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【第19話】(続)移住先で「祭に参加する」ということ

◇お囃子、舐めたらあかんぜよ

 やったー! 笛、笛ですよ!! ピロピロピロ~。

 来週、獅子舞の傍らで竹笛を吹かせてもらえることになったのだ。しかも横笛。アニメ『忍者ハットリくん』で、ツバメちゃんが吹いていた憧れのアレですよアレ!! そのイメージだけで身悶え歓喜する80年代生まれの女。

 しかし、世の中甘くない。実際やってみると、かなり難しいのである。

 運指はそうでもないが、とにかく音が鳴らないのだ。フルートを吹いたことある人は分かると思うんだけど、息を細~く吐きながら穴の縁にうまくぶつけていく感じがなかなか要領を得ない(しかもウチの集落は、全メロディが1オクターブ高い音で構成されているという上級者コース)。小学校でやったリコーダーのノリでかかったら、痛い目みますぜ兄貴。「フルート知らねぇ」という人は、ビール瓶の縁に息を吹きかけてめちゃくちゃ高い音を鳴らし続けることを想像してみてください。

 さらに難儀したのは、リズムが変拍子であること。現代ポップスの定番である4拍子じゃ全く追えないのである。もう「環境」の一言に尽きる。ジャズの裏打ちと同じで、そのリズムの中で育まれてきた人たちには到底叶わないっす……。

 予想外の八方ふさがりであったが、獅子部隊のリーダー(っぽい人)に見限られたら最後、二度と表舞台に返り咲くことはないであろう。だって相撲と同様、本来なら表舞台に立てるのは男オンリー。ただでさえ性別でビハインドをとってますからね。だから、初日の一日二日すげぇ頑張りましたよ。おいら、みんなと一緒にお囃子やりてぇだ。あんなに力入れて練習したのは、十数年前の部活以来かもしれない。

 崖っぷちの底力で、とりあえずメロディは吹けるようになった。2人とか3人で合わせた時に共鳴する感じとか、ぞくぞくする。これで少しは役に立てるかな。諸先輩方は、戸惑ったかもしれないけど温かく迎えてくれた。ほんと有難いこってす。


◇そして祭の初日がやってきた

 ついにやってきた、島全体が祭に染まる2weeks、初日!

 どういうワケか、よその集落(「盛(さかり)」といって、酒豪の人が集っている)の酒盛りにお呼ばれしてました。集落を練り歩く獅子舞や神輿衆に、こうやって酒やご馳走を振舞う家が何軒もあるのだが、この邸宅の主がわたしの書いてる移住日誌のファンでいてくださったそうで…。うへー、恐縮です。

 獅子を舞うオトコはカッコイイ! 振る舞うオトコもカッコイイ!

 人間は生き物です。生き物の優劣は肉体が決めます。脳みそだって結局は肉です。地を這うように、天に翔びたたんばかりに、肉体が踊る。熱が伝達する。10代20代の頃は、インドア系めがね男子に興奮しておりましたが、あのころ島にホームステイ(?)してたら、オトコの趣味変わってたかもしれないなぁ。

 (御振る舞いをした家からは、こんな風に見える。写ってないけど外にはたくさんの笛や太鼓、神輿の人たち)

 さっき、島出身の方から「どうしてそこまで、ここの祭に魅かれるの?」と聞かれたのだった。

 はて、どうしてでしょうね。よくよく考えてみたら、自分の育った土地(埼玉県の団地街)にはこういう本気の神事がなかったからかもしれない。お祭りといっても、子供会などが出す屋台で飲み食いしながら、ちょっと盆踊りを踊るという娯楽思考のやつでさ。この島の祭にふれたとき、土と水と自分の体が繋がっているという感じがして、血が湧いたんだ。この匂いをまとった人を眩しく感じたんだよ。

 深夜0時。どうしても見たかった口総(くちすぼ)地区のお祭りだ。炎は1本道ではなく十字になっており、神輿の男たちはひたすら赤く染まった道を進む。

 実は、おととい祖母が亡くなった。だから、明日もお祭り見たかったけど、ちょっとの間、埼玉の実家に帰って喪に服してきます。来週、再び笛を手にしたとき、今とはまた少し違う心境で吹いているのかもしれない。

                               (続く)

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