見出し画像

生徒のための業務で、目の前の生徒への個別対応ができなくなる - 教員時代の記録【009】

 私がかつて公立の高等学校で働いていた時に感じたこととして、勤務時間内には到底終えられない業務量の仕事を抱えると、生徒への細やかな対応ができなくなってしまう状況について書きました。

人物重視の入試が増えている

 私は工業高校で6年間、普通科高校で2年間社会科の教諭として働きました。進路指導部に所属していたことと、3年生の教科担当になるのが多かったことから、学校全体の面接指導に加えて、面接や小論文の添削を個人的に請け負う機会がたくさんありました。

 最近では、AO入試や公募制推薦入試での「人物重視」の評価をする入試が活発に行われており、それはとても良いことだと考えています。しかし、受験人数が全体に比べて少ないことから、それに対応できる仕組みがまだ学校にはありませんでした。そのため、夏を過ぎたあたりから「AO入試」や「公募制推薦入試」の志望理由書や推薦状の依頼、面接や小論文の準備を生徒は基本的に自分で進めていかなくてはなりません。

 毎年夏休みに入る前に、生徒から「面接や小論文をどのように準備して良いのか分からない」という話を聞いていました。
 面接や小論文は、自分の考えやこれからの自分の生き方と向き合うことができる大切な活動ですそのため、3年生で面接練習や小論文の添削を希望する生徒は、全員請け負うことにしていました。

個別の生徒対応で業務がパンクする

 秋の面接・小論文対策、センター試験や私立大学の対策、国公立(2次)試験対策(主に小論文)など、受験に向けての準備が本格的に始まり、その年の夏から翌年2月までは、充実しながらもかなりハードな日々でした。
 私は1年生の担任でもあったので、その間「授業づくり」や「学年・分掌の業務」と同時進行で仕事をこなすことは、かなりハードです。昼休みと放課後は、事前にアポを取ってもらった個人面接や集団面接、小論文の添削に充てていました。

 ただ、授業の空き時間と勤務時間の前後を使って授業準備やその他の業務をこなしていたので、月の残業時間が数ヶ月間100時間近くになってしまい、管理職から注意されることもありました。
 もちろん働きすぎてしまうと健康上危ないのは百も承知です。その都度、生徒に直接影響の少ない学校内の業務整理を訴えたのですが、こちらの業務の管理ができていないと言われてしまい、とても残念な思いでした。

 私としては、子ども達のために日々業務をしているのであり、個別の生徒対応の時間が最も大切だと考えていたので、業務が忙しいからと言って生徒を追い返してしまうことに、大きな矛盾を感じざるを得ません。

私たちの一番の仕事は一体何なのか?

 生徒が授業の質問や進路の相談に来た時に「なんでこんなに忙しい時に来るんだ」と同僚の先生が言っているのを聞いて、思わずハッとしました。
「でも生徒は先生に話を聞いてほしくて来てるんですよね。嬉しいことじゃないですか。」と声をかけ、その先生自身が抱えている業務へのストレスよりも、生徒との時間が幸せなものだと気づいてほしくて、同じようなことを何度も伝えるようにしました。

 学校の先生は管理職も教員も業務が忙しすぎて、きっと冷静な判断ができなくなっているのだと思います。そんな中で、業務をゆっくり見つめ直す時間を見つけることはほぼ不可能だと言えます。

 一緒に働いていたある若い先生が、授業をもっと良いものにしたいと日頃から勉強熱心で、授業でもいろんな取り組みにチャレンジしていました。
 その先生が論述式の試験を作成し、採点で時間がかかっていた時に、管理職から「そんな採点に時間のかかる試験を作るから時間外勤務の時間が長くなるんだ」と注意を受けたそうです。私はとても悲しい気持ちになりました。
 もちろん慣れていない他の業務の効率が悪い部分があって、改善すべきこともあるのかも知れません。業務が溢れているこの現場でそれを整理するのではなく、時間外勤務の時間だけを減らそうとする管理職からの対応に、その先生は不安を覚えるようになっていきました。

 「主体的対話的で深い学び」や「思考力・判断力・表現力」を養う教育をこれからやっていくのであれば、これまでの分掌業務と部活動や委員会の業務に挟まれながら、授業の準備や授業外での生徒対応、テスト作成や採点をすることは不可能だと感じます。
 それならどうすれば良いのか、どの業務を削るのかなどは学校全体で話し合うことができれば良いのですが、議論としてはなかなか前に進まず、これまで通りの業務にさらに新しい業務が重なっていくという印象がとても強いです。

巨大化・複雑化した組織での業務改善はかなり難しい

 組織の巨大化、複雑化が進行すると業務の改善が難しくなります。私も毎日とても忙しく何とか改善できるところは改善していきたいと考えてはいましたが、どの業務を削るべきかの提案がうまくできず困惑していました。どの業務も生徒の活動に関わっているので、業務の整理は管理職によるリーダーシップの下でみんなで決めていかないといけません。
 しかし、業務内容の複雑化、あるいは働き手の思考停止によって、議論や合意形成がなかなか図れないのが現実だと思います。
 私も全体の業務改善に関してはどこから提案して良いのか分からず思考停止に近い状態でした。複雑に組み上がってしまった学校組織の業務は、まるで複雑に絡まってしまった糸のように解くことが難しいのです。

 現場の人間だけでは実現が難しいこともあるかもしれません。ただ、本当に何が大切なのか、その大切なものを守るために何をどう変えていかなければならないのかをじっくりと考え話し合う時間がまずは必要ではないかと思います。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?