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 今日の午前中、これまでの授業で使ってきた資料を整理していると、今年3月末にIBDPの「日本語A:文学」で行われた「個人口述」試験のためのサポートをした時の資料が出てきました。
 IB生のサポートは私にとって今回が初めてでした。最終試験であるPaper1(今年はPaper2は実施されず)の対策の他に、「個人口述」に向けたサポートもさせていただきました。特に「個人口述」では、それぞれの作品で分析したことを抽象化し、それをテーマに合わせてさらに考察を深めていく必要があり、そこに魅力を感じています。


「個人口述」試験の問い

 生徒が設定したグローバルな問題が、学習した2つの作品の内容と形式を通してどのように表現されているかを分析します。
 つまり、これまでに学習した2つの作品を選択し、それらに関してどちらの作品にも見られる「グローバルな問題」に関連したディスカッションを求められるということです。

作品の選択方法

 1つは学習している言語で書かれた原書、もう1つは翻訳作品であることが必要です。
 また、他の試験問題で使った作品を使うことはできず、口述試験で使用した作品は他の試験で使うことはできません。

試験に持ち込むことができるもの

 口述試験では、生徒が発表するための暗記の必要性をなくすために以下のものを持ち込んで良いとされています。

・それぞれの作品から、グローバルな問題の存在を表す40行以内の抜粋
・最大10点までの箇条書きされたアウトライン

「グローバルな問題」とは?

 「グローバルな問題」とはどのようなものなのでしょうか?
 言葉からも推測できるように、<国境を越える広範な規模で日々の生活に影響を及ぼすようなもの>だとされています。
 「グローバルな問題」は、その対象となるテーマ自体を広く捉えることができるので、日頃ニュースや記事を見ていて自分が興味のあるトピックから、私たちが暮らすこの社会の中で国際的に問題になっていることと関連させて考えると設定しやすいと思います。
 いくつかテーマの例が示されていますが、その範囲で決める必要はありません。
 「グローバルな問題」というのは、関心のあるテーマを設定することができますが、自分が設定しようと思うテーマとこれまで読んできた作品のテーマを照らし合わせることが難しいかもしれません。
 これまで学んできた作品について、「学習者ポートフォリオ」に詳細に記録されていれば、テーマの選定と作品の決定は円滑になるように思います。
 そのため、予めある程度関心のあるテーマを候補としていくつか設定しておき、これまでに学習した作品のうち「個人口述」に使用できるものから、<日本語の原文で書かれた作品>と<翻訳作品>それぞれの作品のテーマをよく振り返りながら、テーマを絞り込んでいくことが重要だと考えられます。

どのような観点から評価されるのか?

 試験問題の種類によって評価の項目や配点などが設定されていますが、主な観点はどれも同じです。そのため、試験の準備や練習をする時は評価項目をよく見ておくことも重要になります。

「個人口述」の評価: 4 つの観点 
① 作品やテクストについての理解

② 抜粋部分と作品やテクスト、またはグローバルな問題と抜粋部分の内容の関連性
③ 構成のバランス、焦点を絞った一貫性のある内容
④ 言葉遣い、語彙などの表現力

 これらの観点から、それぞれの達成度に合わせて点数がつけられます。

「個人口述」試験の魅力

 IBのカリキュラムとしては当たり前の考え方かもしれませんが、日本の国語教育を受けてきた私にとって、一度学習した作品やテクストを、他の作品やテクスト、あるいは試験で課されたテーマと比較しながら、それらが示す意味についてもう一度深く考えたり、私たちが暮らす現実の社会について深く考える機会を与えてくれることが魅力的でした。
 また、事前に用意した内容を単に覚えて発表するのではなく、自分の言葉で議論を組み立てて、テーマについて論じることによって、日頃のディスカッションなどの言語活動に加えて「表現力」も鍛えられます。

 私の国語の授業に関する記憶(約20年前にはなりますが)といえば、正解が決まっている「文章の読解」までで終わってしまっていたように思います。
 ただ、時代の変化とともに社会が変わり、それに伴って教育の内容も変化するものです。そのため、当時私が教えられた勉強の方法が悪かったと言いたいわけではありません。
 しかし、20年前に比べると社会はさらに大きく変化しており、現在では学習した知識を活用して思考を発展させていくことができる「自立した個人」が求められています。
 作者や作品の示す意味を統一的に理解して終わらせるのではなく、一度学んだ作品やテクストの意味や概念を他の学習に応用させることで、広く物事を捉える力が身に付くのではないでしょうか。

 IB全体で言えば、答えが1つではなく、生徒1人ひとりがどのように考えて自分なりの結論に至ったのか、そのプロセス自体を評価できるところに魅力を感じます。

IBの評価方法に出会ってから、私が公立高校の世界史の授業で実践については、以下の「国際バカロレア(IB)を知って、公立高校の社会科で授業をどのように変えたのか」でまとめております。何かの参考になれば幸いです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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