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「ローマの休日」と、通信社記者

夏休み中ということもあり、箸休めのような話題を。

「ローマの休日」は、1953年に公開されたアメリカ映画の名作として知られます。

ヨーロッパのある国の王女がローマを訪問中、滞在先から抜け出し、偶然出会った記者と、互いに素性を明かさないまま、1日限りのデートを楽しみ、恋に落ちるというストーリーです。

アン王女を演じたオードリー・ヘプバーンさんの高潔な美しさは、世界中の映画ファンを魅了し、アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞しました。

さて、今回、話題として取り上げたいのは、グレゴリー・ペックさんが演じたジョー・ブラッドレーさんの職業です。

ブラッドレーさんの肩書きは、「アメリカン・ニュース・サービス」という架空のアメリカの報道機関のローマ支局記者。いわゆる海外特派員です。

日本では映画の公式パンフレットを含めて「新聞記者」と説明することが多いのですが、私は「通信社記者」が正しいのではないか、と考えています。現在のAssociated Press(AP通信)を想定しているとみています。

なぜ新聞記者ではなく、通信社記者と考えるのか?

英語の"news service"は「通信社」と訳すのが一般的です。

通信社は、英語で"news agency"とも書きます。実際に、ある都内の高校の英語の教科書では、「ローマの休日」を教材として取り上げ、ブラッドレーさんについて下記の説明をしています。

He worked for a news agency as a reporter.

正解を探しにネットサーフィンをしたのですが、「ローマの休日」の英語版公式サイトは見つけられませんでした。

ニューヨーク・タイムズが最近、この作品に言及した記事では、新聞記者や通信社記者を包含する"journalist"(ジャーナリスト)という単語を使っていました。

英語版のウィキペディアは an expatriate reporter for the "American News Service"(「アメリカン・ニュース・サービス」の国外在住記者)として、新聞記者なのか、通信社記者なのか、明確にしていません。

以前投稿したnoteでも書いたのですが、通信社は「ニュースの卸(おろし)」と言われます。自社媒体を持たず、新聞やラジオ、テレビ、ヤフーといったネットメディアなどに、ニュースを配信しています。それぞれの媒体が、通信社のコンテンツを掲載するかどうかを判断します。

では、海外特派員は、ブラッドレー記者のような経験をする可能性はあるのでしょうか。

映画でブラッドレー記者がアン王女と出会った場面は、職業に関係ありませんが、クライマックスシーンの記者会見は、ブラッドレーさんが特派員だったからこそ、出席する機会を得られています。

私は2017〜21年にニューヨーク特派員として米国に駐在した際、取材対象は経済分野でした。日本の代表的な報道機関の一社として、米大手IT企業から多くの記者発表会に招いていただきました。日本のメディアでは共同通信だけ取材機会を得られたこともあります。

インターネットの登場で、誰もが情報を世界中に発信できる時代になりました。ただ、報道機関に所属していると、個人ではなかなか会えない取材先から直接話を聞く機会に恵まれています。このチャンスを読者の代表として生かすかどうかは、その記者次第です。

ブラッドレーさんの「通信社記者」に話を戻します。もしブラッドレーが特ダネ記事を書いたらどうなったでしょうか。

おそらくアメリカン・ニュース・サービスの配信先とみられるニューヨーク・タイムズやワシントン・ポストなど、米国の多くの新聞で掲載されたでしょう通信社は世界的なネットワークがあります。提携先の日本の通信社を介してコンテンツの提供を受けた日本の新聞の一面も飾ったかもしれません。

最近では、安倍元首相の事件で、共同通信の奈良支局に所属する記者が撮った現場写真は、通信社のネットワークを通じて、ニューヨーク・タイムズやフィナンシャル・タイムズといった海外の主要メディアで掲載されました。

ロイター通信を介して、共同通信の写真を掲載したことを説明するニューヨーク・タイムズ(2018年)

自分がブラッドレー記者だったら、アン王女の記事を書いたでしょうか。

きっとアン王女に職業を明かさなかった負い目も感じ、配信しなかったと思います。でも、もし競合他社が記事を続々と出したら、と考えると、、、。東京の本社から問い合わせが相次ぎ、「追っかけ」記事を書きそうです。。

取り止めもない話題で恐縮です。日本ではあまり知られていない「通信社記者」について、「ローマの休日」を鑑賞しながら、少しでも身近に感じていただければ幸いです。

(関連リンク先)



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