、大好きなラフ・メイカーを予想外のタイミングで聴くことができてテンションが上がりまくっていた私だが、今回のラフ・メイカーの演出で最も印象に残っている場面があるので書き留めておこうと思う。

2番のサビが終わり、間奏を抜けると「二人分の泣き声遠く」という歌詞とともに楽曲はCメロ区間に突入する。歌詞は以下の通りだ。

ドアを挟んで背中合わせ しゃっくり混じりの泣き声
膝を抱えて背中合わせ すっかり疲れた泣き声
今でもしっかり俺を 笑わせるつもりかラフ・メイカー
「それだけが生き甲斐なんだ 笑わせないと帰れない」

ラフ・メイカー / BUMP OF CHICKEN

このCメロの演出が最高だった。Cメロの冒頭「ドアを挟んで背中合わせ」という歌詞を藤原さんが歌い始めると、今までメンバーそれぞれやバンド全体を”正面”から映していたカメラが、突然藤原さんの”背中”を映し始めたのである。(正確には、あるカメラは正面、あるカメラは背中をそれぞれ撮っていて、どのカメラの映像を液晶ディスプレイに映すのかを決めて操作している方がいるのだと思う。)私の記憶が正しければ、ライブが始まってから、藤原さんの背中が画面に映るのは、これが初めてだったと思う。

私はこの粋な演出にぐっと来てしまった。思わず「うわぁーー背中映すのずるーー」と声を漏らしたほどである。隣の方度々申し訳ない。

まず第一に、「背中合わせ」という歌詞に合わせて、その歌詞を歌う藤原さんの背中を映すという、歌詞と映像の連動性が最高である。視覚と音楽が同じ方向を向くことによって、楽曲の世界観への解像度が一段階上がり、全身でラフ・メイカーという曲を感じることができた。これは音源だけでは絶対に体験することのできない、何もかも考え抜かれて準備されたライブツアーだからこその体験だったと言えるだろう。

そして次に、実はここからが本題なのだが、私は藤原基央の背中が大好きなのである。本題というわりに薄っぺらい告白から始まって申し訳ないが、どうか読み進めて欲しい。

事の始まりは、昨年のライブツアー「BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there」の和歌山公演に参戦したときのこと。ちなみに私はbe thereがBUMPの初ライブであった。私はこのときちょうど花道を垂直に眺めるような位置のスタンド席、つまり彼らがメインステージにいるときは斜め前から、センターステージに移動した時は斜め後ろから彼らを眺めるような席だった。和歌山公演では1曲目の『アカシア』を含め冒頭の楽曲たちがセンターステージで披露されたのだが、私はアカシアを歌う藤原さんを斜め後ろから眺めながら、歌声よりもなによりも「力強い背中だな」と思ったことが強く記憶に残っている。

藤原基央はとても細いうえに猫背だ。「細い」「猫背」という要素だけ切りとったら、どちらかというと頼りない背中に分類されてしまうと思う。けれど、藤原基央の背中は、力強く頼もしい。細いうえに猫背なのに、いや、もしかしたら「細い」ことも「猫背」なことも含めて頼もしくみえるのかもしれない。私たちに歌声を届けるためにマイクに向かって丸める背筋、長年愛用するレスポール・スペシャルを支えるストラップがシャツに作る皺、奏でる音楽に合わせてリズムを刻む後ろ姿。そんな”バンドマン”の背中に、二十年以上BUMP OF CHICKENの音楽を鳴らし続けてきたという自信と誇り、目の前にいる私たちに音楽を届けたいという気迫、常にトップランナーとして邦ロックを牽引してきたバンドマンとしての経験、そのすべてが重なる。だから私たちの目に映る藤原基央の背中は力強く頼もしい。そこに彼の生き様がみえるからだ。

だからこそ、「ドアを挟んで背中合わせ」という歌詞とともに藤原さんの背中が映された時、私はとても高揚し感動した。ラフ・メイカーが24年前に生み出された曲だということもあわさって、長年藤原基央が、BUMP OF CHICKENが、積み上げてきたものが、彼の背中を通して垣間見えた気がしたのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?