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Column #29 逃走本能

5/15は宮城県角田(かくだ)市での"田んぼライブ"(強風などのため実際はビニールハウスにて)だった。2日間の旅を終えて自宅に帰宅したのは0時過ぎ。Quinkaとの共演だったので、3月の愛知県知多市のときもそうだったが、7歳の息子も連れての家族旅行も兼ねて。帰りはパーキングエリアに設置されているシャワールームを借り、その場で夕食と歯磨きも終えて、息子を寝かせながら帰ってきた。こんな旅もたまには楽しい。

その息子が、田んぼで獲ったカエルをどうしても飼いたいというので、3匹ほど家に持って帰ってきた。小さなアマガエル2匹と、大きめのトノサマガエル1匹。アマガエルのうちの1匹はオスのようで、車のなかでたまに「ゲコッ」と泣いていた(メスは泣かない)。こんなに遠くまで連れてきてしまって、ごめんよ。

車から旅の荷物や楽器をすべて下ろし、ある程度片付け終わった1時半くらいに、Quinkaと缶チューハイをプシュッ。今の自分はめったに飲まないが、長い行程を終えたこの日ばかりは。

おっと、今のうちにカエルたちをちゃんとした容器に入れねば。自宅にあった大きめの虫かごをベランダから持ってきて、カブトムシ用に使って余っていた草の生えた土のシートと、カルキを抜いた水で水辺も作り、その環境に一匹ずつカエルたちを迎え入れる。自分が担当したのだが、すぐに高々とジャンプするので、いずれもササッと素早く移動させた。

ふー、なんとか終わった。自分は欲張って買った2本目のハイボールに移る。するとQuinkaがつぶやく。「あれ...…、2匹しかいない。」え? と思ってその虫かごを覗く。大きいのと小さいの、あともう1匹きれいな緑色のアマガエルがいたはずだ。まぁ、土の中や草陰に隠れているのだろう。

それから少し経ち、時刻は2時半になろうとしていた。明日も仕事があるし、そろそろ寝ようかと思ったそのとき、リビングのテーブルの上を、あの緑色のカエルがピョーン!と飛び跳ねた。その瞬間を見たのはまず自分で、「あー!いたー!」と叫ぶ。それを聞いてQuinkaまで小さくジャンプ。カエルはさらに床へと軽やかにダイブし、隅の方へとどんどん逃げる。でもなんとか10秒後には捕まえていたと思う。

虫かごに入れ、3匹そろったカエルたちを見てホッとして、そのあとはしばらくふたりで大笑い。こんな深夜に大騒ぎをしている自分たちにも笑えた。ああ、とにかく無事見つかって良かった。角田市でのライブや田んぼの風景も良かったけど、おまけの思い出が出来たなぁと思った。

我が家のなかで何かが脱走するのは、これが最初ではなく、何度もあった。かつてはザリガニだ。海洋性の餌をよく上げていたせいか、身体が次第に青く変色した、立派な大きさのアメリカザリガニ。金魚用の水槽に入れて育てていたのだけど、Quinkaが水やポンプを交換すると、たいてい蓋の締まりが悪くて、その隙間をこじ開けてよく逃げた。

そのうちの一度はこれまた深夜、自分のスタジオで鍵盤で何かの曲の作曲か編曲をしているときに、足元のサスティンペダルのすぐそばで、青く輝くザリガニが両手のハサミを向けながら、こちらを見上げていた。「ヒエッ!」と小さく叫んで、キャスターの付いた椅子ごと後ろにズサーッと後退。ビックリしすぎて鼓動が止まらない。リビングの水槽からここまで7メートルくらいあったが、よく歩いてきたものだ。

それなりに凶暴だし挟まれるのが怖いので(掴むのもいまだに下手)、割り箸でつまんで戻した。こんなことが3回くらいあって、そのたびに耳の中を「ヒン、ヒン」というヒッチコックの「サイコ」の音楽が流れたものだ。たまったものではない。今回カエルがピョーンと跳ねたときもびっくりしたけど、ザリガニに比べれば可愛かったし、耐性が付いていたのかそんなに怖い思いはしなかった。

どじょうもそうだ。いや、これはいまだにミステリー。わりと長いあいだ何匹か育てていたのだが、寿命や環境不足などで最後の1匹になり、それでもしばらくのあいだ餌をやり続けては眺めていた。それがある日突然、いなくなってしまった。このときの水槽に逃げ出せる隙間はひとつもなかったと記憶している。仮に逃げたとしても、まわりをいくら探してもいない。ニュルニュルと遠くまで移動しそうもないし。酸素ポンプのモーターに絡まってしまったかとも思ったが、そうでもなかった。

そのことをきっかけに、1st Album「青木慶則」にピアノだけのインスト曲「どじょんこきえた」が生まれた。「ハットピンレディオ」のエンディングトークの終盤、最後の曲がかかる寸前にいつも流れている、あのピアノの曲だ。

音楽的な解説をあえてすると、左手ではコードのルート音を引かず、あえてすべて3度や5度で進行していき、右手はシンプルな和音の刻みが基本でありながらも、ジャズっぽく濁らせたりしている。独特の浮遊感があって、気に入っている。青木慶則のロゴを編集したSKG・助川誠くんによるMVも、Eテレっぽさがあってまた面白い。

とにかく我が家では、生き物を飼えば必ず逃げる。単に僕もQuinkaも子供の頃に何かを飼った経験があまりなく、飼育が下手なだけだけど。だから犬や猫なんて飼った日には大変だろう。

カエルの話に戻ると、Quinkaが虫かごをさらに最適な環境に整えてくれた。カエルは生き餌が好きなので、生きた(小さな)コオロギをペットショップで買ってきたり、ついさっきも息子とふたりで近所のダンゴムシを捕まえてきた。生肉を紐で揺らして食べさせるのも良いが、やっぱりコオロギやバッタが一番好きみたい。

それでも3匹は我が家ではキャパオーバーな気がしたので、アマガエルの2匹は息子の友達ふたりに譲った。残り1匹、ひときわ大きなトノサマガエルが、今も我が家にいる。また逃げ出さないでくれよ。逃げたとしても、鍵盤を弾いている足元には間違っても来ないように。ペダルと間違えて踏んでしまったら、"猫踏んじゃった"の歌のようには済まない。

部屋の天井の隅を見上げる。もしそこに小さな隙間ができたら、自分は今の生活から逃げ出してしまうだろうか。ザリガニやカエル、どじょうだったら、人間みたいに逡巡したりはしないだろう。

生存本能イコール逃走本能。好ましく無い環境、例えば辛い人間関係、ブラックな職場などからはすぐに逃げ出そう、そういう考えが今は人間界にも広まってきている。だから今いるカエルには、良い環境を常に整えてあげたい。どうしても難しくなったら、この辺りの生態系を崩さないようなどこかに、お引越しかな。